21話 って大声で叫ぶなよ、つか貸せって
「おいラズ」
「あぁアリス、アリス……」
俺の呼び掛けにも反応せずラズの奴は床に転がり悶絶しまくってる。あまりの不気味さに思わず蹴飛ばしてしまった。
壁に激突して穴が開いてしまったが、俺は悪くないハズ。
「何用だ、俺はアリスの残り香を堪能するので忙しいんだが」
信じられるか? この台詞を壁にめり込みながら真顔で言い切るんだぜ。まあそれはともかく。
「その大事なアリスちゃんは家に戻ってないのかよ」
「? ……まだランキスの家に居るものとばかり」
ふん成る程。つまりラズの奴隷は、家にも帰らず夜道をほっつき歩いてる訳か。
マズい事に巻き込まれてそうな気がするぜ。
最近ずっと戦場暮らしだったせいか嫌な予感に対して敏感になってやがる。リリファに様子見させてるけど、平穏無事で済めばいいんだがな。
扉の隙間から、小さな虫が音もなく忍び飛んできた。
見てくれは、何処にでもいる普通の蜜蜂にしか見えないが、リリファが交雑の末に生み出した、より強くて狂暴な魔物だ。
鬼女蜂とリリファが名付けてたコイツは毒持ちではないものの、体当たりで城壁も吹き飛ばせるパワーと、戦斧でぶっ斬られても傷一つ付かない生命力と頑丈さ。そしてスピードと機動力、さらに人間の言葉を理解する知性まで兼ね備えた化け物らしい。俺も詳しく知らないけど。
一匹野に帰すだけで大災害起こすヤバさを秘めてる。こないだの大戦でも温存しといた、リリファが扱う蟲でも特に危険な部類の奴。んでもって同時にコイツを遣すってのは非常事態であるサインでもある。
「アリスの身に何かあるのか」
ラズが鬼気迫る表情で鬼女蜂に詰め寄る。
一応、人間の言葉を理解するだけの賢さはあるらしいけどよ。握り拳より小さな蟲に、血走りながら真剣に話し掛けてる姿ってすげーシュールじゃねーかいラズ。
答えろ! って大声で叫ぶなよ、つか貸せって。
鬼女蜂は人間様の言葉は喋れない。まあ蟲だしな。
一応、雰囲気である程度は察することもできるがその前に握り潰されかねないし。そんなの勿体ない、後でリリファに愚痴こぼされるのもウザいし。
さっきもあの奴隷が怖がってるってリリファに注意されたばかりだし。
虫けらの分際で冷や汗なんぞかいてる鬼女蜂は、焦りながらも正確に説明した。フンフン成る程、おーそりゃ大変だ。
「ラズ、あの子は拐われたそうだ」
「なら関係者は全員、皆殺しだ」
言うと思ったよ。
「昼間に仕事請け負ったカニエだっけ? とりあえず事情聴取でもしてこい。なるべく穏便にな。あーちょい待ち、1つ質問あんだけど」
って無視すんなよ。ムカついたから部屋から出ていこうとするラズの首先にナイフを突きつけてやった。
薄皮一枚でラズの命を握ってるのか。
こんなシチュ初めてだな、ちょいと手先が狂ったらラズだって簡単に殺せる。
せっかく俺が豹変してやったってのにラズの奴は相変わらずの鉄面皮だ。あの奴隷が来てからしてなかっただけで、こっちのほうがよく見知った表情だけどな。
切り刻んでも鉄面皮のままだろうか。やばいゾクゾクしてきた。
「今、答えなければならないことか」
「超絶大事」
「ならさっさと言え」
「なんでお前は、あの獣人の娘に固執するんだ」
「妹の心配をすることが、そんなにも不自然だと言うのか」
「別に。でもお前は記憶喪失なんだろ。なんで都合よく、あの奴隷のことだけ覚えてたんだ? そういやラズ、お前は今まで妹の話題なんか一切しなかったよな。なんでだ」
「話す必要が無かったからだ」
へー。
まあラズがそう言うならそういうことにしといてやるか。
「話は終わりか」
「まあ待てって一番大事な質問が残ってる。なあラズ、お前達は一体なんなんだ?」




