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ⅩⅠ.ギター

「チュイ~ン」


 初めて目の当たりにする、チョーキングの音色。


『カッチョイ~』


 ぼくはシビれた。


「テケテケ・テケテケ」


 ステレオから流れる音に合わせ、同じフレーズが繰り出される。


「チュイ~ンン…」


 ギターには、プレイヤーの指遣いや息遣いが伝わってくるようなところがある。


「チュイ~ン・チュイ~ン」


 鳥肌が立ってくる。


「チュイン・チュイン」


「ギターは男の武器」。小脇に抱えた姿は、マシンガンみたいで・とんがっていて、カッコイイ。


「ギュイ~ン」


 そして何より、エレキの変幻自在でパワフルな音色。


『スゲ~』


 ぼくは、すっかり感心していた。


「♪」


 あれから…剣道の練習試合から…数日後のこと。ぼくはデブトンといっしょに、ふたたびY西中の近くにいた。

 この夏休み、デブトンの家も、ぼくの家と同様、引っ越しをしたのだ。ぼくたちの住む地区からだと、Y西中より少し先。さらに西の方角だ。中古住宅だけど、部屋がいっぱいある、かなり広い家。

 ぼくは誘われるまま、ひとり、そこに遊びに行ったのだけど…でも、まだ荷物も片付かない中、デブトンの家族もいたので、何か落ち着かない。


(中一のデブトンの妹は、ちょっと天然パーマが入っていて、兄と違い色が黒いけど、眼がパッチリしたエキゾチックな顔立ちで、八重歯のカワイイ()。まあ親友の妹だから、ヘンな気は起こさないようにしよう。どちらにしろぼくは、ナゼか同級の子にしか目が向かない男だったし…今にして思えば、年下にターゲットを定めるべきだったのかもしれない。えてして学生の時期…ましてや中学生なんて、女の子のほうが大人びているのだから)。


 そこでぼくたちは、Y西中のすぐ近くにある、デブトンのイトコの家におじゃまする事にしたのだ。

「ナゼか」と言えば…その、ぼくたちと同級の、Y西中に通うデブトンのイトコは、当時ぼくが知るかぎりでは、一番のレコード・コレクター。

 すでに面識もあったし、「レコードでも聴きに行こうよ」という事になったからだ。


(デブトンも、ぼくが訪れたのをいい事に、引っ越し作業から解放されたかったのだろう。ぼくは、いい口実に使われてしまったわけだ)。


 デブトン家の新居から、自転車なら十分もかからない。Y西中のすぐそば。道一本・東にへだてた住宅街の、赤い屋根の木造家屋。


(ぼくは小柄で細身な彼を通して、マルチ・プレイヤー「トッド・ラングレン」氏や、『進歩的(プログレッシブ)ロック』界の旗手(きしゅ)的グループ「ピンク・フロイド」を知った)。


 そして・その日は、みっつ年上の、彼のおにいさんも家にいたのだけど…


「どんなの聴くんだい?」


 小脇に茶色のグラデーションのレスポールを抱え、ラフな格好でベッドの端に腰掛けたおにいさんは、ぼくにそう()いてくる。


「エ~。最近は、ビーチ・ボーイズとか、チャック・ベリーとか…(好きなんです)」


「オールディーズか」


「(ええ)」


 ぼくはうなずく。

 まあぼくは、初対面の人とは、うまくしゃべれなくて…語尾が濁りがち。


(ちなみに、今でも「オールディーズ」と呼ばれる音楽は、70年代なかばの・あの頃すでに、「オールディーズ」と呼ばれていた。「クラシック」が、永遠に「クラシック」であり続けるようなものだ)。


『ジミー・ペイジみたいだ』


 そんな第一印象。

 この時期ちょっと暑苦しいけど、パーマのかかったロン毛は、「ジミー・ペイジ」さんのそれを、少し短くした感じ。


(「ジミー・ペイジ」氏とは、当時、「エリック・クラプトン」氏・「ジェフ・ベック」氏と並ぶ『三大ギタリスト』の一人に数えられた、ロック・バンド「レッド・ツェッペリン」のギタリスト)。


 合間・合間に話をしながら、おにいさんは、レコードから繰り出されるギター・フレーズと同じ音で弾きまくる。

 ぼくは、ただただ感心。その指遣いに見入っていた。


(小学校・以来の仲良し、石屋の(せがれ)「アキオ」も、中学に入った頃から音楽狂いになったけど、テクはだんぜん上だ)。


『こういうやり方もあるんだな』


「コピー」なんて言葉を聞いた事はあったけど…ぼくは音楽とは、譜面とニラメッコして学ぶものだと思っていた。

 幼稚園の頃、ピアノを習っていたのに、どういうわけか、「おたまじゃくし」をまったく理解できなかったぼく。

 そんな人間には、縁遠いものだと思っていたのだけど…


『きっと、すごく練習したんだろうな…』


 この・おにいさんみたいに、耳から聴いて、自分で音を出しておぼえていく…という方法もあるわけだ。


 最後に「ズシーン! ズシーン!」と、ヘビーなフレーズが繰り返される。


『あの時かかっていたレコードは、なんだったんだろう?』


 初めて聴いたヤツだからおぼえていないが、「ディープ・パープル」などの“ハード・ロック”か“ヘビメタ”系だった。


(あの頃は・まだ、「ヘビー・メタル」なんてジャンルは無かったかもしれない)。


『すごいな~』


 この春、高校は卒業したのだが、アメリカは九月新学期。来月から、向こうに留学するんだそうだ。


『アメリカン・グラフィティーみたいだ』


 だから、何かと忙しいのだろう。「ゆっくりしてきなよ」の言葉を残して去って行く。そんな後ろ姿を見ながら…


『世の中には、変わった人や凄い人もいるんだな~』


 ぼくはそう思ったけど…かく言うぼくだって、けっこう「変わり者」なのかもしれない。


「♪〜♪…」


 残されたぼくたち…ぼくと、デブトンと、イトコくんは、それから何枚か新着のレコードを聴いた。


『あんな・おにいさんがいるんじゃ、当然だよ』


 でも、だんだんウトウトしてくる。

 若者は、ナゼだか理由もなく、眠たくなるものだ。そのうち…


『アレ?』


 ぼくは、人の気配で目を覚ます。

 フト顔を上げると、部屋のフスマを少し開けて、見知らぬオジサンがコッチを見下ろしている…。


『ここはどこ?』


 ぼくは寝ボケまなこで、あたりを見回す。

 レコード・プレイヤーのターン・テーブルは、(むな)しくカラ回り。アームは一番内側で、ポツン・ポツンと一定の周期でハネている。


『ああそうだ!』


 でも、イトコくんはいないし…デブトンは、人目につかない縁側で、スヤスヤとお昼寝中…。


『コ、コンチハ~』


 ぼくは、コクンとお辞儀する。

 向こうにしてみれば、「見知らぬ」のはこっちの若者だ。つまりは、この家の御主人だったようだ。

 ぼくは他人の家に上がり込んで、ひとり堂々と、「大の字」になって寝ていたわけだ。


『カッコワリ~』


 でも・きっと、あのおにいさんのギター・テクのおかげで、ぼくはこの時の事をよ~くおぼえているわけだ。

 たった一回きりの出会いだったけど…でも・それで、ぼくが「ギター・プレイヤー」に目覚める事はなかった。


(すでに、アキオから譲ってもらった、ウエスターン・タイプの「アコギ」…「アコースティック・ギター」。つまり、生ギターのことだ…は一本持っていたけど)。


 あんなに凄いものを見せられたんじゃ、かえって逆効果。

 それに、ぼくには他に目指すものがある。


 音楽に関しては…


『ぼくは、生涯「いち」リスナーでいいよ」

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