45話 え。 連れて、くの?
「面倒くさいから討伐すんのヤだ」
いやちょっと待ってマジで何言ってるのランキスさん。
寝惚けてるんじゃ、ないよねぇ? うーん疑いたくなる。
こないだ私が誘拐されたときなんかが典型例だけど、ランキスさんって戦闘モードだと一切容赦なくって。
ただオフの状態だと怠けてて不真面目で、傭兵団長って肩書きがあんまり似合わないんだけど。
あのー、今はオフじゃないんだよ?
ングスさんも困惑しているみたい、毒気を抜かれた表情してるし。
そりゃそうだ。討伐しにきた傭兵団と対峙するドラゴンなんて構図、RPGとかなら一番盛り上がるシーンじゃないか。
この異世界にゲーム機なんて無いけど、それでもシチュエーションの重要性は全世界共通なハズ。
だというのにランキスさんは剣を抜くどころか面倒だからヤだと抜かす始末。
うーむランキスさんって肝が据わってるんじゃなく、ただの阿呆なのではと勘繰ってしまう。
『巫山戯ておるのか』
先程よりもやや怒気を帯びた口調、いや殺気と称すべきなのも孕んでる。
極めて当然の反応だろう。此方に灼熱ブレスの先制攻撃を仕掛けてくるかもしれないし、反論の余地もなさそう。
対してランキスさんは冷静で鋭い眼差し。
寝惚けてはなさそう、仕事モードだ。
駆け引きもへったくれもない、あの発言に一体どんな意図があるのやら。わざと挑発して冷静さを失わせる、って作戦でもなさそうだしなあ。
うーん読めない。お兄様はどんな反応してるかな。
お兄様は隣に並んでるけど微動だにせず静観している。
いや、汗、かいてる。
なんで? 春を迎えたばかりの山頂付近はむしろ寒いくらいなのに。そう耐寒スキルが仕事するくらいに。
そして突然、膝を地面についた。
ぇ。
、お兄様!
「すまないね心配させて。ただの立ち眩みさ、ありがとうアリス」
顔面蒼白ってほどでもないけど、でも額から沢山の脂汗が流れてる。
熱は、大丈夫っぽい。ランキスさんに任せてテントに戻らせよう。
『小さき生命よ』
呆れの混じった声色が頭上から降りてくる。一瞬、全ての状況を忘れてた。修羅場なんだっけ。
『フン』
ングスさんは鼻を鳴らす。仕草は妙に人間くさいな、でもまあ臨戦態勢みたいなのじゃなくなってる。
『用件を言え小さき生命よ。貴殿は儂の討伐依頼を受けた。だが貴殿はその依頼が好かん。かつ戦闘を避けたい。ならば望みはなんなのだ。言え』
「ングス、俺達と一緒にアスタルト王城へ向かわないか」
え。
連れて、くの?
街が素敵なことになっちゃうよランキスさん。ってか依頼内容と真逆だよね!?
『ホウホウ生意気な生命よ、王都を焦土にしてやろうか』
一転、凶悪な笑みを浮かべて物騒なコトを。でも一生に一度は言ってみたいよねドラゴンなら。
なんてーかランキスさん発言内容が変すぎて、寧ろングスさんに肩入れしちゃうな。こっちの方が理路整然としてるし。
ランキスさんは恐れることなく思い切り背伸びしたかと思いきや。肩から上の空間が途切れてングスさんの耳元まで首を運ぶ。
便利だなーソレ。端から見たらグロ映像、血飛沫は舞ってないけどね。そしてヒソヒソ話、どんなの喋ってるのかは遠くて聞こえない、ネコミミ駆使したら多少は聞き取れるかな。
『貴殿は単なる大馬鹿者か、脳の壊れた気狂いなのか、もしくは倫理の通用せぬ怪物か。一切の判別がつかぬわ』
一体どんなヒソヒソ話したんだろ。ングスさんはやけに楽しそうだ。
『善かろう。小さき生命どもの戯れにしばし付き合おう。ならば食事が終われば起こせ』
そう言うとングスさんは仔犬みたいに丸まって、あっという間にイビキしてる。えっ寝ちゃうの。
グー!
一瞬なんの音か判別出来なかった。空腹が、空腹なんだって理解出来なかったから。
リリファさんは朝食の準備をしていたみたい。そういえば朝なんだっけ。なんか目覚めの爽快感とか吹っ飛んじゃったよ。
そうだ。ついでの流れでお願いしてみよう。
あの、ングスさん
『なんだ、小さき生命よ』
完全に熟睡する前に、怒らせないよう恐る恐る会話に混ざる、勇気を振り絞ってみよう。
ステータスを鑑定させて下さい。
『……は?』
途端にングスさんの目が真ん丸になった。
さっきまで獲物を狙う、刃のように細く鋭い目付きだったのが標準サイズに開かれてる。漆黒の竜鱗に、灼熱色な瞳のコントラストが格好いい。
それはそうと、あー。本当に随分と、空気の読めない発言しちゃったかな。
でもだってドラゴンのステータス値ってとっても興味深いから。もしかしたらお兄様やランキスさんに匹敵、あるいは凌駕するかもしれないし。
知的好奇心は抑えるべきだったろうか、えーっとどう取り繕う?
『クククク』
ングスさんは本日最大の含み笑いを浮かべつつ。
『善いだろう善いだろう許すぞ、鑑定するがよいぞ小さき生命』
そう機嫌良く許可を出してくれたのだった。




