54話 アスタルトは人外にとって住みにくい国
朝から快晴。みんな一張羅っぽい派手な格好してて、いつもの公園広場は溢れんばかりの人の群れでごった替えしている。
密度が生半可じゃない。この辺りの地区以外とか、街外からの来訪者も数多くいるのだろう。
今日から始まるお祭りはあと数日続くらしい。今日以外は参加するつもりないけど、だって危険だし。
目につくのは人間ばかり。人族至上主義っぽい国柄が色濃く反映されてる。平常時ならちょっとくらい亜人も見掛けるんだけど今日は皆無。祭りのテンションで排斥が暴徒化するかもしれないし警戒するのも当然か。
でもプラスの一面もある。なんだかんだ経済効果は凄い。数えただけで百以上の屋台が軒を連ねてて、どの店も大繁盛、というか客が途切れなくて捌ききれない。戦争の爪痕が生々しい、普段の空気感が微塵もない盛況っぷりだ。
屋台の強面おじさんの元だって勿論そう。次から次へとお客さんの波が押し寄せ、留まることを知らない。
家族総出でなんとか対応してるよう。奥さんは挨拶したことある(挨拶したのはリリファさんだけど)。
息子さんが駆り出されてるのは初めて。今年10歳になるらしい。まだ子供なのに大変だ。でも私より背が高いのは、まあ私は縮んだし。
みんな大変だろうけど書入れ時だし是非とも儲けてほしい。
「嬢ちゃん達、あんま大通りから離れないようにしなよ。傭兵見習いつっても、嬢ちゃん達みたいなのは悪い奴らからしたら格好の獲物だからな」
そう、ですね。気をつけます。
串焼きのお肉とティルを交換。ようやく一段落し会話する暇が出来た、と思ったらすぐにまた団体客の群れが現れた。
邪魔したら悪いから離れた場所で食べる。ベンチはどこも満員だから樹木を登って避難。こういうとき猫型獣人って便利だな。
悪い奴ら、ねぇ。
頬張りながら眼下を眺める。治安情勢は未だに不安定。というか良かった頃でも日本とは程遠い。
普段私が街で出歩くのは、ナルシュ君の洋服屋さんやこの公園周辺くらい。
比較的治安がマシなこのエリアですら、私とリリファさんだけでは狙われる危険性が高いので必ず大人の男性であるお兄様やランキスさんが同行してくれてる。
そんな大人数で行動するときすら、隙を狙って誘拐しようとしてくる輩が今まで2組いたのだから恐ろしい。
一応私だって鍛えてる。リリファさんとの訓練は毎日欠かさず取り組んでるし、今だってガントレットを隠し携帯してるから襲われたって対処できる。
そんじょそこらの悪党なら数人相手でも返り討ち可能。睡眠薬を用意されたら微妙だけど、そっちも薬品を嗅いだりして耐性獲得に日々勤めてる。
けど抑止力が足りない。悪党からすれば、しょせん私達は子供。ナルシュ君や遥かに強いリリファさんだってそう。
それはお兄様達も例外じゃない。ランキスさんだって筋骨隆々だけどステータスに見合う筋肉量じゃない。人数で上回ってたら与し易いと判断されてしまうだろう。
アスタルトは人外にとって住みにくい国。ミステクタ狩りから始まった悪夢の奴隷制度も最近は鳴りを潜めてるものの。もし住居がお兄様の元でなかったら外国に安息を求めて旅立ってたかもしれない。
一方オランタさんはプンプン怒ってる。
さっきおじさんに保護者扱いされたとき肩をバシバシ叩かれてたからかな。まあ私含めた他3人は子供だしね。
「もう、デリカシーのない人ね! でも豪快なところも素敵」
恋多き乙女だなあ。にしてもお兄様達は来れなくて残念。会談の打ち合わせが佳境に入ってるらしくって。どんな話してるんだろ?
「ああ、アリス、アリス……」
何も飾られてない石壁に向かってブツブツと奴隷の名を呟く。視線の先には公園広場。
カニエ爵は不気味そうにラズウェルの奇行を眺めているが、こればかりは慣れてもらう以外に方法がない。
王城の応接室。俺とラズウェルとウェルザーの3人でカニエ爵らと1時間ほど向かい合ってる。
「では今後の予定を改めて纏めましょう」
「う、うむ」
明後日、馬車で。ここアスタルト首都であるヴァルカンを出立。1ヶ月後アスタルトと『元』ミステクタ首都のホテルにて、今後の国家運営の方向性を決める会談を行うと決定した。
ミステクタは想定以上に強気の要求をしてくると思われる。リリファが蟲で仕入れた情報によると敗戦条約の破棄すら主張してくるすらあるらしいのだ。
金属製品の加工に長けたミステクタの技術力はとても貴重な存在。蒸気帝国やフィガロは勿論のこと、最近ではエルフの里や獣王連合までもがミステクタ支持を公言して憚らない。この会談、結果の如何によっては他の諸外国も味方するに違いない。
奴隷制度を敷いている国家は数あれど。ミステクタ狩りがいかに愚かな政策であったか証明するようなものだ。
なにせ人族至上主義の象徴とも呼ばれる聖堂教会ですら態度保留の姿勢を崩さないのだから。
パワーバランスはミステクタ側へと圧倒的に傾いている。我々は植民地支配に成功した戦勝国だ、などと愉悦に浸っている余裕は無い。
カニエ爵もそれは重々承知の上。極めて慎重な舵取りが求められ、失敗すればアスタルト滅亡すらありうる。成程カニエ爵がまた痩せてる訳だ。
もっとも愚王や大多数の貴族は、未だ妄想に囚われているようだが。置かれた現状を甘く見積もり過ぎている。
更なる植民地支配の拡大とか目論んでいるとかいないとか。
そもそも会談準備の殆どをカニエ爵ら数名に任せて、自分らは高級娼館やらグルメやら芸術品やらに散財しまくってる時点でもう駄目かと。
あの馬鹿共がギロチンに掛けられない限りアスタルトも永くないだろうな、せっかくウェルザーが孤児院を開いたのに無駄になっちまう。
と、打ち合わせでずっと黙ってたウェルザーが口を開いた。
「カニエ伯爵の御尽力によって当院の子供は幸せに暮らせております。心から感謝しています」
「うむ。今後も貴公の働きに期待しよう」
やっぱ神父なんだなウェルザー。なんだかんだで凄く誠実だ。中身はアレだが。
孤児院なぁ、メシ食わせて寝床用意するくらいしか想像出来ないけれども。子供らも色々な意味で大変だろうが、めげずに立派に成長して欲しい。
「子供だけでなく此度の永い戦争によって飢餓に苦しむ者は数多くおります。畑を失った農民や品物を失った商人、それから家族も家も手足も喪った者を何人も見てきました」
「最善を尽くそう。被害分布図も受け取った。出立までに手配を進めていく」
「ありがとうございます。カニエ伯爵の御心に深く感謝するばかりです」
深く深く礼をした。そろそろ下がる頃合いか。
この国にも随分と知り合いが増えちまったからなぁ。ちぃとは応援してやるから頑張れよカニエ爵。




