33話 私に出来ることってなんだろう
お兄様達と一緒に家へ戻ってきたら、玄関でナルシュ君が出迎えてくれた。
「アリス!」
ナルシュ君がお兄様に抱き抱えられた私を見てる。ナルシュ君の方が私よりもたくさん怪我してるみたいだ。
「……良かった、生きてて」
フーッと安堵してるみたいに脱力して、ナルシュ君の逆立ってた毛が落ち着いていく。でも身体じゅうに巻いてる血の滲んだ包帯がとても痛々しい。
洋服屋してる強面の店主さんが一緒に座ってる。2人とも私のためにこんな夜遅くまで心配してくれてたんだ。
「ひどい事されたり殴られたりとか、されてないか?」
ナルシュ君、大丈夫だよ。お兄様がちゃんと助けてくれたから。それよりナルシュ君のほうが。
「俺は大したことないよ。もう血は止まってるし。ちょっと殴られたけど骨までいって無かったしな」
……ナルシュ君は笑ってるけど申し訳ない気持ちでいっぱい。私はこんなにも、迷惑を掛けたんだな。
「情けねえよ、アリスが拐われそうになってたのに何にも出来なくて」
私はナルシュ君にすっごく感謝してるよ。
ナルシュ君がお兄様に教えてくれたんだね。私が誘拐されたってこと。
ありがとう。
そう伝えると毛皮越しでも判るくらいに、顔がリンゴみたいに紅くなってる。どうしたんだろ。
「あとそれから、ラズウェルさん。さっきはすんませんっした。なんか八つ当たりみたいに怒っちゃって」
「礼を言わせてくれ。君がいてくれたから、アリスの誘拐にいち早く対応できたんだ」
「でも、俺は」
「いやあ、それにしても良かった良かった」
ずっと心配そうにしてた強面の店主さんが、ナルシュ君の怪我してない背中を叩いた。
「この馬鹿が傷だらけで帰ってきたときは大層にビビりましたが。こんなに胆が据わった奴だとは思わなかった」
昼間より口調がやや柔らかい。
お兄様とナルシュ君の会話が暗い雰囲気になりかけてたから、努めて明るく振る舞ってるんだろう。
「感心しました。これだけ度胸があるならチームランキスに入隊させたいくらいです」
「入りたいんなら別にいいぜ」
「へ? 本当ですかい」
店主さんは半ば冗談で言ったんだろう。声のトーンも大体そんな感じだったし。
けどランキスさんは社交辞令とかじゃなく本気の眼をしてる。
えっ、ナルシュ君がお兄様の仲間になるの。
同じ獣人の知り合いはナルシュ君しかいないから、これから先も一緒にいられるのは、すごく嬉しい。
「チームランキスに入ったら俺は強くなれますか」
「それはまあ、ナルシュの努力次第じゃね。お前が本気だってんなら稽古くらい付き合ってやるし」
強面の店主は苦笑いだ。勝手にどんどん話が進んでいってるけどいいのかな。
でもまあナルシュ君はすっごく目をキラキラさせてるし、あれを遮っちゃうのはナンセンスだよね。
ぐー。
私のお腹がまたしても空気を読まずに主張する。大事な話の最中なのになあ。
そういえば何時だろう。もう夜になってからかなり経つよね。
「ったく今日はマジで仕事しまくったな。眠いってか腹へった。ラズウェル、なんか飯食わせてくれ。つかオメーらも食ってけよ。ラズって性格はアレだが料理は最高なんだぜ」
「いいんですかい、じゃあお言葉に甘えて」
「おい待て、俺とアリスの二人分しか用意してないんだが」
「いや食糧庫パンパンだったじゃねーか、二人でどんだけ食う気だったんだよ。固いこと言うなって、食材なら家から幾らでも持ってこさせるし。な、リリファ」
「はい。獣人用の最高級食材を持参しています」
ランキスさんの後ろで、いつの間にか大量の野菜や肉や調味料を胸に抱えてたリリファさんの、姿を見た瞬間に涎が溢れて止まらない。本能が、欲望が我慢できない。今にも飛び付きたい、衝動を押さえきれそうにない。
誘拐の事とか全てがどうでもよくなってくる程にお兄様、食べたいです。
「奴隷の、歓迎パーティーするって約束してたろ。せっかくだし今からやろうぜ」
お兄様とリリファさんはエプロンを着用してキッチンに入っていった。
ランキスさんは出来たら起こせってソファーに寝転がっちゃったけど。
ナルシュ君と一緒に傍の椅子に座りながら待ってるんだけど、2人とも料理がすごく上手なんだなあ。
料理を作るスピードが凄い。あっという間にステーキやサラダやスープが出来ていっちゃう。
私が日本で作ってたのなんかよりも遥かに美味しそう。
日本にいた頃から1人暮らしだったこともあって、あんまり料理に頓着はしなかった。
お兄様と一緒にキッチンに立てるくらいには上達したい。
ああでもこの手じゃあなあ。
……私が得意なことって何だろう。どうすればもう迷惑を掛けずに済むのだろうか。
ナルシュ君と一緒にお皿を用意したりフォークやナイフを出したりしながら考える。
私に出来ることってなんだろう。
「おまたせ。冷めないうちに食べて頂戴」
色々考えてたけどテーブルにたくさん並んだごちそうを見た瞬間。
グー!
……またあとで考えよう。




