27話 チンケな最下層集団
ムライトが加入した当初は、十人足らずの社会のはみ出し者集団でしかなく、下水掃除や戦場での死体処理など、他者がやりたがらない劣悪な仕事で日銭を稼いでいた。
良い仕事を持ってくるだけのコネクションはなく現状を変える能力もない、仕事を選べずなんでも引き受けざるを得ない、傭兵とは名ばかりのチンケな最下層集団でしかなかった。
とはいえ彼等の為に擁護すると、当時のゴブリンキャップだけが、特別に地位が低かった訳ではない。
数十年続いたアスタルトとミステクタの戦争は多くの犠牲者を生んだ。両親を亡くした戦争孤児も大量に発生した。
そんな可哀想な子供達を護ってあげるセーフティネットは存在しない。大半は飢え死にし、運よく生き永らえてもその後の運命は悲惨なものだ。
腕っ節があれば兵隊として雇ってもらえるかもしれない。知恵が回れば、あるいはそれなりの美貌があれば仕事も見つかるだろう。
だがそうでなければ。
弱くて頭が悪くて醜い大人はどうするか。才能の無い人間以下の屑で、何をやっても失敗ばかりする役立たずはどうすればいいのか。
答えは簡単だ。一生を蔑まされて過ごして無様に死ぬしかない。当時のゴブリンキャップはその程度の集団でしかなかった。
だがムライトが加入したことにより一変する。
腐っても貴族で元騎士。コネクションがあり、実力も十分、知恵も十分。
実力に長けた彼はメキメキと頭角を表していった。なんの変哲もないはみ出し物集団が屈指の実力派傭兵チームに変貌していくのに、さほど時間は掛からなかった。
相変わらず罪をなすりつけることを厭わなかった。
傭兵なんてチンケな仕事しか選べないような馬鹿を陥れるのは、赤子の手を捻るよりも簡単だった。
相手は平民かもしくは元奴隷。貴族連中と比べ罪悪感はさほど湧かなかった。
ここで頑張れば更に名声を得るチャンスであり、そして莫大な富を得られると息巻くリーダーを尻目に。
傭兵という仕事にも飽きてきたムライトはそろそろ抜けたいと思い始めていた。
彼は楽な仕事を求めていた。ムライトが努力したお陰で徐々に売れてきたのだが、そのせいで忙しくなったのでは本末転倒であった。
当時のリーダーは引き止めた。ただでさえ新入りにボコボコにされ、そのうえ期待のエースに独立されては求心力がガタ落ちしてしまう。
大喧嘩し、挙句の果てにどちらがチームを率いるに相応しいか、なんて話に発展した。
普段からリーダーをよく観察していたムライトには、鑑定スキルなど無くてもあんなザコは俺の足元にも及ばないと判っていたので。特に気負いすることなく数秒足らずで砂にした。
ようやくこの下らない組織から抜けられる、いやちょっと待て。
次に入る傭兵団だってどうせトップがバカに決まってる。
もう無能にこき使われるなんてまっぴら。だったら。
「今後は俺の方針に従え! ひたすら楽して金を稼ぐ手段を、お前らに教え込んでやる」
彼が牛耳るようになってからゴブリンキャップは急成長を遂げ、わずか数年でアスタルト屈指の傭兵団となった。
彼にとって仕事とは知力のバロメータであった。効率よくミスなく、かつ楽に仕事をこなせられる者こそが1番賢くて偉い。それが彼の持論だった。
ムライトがこの世で最も嫌いなもの。救いようのない大馬鹿野郎だ。
名声欲しさに自身のキャパシティを超えた仕事を抱える頭の悪い連中など見ているだけで吐き気がする。
中でも1番最悪なのはそんな奴が上司になってしまうことだ。
せっかく素晴らしい金儲けのアイデアを出してやっても、無視して低賃金のダルい仕事を押し付けるような輩とは絶対にかかわってはならない。それが彼の持論だった。
傭兵が軽視される理由の1つに、傭兵は馬鹿ばかりだという風潮がある。
出来もしない仕事を後先考えずに受ける、難しい仕事を安い賃金で受ける、契約書をよく確認しない。
中には字を読めないのに簡単に契約してしまい、失敗時にペナルティがあるのを失敗してからようやく気付く、そんな普通では考えられない馬鹿をしでかす者もいる。
傭兵にでもなれというのは武術を志す者にとって最大の侮辱であり、また救いようのない馬鹿の代名詞でもあるのだ。
数年前にはそんな風潮など存在しなかった。
各地を渡り歩く戦闘集団のプロフェッショナルという印象を誰もが抱いていた。実際きちんと普通に仕事をこなせる、普通の傭兵は今でも数多い。
しかし長く続いた戦争で治安が悪化したこともあり、教養も実力も態度も最悪な、盗賊まがいの傭兵がここ数年で一気に増えてしまった。それにより傭兵のブランドは地に落ちてしまった。
だが貴族の元騎士様が、傭兵団長の座を賭けて一騎打ちし圧倒的強さで勝利したことは、ムライトが想像していた以上に大きな宣伝効果があった。
ゴブリンキャップはやがて騎士団からも一目置かれるようになった。だが能力的に見てやや過剰評価気味なことを、ムライトは懸念していた。




