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34話 いやある。私にしか出来ない

 食った食った。ボリュームある肉食ったのは久しぶりだ。

 ラズの作る飯はやっぱ最高だな。リリファの飯も不味くはないんだが、薄味で量も少ないのが困る。しかも野菜メインだし、あれっぽっちじゃ腹へって夜眠れない。

 

 健康の為とか言ってるけど、エルフの食習慣を押し付けてるだけじゃねーのか、なんか最近、主導権を奪われちまってる気がするな。まあいいけど。

 ラズの奴隷が食べてた肉も美味そうだったな。

 

 霜降りの最高級のやつ。噛んだら口の中でとろけて肉汁が口から溢れてたな。

 獣人は元からああいうのを主食にしてる種族らしいけど、俺もああいうのを腹一杯食べてみたいもんだ。思い出したら涎が出てきたぜ。

 

 ラズの奴隷は椅子に座ってボーッと微睡んでる。

 心ここに在らずってか、単になんも考えてないだけだろうな。ついでだし気になってたこと聞いとくか。


「おい」


 声掛けた途端にビクッと飛び起きてキョロキョロ見回してる。んで俺の顔見るなり怯えやがった。

 ……俺って外見そんなに恐ろしいかな、微妙にショックなんだけど。いやリリファのせいか。


 何かを伝えようとしてるのか知らんがクゥクゥとか細い声で吠えてるだけだ。

 ラズは兄妹だからともかくリリファは読心魔法で、あとナルシュって獣人のガキも身ぶり手振りで少しは解るようだが。俺にゃさっぱりだ。


 言葉を喋れないってのは不便すぎだろ。人間の共通語はともかく、獣人弁すら知らないなんて。今までどうやって生活してきたんだコイツ。

 反応はしてるし、こっちの言ってることも理解出来てるようだが。

 しかし、のほほんとした奴だな。


 リリファもそうだが亜人の女には美しい奴が多い。

 野性味と繊細さの両方を持ってて、顔も非常に整ってる。サキュバス以外の種族は、揃ってスレンダー体型で胸が小さいのが唯一残念なんだが、他は最高と言い切っちまえる。

 ラズの奴隷は、その中でも完全に別格だ。こんだけ美しい亜人の女はリリファ以外じゃ見たこともないし聞いたこともない。


 ナルシュが惚れちまうのも当然だろうな。

 それでいて自分の価値を理解してないのが困り物だ。こんなにも美しかったら、これまで求婚の一つくらいされてるだろうに。

 ボーッとしてるし無用心にも程がある。だからホイホイ誘拐されちまうんだろうけど。

 

 リリファも可愛いっちゃ可愛いんだが外では猫被ってるからな。

 つかこの奴隷いつのまにか涙目になってやがる。ヤバい、つか俺まだ何にもしてないのに窮地に立ってないか。

 

「まあなんだ、ラズの事よろしく」


 そういやラズ本人にちゃんと感謝、言ったことなかったな。

 ……ああもう面倒臭い、纏めて伝えとくか。

 

「妹がいるって知らなかったから、ずっとラズは天涯孤独の身だと思ってたんだ」

「キュ……?」

「色々と危なっかしい所がある奴だから将来心配してたんだよ。今後もラズを支えてやってくれ」


 キョトンとした表情。ちゃんと伝わってるのか?

 もういいや、帰ってさっさと寝ちまおう。言いたいことは全部言ったし寝よう。

 

「じゃあな、夜更かししないでさっさと寝ろよ」


 猫型獣人って夜行性だっけ。まあいいか寝よう寝よう。ん?

 玄関でリリファが待ち構えてた。しかも笑顔で。なんか今日一番の嫌な予感がするんだけど。

 

「3年目の浮気ですか?」


 ちょっと何言ってるか全然わかんないな。てか笑顔なのに目がちっとも笑ってない。

 

「それからアリスを泣かせた件について一晩じっくり言い訳を聞きます」


 アカン、これ完全にアカンやつや。

 徹夜確定だぁ、うちの奴隷って超怖い。

 

 

 

 ***

 

 

 

 美味しいものを沢山食べたパーティーはお開きになってしまった。

 後片付けが終わってから、お兄様とランキスさんはなにやら身支度してる。

 これから出掛けるらしいので玄関までお見送りすることになった。

 

「アリス、絶対にココを離れちゃ駄目だよ」

「リリファ、頼んだぞ。こいつに何かあったら俺の身がヤバいし」


 今回の事件を偉い人へ報告に行かなくちゃいけないらしい。

 警察かな。もう夜も遅いのに大変だ。

 

「ラズ一生のお願いなんだが、ゆっくり用を済まさないか」

「なぜだ。俺は1分1秒でもアリスの傍にいたいんだ」

「頼むよラズ。帰ったらリリファから説教エンドレス確定なんだよ」

「ラズウェルさん、アリスのこともありますから早めに帰宅して下さいね」


 リリファさんはにっこりと微笑んでいるのに対し、ランキスさんは妙に絶望的な表情してる。なんでだろ。

 お兄様とランキスさんは礼服みたいなのを着込んで屋敷を出ていった。

 この広い屋敷でリリファさんと2人きり。


 謝らなくちゃいけない。今日のことをたくさん。

 なあなあで終わらせちゃいけない。私はとてつもなく迷惑を掛けてしまった。

 それこそ償っても償いきれないくらいに。

 

「貴女が無事ならそれでいい」


 リリファさんは本当に心が広い。どうして私をこんなにも許容してくれるのだろう。

 ……聞きたいことが1つだけある。

 

 もっと親密な仲になってからするべき質問なのかもしれないけれど。

 リリファさんは、どうしてランキスさんの、奴隷になったのか。

 

「少し長くなるけどいいかしら」


 私はリリファさんやみんなのことをもっと知りたい。

 それにリリファさんと一緒にいると楽しいから、たくさんお話したい。

 

「ここからすごく遠い地にエルフの国があるのを知ってるかしら。私はそこの出身なの」


 4年前のある日。人族の盗賊団に、住んでた集落を襲われてリリファさん達は誘拐されてしまった。

 でも不思議だ。リリファさんは強い。寝込みを襲われたとかじゃない限り、そうそう負けないと思うんだけど。

 

「私が今、自分をはっきり強いと自負できるのは、ランキス様が鍛えてくれたからよ」


 鍛えてくれた?

 昔のリリファさんは私みたいに弱かったの。

 

「アリスの方がよっぽど強いわ。昔の私は、ひ弱な子供でしかなかった。一方的に搾取されるだけのちっぽけな存在でしか無かったの」


 森を焼き払われ、全てを奪われ、リリファさん達は奴隷商に売られた。

 両親と妹はリリファさんの目の前で殺され肉や臓器や骨などに解体された。

 

 森で暮らすエルフの体は魔力で満ちているため、人間は魔術具の触媒に加工するのだそう。

 家族は魔法の杖や鑑定石に加工された。リリファさんも殺される寸前だったらしいけど。

 

「ランキス様が私を買ってくれた」

「ランキス様は私に戦い方を教えてくれた」

「ランキス様は私の全て」

「ランキス様は私に存在意義を授けてくれた」

「この身の全てを捧げても、足りない」


 ……お兄様とランキスさんは今頃、国王にお願いしている最中かな。

 どこかの馬鹿貴族と違って、国王様はとっても思慮深いわ。だから御主人様のお願いを、きっと快く聞き入れてくれる。

 

 リリファさんがそう言うのなら大丈夫なのかもしれないけど。

 私はお兄様とずっと一緒にいたい。

 

 だけど、じゃあ私の役割ってなんだろう。

 はっきりいって戦闘では全く役に立たない。鍛えたら日の目を見るかもだけど、今の私はなんの取り柄もない獣人。

 

 ……。

 

 いやある。私にしか出来ない、お兄様に尽くす為の方法。

 覚悟を決めるべき。

 

 リリファさん。夕方にやったその、殿方を悦ばせる方法を、もう1度詳しく教えて貰っていいですか?

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