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20話 ……腹減ってるんだろ、これ食えよ

 奴隷という境遇を、私はひどく勘違いしていた。

 もし買ったのがお兄様じゃなかったら、リリファさんが言ってたようなコトをさせられてたかも。あるいはもっと凄惨な目に遭ってた可能性だってあったかも。

 

 異世界転生というファンタジーに勝手な夢を見てた。

 マンガやラノベの主人公キャラクターになったつもり、だけど現実はとてつもなく残酷でシビアで。

 

 ニャーン。

 猫の鳴き声が聞こえた。

 振り向いたら、昼間に出会った黒猫のトリガーが私の足にすり寄ってきてた。

 抱き上げて撫でてると黒猫の飼い主らしき男の子が駆け寄ってきた。よく見るとその子はネコミミと尻尾を生やしてる。

 

「トリガー、夜道は危ないから一緒に。……あれ、アリス」


 トリガーの飼い主ってナルシュ君なんだ。

 いつの間にかナルシュ君が働いてる洋服店の近くまでふらふらと遠くまで歩いてきてしまってたみたいだ。

 

「俺は仕事終わりなんだけどアリスこそどうした、身体が熱いぞ!」


 ナルシュ君はどうしてこんな遅い時間に出歩いてるの。

 

「……アリスの主人にアリスが買った洋服を、今日中に届けとけって親方に言われたんだ。今後お得意さんになるからって。……それよりアリスは何してんだよ。もう夜遅いし、この辺りは物騒だぞ」


 もうそんな時間? あっ本当だ日が沈みかけてる。

 さっきまで昼間だと思ってたのに。遅くまでリリファさんと話し込んでたから気付かなかった。

 どうしよう、お兄様は心配してるだろうな。

 

「アリスの主人と何かあったのか」


 お兄様とケンカか、似たようなものなのかな。兄妹ゲンカなんてしたことないから解からないけど。

 グー!

 こんなタイミングで鳴り響いちゃうかな。

 

「ここ座れ。 ……腹減ってるんだろ、これ食えよ」


 乾パンみたいなのを渡してくれた。ナルシュの晩御飯じゃないのかな。

 心配したけどアリスのほうが大事だって言ってくれた。それどころか飼い主に虐待されたのか、なんて心配もしてくれる。優しいな。

 

「奴隷ってのが、やっぱ辛いのか」


 そんなことないよ。お兄様はとても優しい。うん優しいんだよね。とってもお兄様は優しいから。

 

「なあアリス、もしアリスが望むなら俺は――――」


 ナルシュ君の耳がピクリと反応して、何かを警戒するかのように周囲を見回す。

 どうしたんだろ。私も周囲を見渡してみる。


【感覚スキルがLVUPしました!】


 6人くらいかな。複数の気配を感じた。建物の陰、塀の影とかに。

 ナルシュ君は私を庇うように前に立ち塞がってくれてる。

 

 ボロ切れを纏った人達が次々と現れて私とナルシュ君を狙っている。リーダーっぽい人はいないけど、統制された動きをしてる。

 鑑定してる余裕はない。強さは多分、昼頃に遭った3人組の男達と同じくらいだと思う。だけどこの場にはお兄様もリリファさんもいない。

 

 次の瞬間向こうは突進してきた。錆びたナイフの刃先を向けてる。

 避けなきゃいけない、反撃しなきゃ。なのに動かないし思考できない。

 

 なんで私襲われてるのとか、どうしてこんな状況なのとか、そんなどうでもいいことで頭が一杯になった。

 

「アリス! 逃げろ!」


 そう叫んでナルシュ君は男の人達に殴りかかっていった。

 だけれども多勢に無勢。組伏せられて、他の男の人に鳩尾を殴られ地面にうずくまる。

 

【視野拡大スキルがLVUPしました!】


 ナルシュ君!

 うずくまるナルシュ君に思わず私は駆け寄った。

 

 けど私は駆け寄ってはいけなかった。ナルシュは時間稼ぎしてくれた。必死で逃げてお兄様とかに助けを求めるべきだったのに。

 すかさず誘拐犯の1人が手を伸ばしてきた。

 

【≪ユニークスキル≫猫の本能スキルがLVUPしました!】


 布のようなのを持ってる、避けようとするけど相手のほうが少し早かった。

 口に当てられる。逃げようにも頭を押さえられて動けない。

 

【睡眠耐性スキルを習得しました!】


 これってミステリとかで見かける誘拐場面、なのかな。

 なんで冷静にそんなこと考えてるんだろ。

 眠気に抗えない、意識が遠く、なって、い、く――――

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