50話 次なるお仕事
迎えに来たランキスさんにお兄様を任せて詰所を出た私たちはのんびりと帰宅中。
きっと今晩のお兄様は激しいのだろうなと想像できる。体力温存しとかないと。
そして帰り道。私はまた小声でお願いしてみた。
リリファさん、あのね。戦闘以外の技能もいろいろ覚えていきたいの。サバイバルで役立つこととか。
最初にまず性的なのは否定する。手指のハンディキャップはあるけれど、キャンプとかで役立てるようになりたいってのをアピールしてみた。
リリファさんは予想以上に困った顔してる。うんわかるよ。自分でも面倒くさくてネチっこい嫌な性格、みたいな分析はしてるもん。
「奴隷たるもの、まずは本懐を為すべきではないかしら?」
その通り。でも私だって覚悟を決めてるよ。私だって考えなしに相談してるんじゃない、ちゃんと熟考したうえでのだから。
私は奴隷なだけじゃ駄目だから、もっと別の役割が必要だから、それを見出したくて。でも自分じゃ見出せなくて、リリファさんしか頼れなくて。
「そうよね。そうよね、奴隷なだけじゃ駄目なのよね。そあ、当たり前か」
リリファさんにも伝わってくれたかな。
「私もそうだったわ。蟲毒を極めてくれればいいってランキス様は仰ったけれど」
リリファさんはふと呟いた
「私だって家事全般なんてエルフの集落にいた頃は、全て使用人がやってくれてたのよね最初の頃は酷かった。習熟するまで随分ランキス様に迷惑を掛けてしまった。今ではいい思い出。ランキス様にとっては嫌な思い出かしら」
ん、使用人?
リリファさん、もしかして良家のお嬢様だったのかな。
奴隷へと転落した経緯はこないだ聞いた。ヒトの襲撃、誘拐、家族皆殺し。普通なら発狂しててもおかしくない。
でもそうならないのは、主人であるランキスさんの影響だろうか。
字面ほど酷い境遇ではないし、てかランキスさんに結構ふてぶてしい態度で接してるけれども。
エルフの里、リリファさんの故郷。いつか訪ねてみたいな。
「うーん招待できるほど誇れる里ではないのだけど。寧ろアリスの故郷に興味があるわ」
私の故郷、か。
もし万が一帰還できる機会があっても、異世界からは離れないだろう。
少なくとも日本は私にとって、あまり住み心地の良い環境ではなかった。
「アリスを受け入れない国ならば私が向かう価値もないかしらね」
リリファさんの憂いを帯びた表情は、どうしてか印象深かった。
そんな風に公園でのんびり雑談してると。
「リリファさんにアリスさん、ご一緒に休憩していいですか?」
オランタさんとウェルザーさんが戻ってきたよう。紳士と黙ってたらイケメンの人だ。昨日会ったばかりなのに印象に残りやすいな。
「ホント鬱陶しいわーあの蟷螂貴族! アタシに発言権無いどころか終始蔑んだ視線を向けてくるし。今度ほっぺたつねってやるわ」
カマキリ、となると太っちょなカニエ爵とはまた違う貴族と交渉したのか。あのカニエ爵が比較的まともと評されるんだし、他は推して知るべしか。
「そうそうリリファさんアリスさん、新しい依頼ですよ」
「まだ確定してないんだけど、たぶん受注することになるでしょうね。これ以上は往来でする話じゃないわ。屋敷に戻りましょ」
チームランキスの次なるお仕事。
ってのはミステクタとの会談に参加することらしい。
それって傭兵団の仕事なの?
と思いきや、やることは交渉中に側で威圧感を出して、話し合いを有利に進めさせることなんだって。
もっと分捕るつもりなのかと思いきや目的は友好条約を結ぶことらしくって。
どゆこと?
たしかミステクタは植民地化したとかって。属国なのになんで友好条約? 普通の人なら疑問に思うだろうけど。
リリファさん曰くまあ色々と深い事情があるようで。
ミステクタには戦争こそ勝利したものの、それによって得た戦果はごく僅か。
そんな愚かな戦争によって国はどんどん荒れていってるんだけど、どうやら昨今更にヤバい状況が差し迫っているよう。
実はミステクタは国際的な信用がとても高くて、敗戦してもなお味方する国々が多いらしくて。
加えてアスタルトがつい最近までやってた、いわゆる『ミステクタ狩り』に対して国際的な批判が高まっており。このままだと諸外国と結託してアスタルトを逆に侵略しかねないのだそう。
それで会談、と。
ミステクタはとっても外交上手、というよりアスタルトが杜撰すぎやしないか。
諸外国との関係も悪いようだし。今までいい加減な国政を行ってきたのやら。カニエ爵がまともな貴族扱いされてる時点で推して知るべしだろう。
挙句の果てに日和見に走るくらいなら戦争なんてしなきゃいいのに。
「ずいぶん辛辣な意見ね。好きよそういうの。ねえアリス、今晩もベッドの上で愛を交わしましょう」
リリファさんは恍惚な表情を浮かべながら、今日も絶好調だな。
Hなコミュニケーションに慣れてきたんだよね最近。減るものじゃないし多少なら。でもお兄様を放っておくとヤバいからまた今度ね。




