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28話 カサカサ ブンブン

 カサカサ ブンブン

 

 ムライトは上機嫌にステーキを頬張っている。

 着込んでいる衣服は質素でも、ああ貴族なんだなと納得させられる。それだけの風格をムライトは備えていた。

 

「旨い」


 ミステクタ奴隷狩りなど小遣い稼ぎのつもりだったが、商人の護衛などよりよっぽど儲かると判断しすぐに方針転換を図った。

 結果は大成功だった。片っ端からミステクタ関連の生物を捕まえ奴隷として売り払う。それだけで大儲け出来た。

 

 とくにこの間の獣人の雄のガキはかなりの上物で予想以上に高く売れた。

 ゴブリンキャップを設立して以来、いや騎士団に所属していた頃よりも最近は金回りがいい。

 

 これが今風の傭兵稼業ってやつよ。

 中には旅人を襲うハイリスクローリターンな間抜け強盗や、あるいは街の雑用係に身をやつす乞食紛いまでいるが、そういう連中は馬鹿だ。

 

 少ない労力でいかに効率よく大金を稼ぐかが大事なのだ。理想ばかり追う連中はそれが解からない。

 しかしアスタルトも遂に狂ったか、同盟国であるミステクタに宣戦布告するなんて。

 

 その時点で既に相当イカレた政策だ。略奪なんて本来なら忌むべき行為なのだが、ミステクタ関連に限り公式認定された。

 アスタルトのお偉いさんは、とんでもない馬鹿揃いだ。うちの下っ端のほうがまだ物事をよく考えている。

 

 カサカサ ブンブン

 

 そもそも無意味な戦争だ。ミステクタは大半の土地が痩せて作物が育ちにくい環境である。

 どうしてそんな国が繁栄できたかというと、ミステクタは長い期間を掛けてエルフと親睦を深めたからだ。

 

 荒涼とした土地でありながらミステクタがここまで繁栄できたのも、エルフとの交易によって良質の野菜やら織物やらがもたらされたからだ。

 アスタルトは確かにミステクタに勝った。だがエルフに勝ったわけではない。

 

 エルフがアスタルトと交易など有り得ない。

 なにせ侵略を仕掛けた国だ。一部のエルフが誘拐されたとの噂もある。そんな野蛮国と交易など行うわけがない。

 

 脅迫外交からの戦争を挑もうにも、そんな余力は残っていない。それどころか今エルフ族と戦争したら100%負けるだろう。

 エルフは絶対数こそ少ないが個々の能力は人間を遥かに上回る。

 

 とくにエンシェントエルフは魔術に長けた精鋭が揃っているとのことだし、消耗しきっているアスタルトではどうしようもあるまい。

 この戦争でアスタルトは貧乏国に成り下がってしまった。戦果より支出の方が遥かに大きいのだから当然だ。俺が国王だったらこんな戦争なんて絶対に仕掛けなかっただろう。

 

 きっと兵士への報奨金はかなり控え目に違いない。当然、国民の負担も甚大だ。

 そして不平不満を逸らすために矛先を敗戦国であるミステクタに向けた。だがそれはあまりにも荒唐無稽なやり方だろう。

 

 こんなことを続けていたら治安はどんどん悪化していく。

 現にアスタルト国境に近いこの街には、彼らのような柄の悪い傭兵崩れが続々と集まってきている。

 既にヤバい状況になってきている。ずっとこんな馬鹿な政策を続けていたら1年後2年後どうなるか。

 

 俺らに指図していた野郎の上司はそういう発想が出来ないのだろうか。

 アスタルトも長くはないだろう。俺はそう結論付けている。なにやら今日行われた御前試合でもトラブルがあったらしいし。

 

 かつて生まれ育った国が滅ぶ、残念な気持ちで溢れるような気がした。首都の両親がやや心配なきがしないでもないが。

 いっそ本格的にミステクタ専門の誘拐集団になってやろうかとさえ考えてしまう。

 

 さすがにそれはないが。あと数年でアスタルトは間違いなく破滅するから、それまでにとんずらかます予定だ。

 そういやカニエ爵から頼まれた仕事が、実家の繋がりで回ってきてたな。一応まだ勘当されてなかったんだな。

 

 カサカサカサ ブンブンブン

 

 ここ数年帰ってなかったのに、実家も随分寛容なものだ。

 爵から連れて来いと言われた獣人はタイミング悪く売り払った後。もう2週間依頼が早ければよかったが、それは仕方ない。

 

 既に買手が見つかっている、きちんと登録された奴隷を飼主から拐ってこい、なんて無茶な依頼だ。

 理由は教えて貰えなかった、というか知る暇が無かった。

 報酬に目が眩んだ部下が事後承諾で勝手に請け負い、勝手に連れてきやがったからだ。

 

 まああの男は昔からアスタルトを栄えさせることしか頭にない、良い意味でも悪い意味でも真面目な貴族だ。そういう点では安心な仕事といえなくもない。

 とはいえ本来は極めてリスキーな仕事だ。勝手に仕事を持ってきた馬鹿は追放すべきだろう。

 

 決して厳しい処分ではない。許可無く仕事を請け負うのは禁止であると最初に説明したのだから。

 俺との約束、いや契約は必ず守らせる。そうしないと示しがつかない。

 

 貴族からの依頼はキッチリ裏情報を調べ、請けても問題ないと俺が判断した案件のみ。これは大原則だ。

 なにせ、ここの連中は全員が馬鹿だからな。

 

 能力を越えていないか、捨て駒扱いされないか判断してやらないといけない。

 ゴブリンキャップの代わりなど幾らでもいるのを、特に新人は自覚してないようだ。

 

 俺が貴族出身なのも悪い影響を与えてしまっているだろう。自分達は選ばれた、そんな間違っている意識を捨てさせないといけない。

 ……面倒臭いな。馬鹿共の教育はうんざりだ。

 

 カサカサカサ ブンブンブン

 

 この傭兵団も大きくなりすぎた。リーダーも面倒臭くなってきたし、そろそろ辞めちまうかな。

 まあいい、考えすぎは俺の悪い癖だ。折角の酒や肉が不味くなってしまう。

 

 にしてもさっきから鬱陶しいな。天井を見上げると蛾や蜘蛛が大量に這いずり回っていた。後で駆除するか。

 

 ***

 

 仮定の話ではあるが。もし彼がアリスについて下調べしていたなら、この依頼は絶対に引き受けなかっただろう。

 

 飼い主の名前はラズウェルで、彼はチームランキスに所属している。もしも詳細を知っていたなら部下をすぐさま打ち首にして謝罪に向かっていたことだろう。

 

 ムライト自身も致命的なミスを犯してしまっていた。だが残念ながらもう修正不可であり運命は確定してしまっていた。

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