49話 下半身を露出させた青年
「アリス、一時でも離れたくないよ」
お兄様は昨日からずっとこんな調子。お風呂や寝るとき一緒なのは同じだけど、昨日は私のトイレまで一緒だった。
排泄を間近で見られるのは流石に恥ずかしいかも。べつに嫌じゃないけど外では控えてほしいなぁ。
小さなため息がランキスさんから漏れてる。
昨日のストーキング騒動で疲れたみたい。うんまあ疲れたよね。詰所の兵士さんとか受付の人にまで頭下げてたし。
筋骨隆々でヤンキーっぽい第一印象だったけど、最近はすっかり面倒見のいい長男ポジションに収まってる気がしてならない。
職業柄やっぱり心労の絶えないんだろう。……昨日に限っては原因100%お兄様だけれど。
ングスさんは明日の未明に去っていくらしい。
名残惜しいけど、大自然の守護者みたいなポジションらしくって。あんまり森を離れる訳にはいかないそう。
「なあングス。もっぺん聞くけど心の片隅にでもさ、ウチに入団したいなんて想像が浮かばないか」
「断る。人とは交わらん」
「残念。せっかく貴重な常識人枠が増えてくれると期待してたんだがな」
なんでもランキスさん、ダメ元で結構説得してたらしいってリリファさんが言ってた。
わりと切実な表情が印象深い。野生のドラゴンに一般常識で負けてる団員って、うーんノーコメントで。私自身が問題児カテゴリーに入らないよう自省しないと。
「あー、アリス。武器、造っといたぜ」
ングスさん任務ですっかり忘れてた。てか型取りして数日で完成って早いなあ。
ランキス邸の地下一階、ここに来るのは二度目。元倉庫だった場所に、工具みたいなのが一杯棚にある。
大量の製鉄が転がってるわりに溶鉱炉は無いけど、きっとランキスさんの能力なら必要ないのだろう。
でまあ、ランキスさんが木箱から取り出したのは。ガントレット?
実際に生で触ってみるも奇妙さがよくわかる。一般人の初見なら戦闘シーンが浮かばず途方に暮れることだろう。まあ私は別だけどね。
こんな変なのどんなRPGにも、うーん海外のマイナーゲー探せばあるかもだけど。
にしてもいいなあコレ。この手首付近からの刃しっくりくる、攻守に切り返しにと汎用性が高そうで素敵だ。収納可能だから取り扱いも便利だし。
武具が活躍する機会なんてないほうが幸せ、なんて理想は語っちゃいけない。
日本じゃないし、日本の平和だって警察や自衛隊の人とかが身を呈して護ってるんだし。
治安が悪化してきてる街の売れっ子傭兵団に、そんな甘っちょろい発言は許されないのだ。
これさえあれば私もいよいよ貢献出来るようになるだろうか。
ランキスさん家でお昼をご馳走になって、そして新しい武器を貰っちゃって。
そして午後。
ナルシュ君がいつもの訓練時間になっても姿を見せない。几帳面なナルシュ君が遅刻だなんて珍しいな。
虹色の蝶々がリリファさんの指にひらひら舞い降りた。鱗粉でなにやら伝えてる。
「ふうん、ナルシュから伝言よアリス。彼は今日、来れないわ。トリガーが風邪を引いたから看病してるそうよ」
私達もお見舞いにいった方がいいのかな。
「そうねぇー」
「オランタ姐さんも来ますか」
「これからウェルザー様とランキス様とで用事があるの、ゴメンなさいね。仔猫ちゃん達の回復を祈るわ」
「ウェルザー様とランキス様? またカニエ爵からの依頼かしら」
あの貴族関連か、心証は悪いけど仕事だし割り切ろう。金払いの良い有料顧客らしいし。
「さあねぇ。ところで! あの子って恋人はいるのかしら。好みのタイプだし是非とも確認したいわね」
おおう、性的に狙う気満々だ。良かったねナルシュ君、ひとまず肛門を辱しめられずに済んだよ。
でも完治したら時間の問題だけどね! って、なんちゅーコト考えてるんだ私。
「アリス、とリリファさん。ごめん今日サボっちゃって」
「気に病まないで」
洋服屋さんの2階。お見舞いに来たけどトリガーは心配してたより大丈夫そうで良かった。美味しそうに小魚を食べてるし。
運悪く母親猫を亡くしてしまって天涯孤独の身になってしまった可哀想な仔猫。ナルシュ君に命を拾ってもらえた幸運な仔猫。
なんだか境遇似てるよね、私もリリファさんもナルシュ君も。つい重ねちゃう。
「失礼、ちょっといいかな」
見舞いの帰り道、昨日の兵士さんに話し掛けられた。
年齢は40代半ば、面長でさほどイケメンではないけど年齢が年齢だし結婚はしてそう。
夫婦で誓いの指輪を交わす習慣とかないから微妙だけど。
しかし何だ2日連続で警察に呼び止められるなんて。今日は全く心当たり無いよ。
「下半身を露出させた青年が君をストーカーしているという通報があってね、というか昨日と全く同じ通報があってね。とりあえず来てくれ」
……、アッハイ。
あの、お兄様。
せめてその、露出させるのは屋敷とかトイレのとき限定にしたほうが。
「済まない。アリスを想っていたら我慢出来なかったんだ」
身元引請人のランキスさんが到着するのを待ちつつお兄様を説得する。効果薄そうだけど。
「あー君達。アスタルトの英雄を痴漢で2度も捕縛するなんて、こちらとしても気が引けるんだ。君らだって醜聞が広がるのは困るだろう」
本当ゴメンなさいとしか謝れない。




