29話 悲劇のヒロインにでもなったつもりだったのかな
本当に見張りは1人もいないみたいだ。
罠だろうか。私を油断させるために泳がせてるとか。
可能性はあるだろうけど、そんなこと考えてたら前に進めないし。
遠くから怒鳴り声が聞こえてくる。酒盛りでもしてるのかなって最初は思ってたけど。
それにしては変だ。上手く言葉に出来ないけど喧嘩してる感じみたいな気がする。
よく解からないけど混乱に乗じて誘拐犯達から逃げ出すチャンスだろう。
遭遇はしたくないから逆方向の出口を探す。
逃げ出しさえすればお兄様は私を必死に探してくれているはず。
そうすれば絶対に助かる。
?
絶対に、絶対に?
私は何に疑問を感じたのだろう。
ああそうか。
私はお兄様に助けられるのを当然と考えてしまってるんだ。
自分が自分じゃなくなってた感覚がなんなのか、ようやく理解出来た。
悲劇のヒロインにでもなったつもりだったのかな。それってとてつもなく愚かなコトだ。
それは勝手な思い込みじゃないか。
ここはゲームじゃない、現実だ。
リセットやヘルプ機能の存在しない、現実なんだ。
異世界が私を殺しに来てるんじゃない。そんな考えすら愚か。
ただただ無干渉なのだ。現実は私たち兄妹のことなんか考慮してくれやしない。
ミスに対しての救済措置なんか存在しないんだ。
殺されないために死ぬ気で足掻いて、最善を可能な限り尽くしても、どうやっても運命を変えられなかった。そんな結末だってちっともおかしくない。
ある意味、日本と何ら変わりない世界じゃないか。
【聴力スキルがLVUPしました!】
【気配察知スキルがLVUPしました!】
【感覚スキルがLVUPしました!】
靴が砂利を叩く、そんな音が響く。遠くに人間がいた。
姿形から察するに、私を連れ去った誘拐犯達の仲間だろう。
キョロキョロと辺りを警戒しているが、幸いまだこちらには気付いていない様子だ。
巡回にしては変。なんか息を切らせているし。
地面に座って水を飲み始めた。相当に疲労しているっぽい。
遠くからは相変わらず叫び声が聞こえてくる。
一体、どういう状況になっているのだろうか。
【視力スキルがLVUPしました!】
【視野拡大スキルがLVUPしました!】
男は歩き出した。気付かれないよう、回り道しつつ背後にそっと忍びよる。
【隠密スキルがLVUPしました!】
背中の心臓がある辺りを掌で、全力で叩く。それだけで気絶してくれたよう。
【格闘スキルを習得しました!】
【強襲スキルがLVUPしました!】
傭兵崩れの腰からナイフを頂戴する。
錆びてて切れ味悪そうだが、丸腰よりはマシになった。
ためしに軽く振ってみたけど、やっぱり獣の手には馴染まない。グリップ部分がとくに微妙。
リリファさんは護身用にナイフくらいならって言ってたけど素手の方がいいのかな。まあ無いよりマシか。
【短剣スキルを習得しました!】
【窃盗スキルがLVUPしました!】
さっきからスキルがどんどん成長してる。ただ劇的に強くなったって気はしない。
そりゃそうだろう。本来はもっと何年もかけて、じっくり成長させていくものなんだから。技も、心も。
お兄様もこの世界に来た最初の頃はきっと、いや相当苦労していたに違いない。
私は諦めない、絶対に、またお兄様に会うんだ。




