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23話 リリファ、緊急事態だ

 ふーん。

 ラズが昔のこと語ったのは初めてだな。

 

 今までラズについて深く考えなかったな。相棒として傍にいるのが当たり前だったし。ぶっちゃけ無口な奴だなって印象しかなかった。

 まあラズの過去なんて興味ないけど。俺の相棒には、強く賢いラズこそ相応しい。ただそれだけだ。後者のほうは妹の奴隷が来てからちょいと怪しくなってきたが。

 

「聞きたいのはそんだけだよ、時間とって済まなかったな」


 ってもういやがらねえのか。じゃあ俺もそろそろ本気出すか。

 

「おーいリリファ、さっさと返事しろ」


 つっても報告待つまでもなく、首謀者の目星はおおよそついてるがな。あのナントカ爵が、俺らのコトすげー睨んでたし。

 腹いせに誘拐したっておかしくない。そう考えたら原因アイツじゃねーか。

 

 ラズの奴、前から常識知らずだったけど。あの奴隷を買ってから奇行に走りすぎじゃね。

 まぁ愚痴っててもしょうがないか。メンドクサイけど、ほっといたらもっと面倒臭いことになりかねないし。

 

「リリファ、今何処にいる」

『下水施設の最下層エリア。それから実行犯も特定しました』


 おー優秀優秀、さすが大枚叩いて手にいれた奴隷。

 

「俺もそっち向かうわ。ちょっと待っててくれ。……何だ?」

『いえ、ご主人様が焦るなど珍しいなと思いまして。そんなにアリスが気になりますか』


 よくわからん理由で切れるのはやめろ、お前以外の女を戦闘奴隷に買う予定は無いから。

 乙女心っての? 面倒臭い。こういう時ってどう説得するんだっけ。リリファもなんか、あの奴隷が来てから様子ヘンなんだよな。

 

「今夜のすったもんだが終了したらまた色々聞かせてくれ。ほらこれで満足か」


 最下層に辿り着いた俺は、汚物の傍で佇むリリファの肩を叩いた。珍しく戦闘仕様の金属鎧を着てやがる、普段は嫌がるのに。

 

「お前もたった1週間で随分とあの奴隷に入れ込んだな」

「……まあ、いいですけど」


 これではアリスに説教できない。そうリリファは小声で呟いた、ような気がする。上手く聞き取れなかったが。

 

「ん、なんか言ったか」

「いいえ別に。では本題に戻ります」


 リリファの説明はまあ大方予想通りだった。

 馬鹿貴族が腹いせに喧嘩売る。よくある構図だな。原因は昼間の御前試合、意趣返しといったところか。

 

 どうやら俺の推理はほぼ正解のようだ。さすが俺。

 ついでにラズの奴隷を人質にすることで言いなりに出来るって感じか。

 

 まあ動機なんざどうでもいい。喧嘩売ったって事実さえあれば、大手を振って対処してやるし。

 カニエ伯爵か。そういやそんな名前だったな。

 

 こいつに関してはびっくりするほど良い噂しか聞かない。

 安い税金で手厚い政策を行い。贅沢をせず、貧しきものを助けて保護して、孤児院を設立し、災害では炊き出しをして。

 

 民を最優先に考えて自ら率先して動くという、こんなに優れた聖人君子がいていいのかというくらいの名領主だ。

 とてつもなく不細工でかつ太っているという残念な外見なのだが、それすら庶民的で親しみを感じさせるほど実績パない。

 

 街がここまで発展したのもカニエ伯爵様がいるからこそだろう。

 俺もカニエに関しては高評価しているし、殺すにはもったいない逸材だと思っている。

 

 ホントになんでラズの奴隷に目を付けちゃったかな。

 前の街でも似たようなのがあったな。確かあの時はリリファを誘拐しようとしたんだっけ。

 

 なんでこうも面倒事が湧いてくるんだか。

 ラズ本気でキレるぞ。いやキレる所じゃ済まないな。このままじゃアスタルトは明日の内に壊滅するな。

 

 それは困る。何とかして防がねえと、寝る場所が無くなっちまう。

 仕方ない、とっておきを使うか。

 

「リリファ、緊急事態だ。蟲共出して情報を集めろ」

「了解しました」


 リリファは金属片が織り込まれた耐斬スカートの裾を高く持ち上げた。細い彼女の両足が、限界まで露になる。

 純白の肌。その内腿を一筋の黒い雫が垂れていった。

 いや、それは蟲だ。何百何千の大小様々な蟲がうじゃうじゃと床へ滴り落ちていく。

 

 いつ見ても不気味な光景だな。

 リリファの細くて白い脚を伝って地面に降りる蜘蛛、蟻、百足。なかには小麦の粉よりも微小なものまで混ざっている。

 

 蜂、蛾、蝶の群れが、袖や首元から一斉に飛び立っていった。何匹かは空中で羽ばたきもせず静止している。

 一見すると、街中とかでよく見かける普通の虫にしか見えない。しかしコイツらは全てリリファが調整した戦闘用の蟲だ。

 

 森や砂漠や洞窟の奥深くにまで足を運び、採取した虫をリリファに体内で繁殖させている。

 体内であらゆる毒や薬を精製可能とするエンシェントエルフの禁術。肉体そのものを虫や茸の苗床とする、あまりに冒涜的な秘術。俺はそいつをリリファに施した。

 

 エルフは魔法に長けた種族だ。

 中でもエンシェントエルフは魔力が飛び抜けて高く、彼らの身体は肉や骨、髪の毛一本に至るまで魔道具の材料になりうる。

 

 過去にはエルフ狩りという野蛮なブームも流行ったそうだ。まあ大抵は返り討ちだったそうだが。

 リリファを奴隷商から買ったのは4年前だったが、道具として利用価値があるなら誰でも良かった。

 

 身体は既に毒に侵され、死ぬ寸前だったから安く買えた。それがリリファを買った理由。

 実践で使えるレベルになるまで半年掛けて看病しなきゃならないのは誤算だったけど。

 

 安い買い物だと思ってたんだが、当時の収入を考えると痛い出費だった。そのあと3カ月は寝る間を惜しんで働かなきゃならなかったし。

 まあその分、見返りは果てしなくでかい。例えば今も。

 

「行って」


 毒蟲達は四方八方へ散らばっていく。換気口や下水管を伝ってあちこちへと飛んでいった。

 蟲だからどんな場所にも潜り込める。探索にはうってつけだ。

 

 それだけじゃない。リリファに飼わせてる蟲の大半は猛毒を有している。

 鬼女蜂のように、そこらの人間を軽く殺せるヤツもわんさか飼っている。

 

 著しく体力を消費なんで切り札的な使い方しか出来ないけど、その気になればリリファ1人でアスタルトを落とせる。まあそれは俺やラズも一緒だがな。

 コイツと一緒に生活してるけど、病気とか移されないだろうな。自分で育てときながら不安になってきたんだが。敵に回らんことを祈ろう。じゃあ俺も行くか。

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