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30話 うちの奴隷、連れ去ったでしょ

 突然壁が蹴破られた。ギョッとしてムライトは振り向く。

 

「どもー、お邪魔します」


 のんびりした声が洞窟に響いた。

 数日前に会って話した、聞き覚えのある腑抜けたトーンは、どうしてか絶対的な恐怖を孕んでいた。

 

 杯をそっと机に置いた。元騎士団員、そしてゴブリンキャップのリーダーまでのし上がった勘が全力で逃げろと警告する。いかにして生存するか頭が勝手にフル回転する。

 ムライトは振り向いた。立っていたのは予想通りの肌の黒い大男だ。

 

 傍らのエルフ少女は見覚えないが、こんな場所には似つかわしくない美少女。

 2人は悠然と、ごろつき連中など全く恐れる必要はないと言わんばかりにのそのそと近付いていった。

 

「なっ、何だよお前ら、見張りはどうした!」

「見張りって、このオッサンかな」


 欠伸混じりにランキスが目線をやった先には、血塗れのズタ袋が2つ転がっていた。少女が鈎爪で引っ張ってきたせいか、2人が通った道には大量の血肉がこびりついていた。

 

「許さねえ。クソが、クソッタレが、絶対ぶっ殺す!」


 最近ゴブリンキャップに加入したばかりの男がランキスへと殴り掛かる。

 男に対してランキスは目を細める。次の瞬間、音もなく爆散した。

 

 赤黒い血の混じった煙が室内に充満する。この場にいる全員が、突然の出来事にただただ茫然とするしかなかった。

 ムライトの目にも男が突然爆死したようにしか見えなかった。


 いや。

 ランキスの肘より向こうが千切れ、肉塊となった男の胸から残りが生えている。


「ああこれ。どうも俺は馬鹿力が過ぎるみたいで、本気出すとたまーに空間ブッ壊しちまうんだ」


 空間を破壊? 何を言っている?

 爆弾や魔法の痕跡はない。刃先から新しい血が零れているから切り裂いたか、あるいは突き殺したのか。


 いずれにしても、こちらから仕掛けてしまった以上もう話し合いでの解決は不可能だとムライトは認識した。

 チームランキス。ムライトの頭に対ミステクタ戦争の記憶がよぎる。

 

 大方の予想通りミステクタはエルフの後ろ盾もありアスタルトを圧倒した。

 アスタルトの首都は陥落寸前だったが、最後の切札のために王は膨大な契約金を支払って、チームランキスを雇い入れた。

 

 僅か3日で形勢逆転どころかミステクタ王家の関係者全員を捕縛し、奇跡の大逆転を成し遂げた最凶最悪の傭兵集団、のうちの2人だ。

 決して開けてはならない禁断の箱、になぞらえてパンドラボックスとも呼ばれる彼らが、アスタルトに雇われたという情報を受けすぐさまアスタルトに鞍替えしたほど。

 そんな化物が敵に回るなど悪夢以外の何物でもない。

 

「毒蟲の苗床にするつもりだったけど、こんなにも状態悪いとどうしようもないわね」

「ミンチ肉にして毒虫の餌にするか」


 ランキスとリリファかつまらなそうに呟いた。あまりにも何気ない一言に、とある髭面の男は激怒した

 

「テメェよくもセルカを」

「傭兵やってんなら殺し殺されなんて日常茶飯事だろ、何パニクってんだ」

「舐めやがってクソ、ブッ殺してやる!」


 髭面の男は殴り掛かったが、その直後にランキスの一閃によって、頭頂部から股間まで真っ二つに割り裂かれた。

 

「ラルコ! ってめぇよくもラルコを!」

「ナメてるに決まってるじゃん。お前らみたいな臭くて汚くて弱い連中」

「んだと」

「むしろ楽に殺してもらえるだけ有難いと思えよ。ラズ来たら地獄より恐ろしいんだぜ」


 今にも総攻撃を仕掛けようとする部下を牽制しながらムライトは冷静に状況を分析する。

 いくら最凶の傭兵といえども相手はたっと2人。しかも内1人は年端もいかないエルフのガキだ。

 

 対してこちらは30人以上いる。ランキスはともかくエルフのガキを狙えばいい。

 たとえ予想外の実力持ちだったとしても、部下全員を盾にすれば、逃げ切るのは容易いだろう。

 ムライトの中で考えは纏まった。

 

「待てランキス、俺はお前達とやりあう気はない、話し、あい、を……」


 時間稼ぎのために注意を逸らそうとしたがムライトは最後まで喋れなかった。

 舌が回らず、唇が固まる。いや、身体が硬直して指先1つ動かせない。

 

 天井、床、壁。あらゆる場所で大量の蟲が這いずり回って、飛び回っていた。何匹かは男共の皮膚を食い破り、体内に卵を植え付けている。

 

「もう麻痺ったのかよ、抵抗力ねえな」

「ランキス、一体、いつから罠を張って」

「勘違いしてね? お前らは既に死んだも同然だよ。リリファの毒で」


 毒という言葉が頭をよぎった瞬間ムライトは思い出した。

 袖の一振りでミステクタ城塞都市を墓場に変えた、エルフの禁術を用いてあらゆる蟲を孕み繁殖させた、致死毒姫と呼ばれ恐れられる少女。

 

 そんな怪物みたいなガキがいる訳無い。どうせ与太話に決まってる。そう思い込んでいた。

 噂じゃなかったのか、決して敵対してはならない禁忌の存在。パンドラボックス。

 

「ああそうそう用件忘れるとこだった」


 この街に滞在していると聞いて先日わざわざ情報屋を雇って探した、あの時よりもっとフランクに。

 ラズウェルはまるで世間話の延長のように彼に話しかけた。

 

「うちの奴隷、連れ去ったでしょ」


 彼らと敵対してしまった理由。それは獣人の娘を誘拐してしまったから。

 嘘だろう、ムライトは一言呟いた。

 まさかカニエ伯爵に嵌められてしまったのか。

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