第十二話
~2100年4月9日 9:00 NPOC司令部廊下~
東に連れられNPOC司令部に足を踏み入れた俺と優芽。司令部の廊下は白で統一されていて方向感覚が狂ってしまった。今自分がどの方角を向いて歩いているかさっぱり分からない。
「なんだか迷路みたいな廊下だね。壁も真っ白でどこ歩いてるか分からないよ。あっ、でも初めて来たんだからそもそもどこを歩いてるかなんてわからないか」
えへへ、と優芽は見事なアホ娘を発揮してくれている。えぇー何なんですか可愛いんですけど、あぁー心臓の音が邪魔だな、ちょっと止まって静かにしてもらってもいいですかね。あっ、でも止まったら俺死ぬわ
「もう少しで対策本部だよ」
「そういえば東、お前、俺の質問に答えてないだろう」
「あぁ、そういえばそうだったね。正直に言えば分からない、としか言いようがないかな。なにせNPOCに非常事態が宣言されたのも、非常事態対策本部が発足したのも今回が初めてだからね」
「じゃあ、いつ危険な目にあってもおかしくないって言う事か」
「そうかもしれない、としか言いようがないかな。さぁ着いた、ここが非常事態対策本部だよ」
なんだか釈然としないままついた部屋には『非常事態対策本部』と書かれた条幅が掲げてある。
東がドアを開けると既に俺たち以外のメンバーは着席していて各々資料を読んだり談笑したりしている。
ただみんなスーツや部署の作業着を着ていて俺と優芽が場違いなことに変わりなさそうだ。
「山本君と西郷さんの席はあそこだよ、さぁ会議を始めるから座ってくれるかな」
東はそう言い残すと自分は一番前の席に腰を下ろした。
「えぇーそれでは皆さん。対策会議を始めたいと思います。まず私は、この非常事態対策本部の本部長を西郷統括学園長から委嘱されました、システム管理課長の東です。よろしくお願いします。えぇーそれでは、早速ですが皆さんも軽く自己紹介をお願いできますか」
俺と優芽が着席したとたんに会議が始まった。急すぎて俺と優芽、特に優芽は状況が把握できて内容でしきりにきょろきょろしている。そうしている間に自己紹介が始まった。
「総務課総務部、西京子です。今回は学園内通貨システムがダウンしているため、その対処にと対策本部に派遣されました。以後お見知りおきを」
「警備課防衛システム部 、岡田昇だ。NPOC自動防衛システムがダウンしているため、この後米軍のよる護衛が開始される。俺はそれとの連携とかなんやらに派遣された。よろしく」
「JR学園線中央コントロールセンターの藤井巽です。ご存知だと思いますが学園線各支線は現在運航を停止しています。微力ながらお力になれたらと思います」
「NPOCIA空港長の仁志哲也です。現在航空管制システムがダウンしているためランウェイクローズとなっています。一刻も早く運用再開ができるようにお力になれたらと思います。どうぞよろしく」
ここまでの自己紹介を聞いていた優芽が小さな声で俺に話しかけてきた。
「ねぇ、貴君。みんなすごい人ばっかりだよ。私たちちょっと場違いじゃない?」
「やっぱり優芽もそう思うか…」
優芽ですら俺たちがこの対策本部の中で場違いな人間であることが分かっているようだ。
「山本君、山本君、次自己紹介お願いしますよ」
東に呼ばれ周りを見渡してみると、みんなの視線が俺に集まっている。俺は腰を上げ自己紹介を始めた。
「NPOC高等部1年2組、山本 貴文です。よろしくお願いします」
簡単に自己紹介を済ますと次に優芽が
「同じく西郷 優芽です。よろしくお願いします」
と自己紹介を済ました。優芽の自己紹介を聞き遂げると東が続けた。
「さて、自己紹介も終わったことですし、早速会議の方に移りましょうか。まずは改めて今回のサイバー攻撃に伴うシステムダウンの被害状況を各部署から報告いただきたい」
「さっきも言ったように防衛システム、詳しく言えばディジタル防御、物理的防御ともにダウンしているということだ。つまり今NPOCは敵に『こうげきしてください~』って言ってるようなもんだ」
岡田の口調や様子を見ていると明らかにイライラしているのがわかる。でもこの男の言う通り今のNPOCは防衛システムが一切機能していない。これは敵国からすれば格好の標的となりうるだろう。
「次に総務課からですが、現在C-payも機能していないことは皆さま重々ご承知のことだと思います。早速、先ほど生徒がUS2層のスーパーマーケットで決済ができず商品が購入できなかったという事例の報告を受けました。その他にも住民の生活に大きな支障が出ています」
「空港は航空管制システムが使用できないので、すべての離発着便が欠航になっています」
いろいろな部署から被害状況が報告された。聞けば聞くほど今回のサイバー攻撃がどれほど大規模なものだったのかがわかる。
「それで今後の対応なのですが、システム管理課としましては一時的に予備システムに切り替えることもできます。予備システムでは一部の制限はありますが日常生活に支障がないレベルでの運営は可能です。ただ一つ問題がありまして…」
ん?なんでだろうか。ここまで言って東が言葉を詰まらした。
「何なんだ問題って?」
早くしろと言わんばかりに岡田が言った。さっきからじっと落ち着かない様子である。東は覚悟を決めたように顔をあげ、俺たちメンバーを見渡しながら続けた。
「実は今回のサイバー攻撃は外部からではなく、内部からなされたものであったことが判明しました」
東は淡々と、でも一言一言に重みを持たせてこう言った。
「ちょっ、てめぇ自分で何言ってるのかわかっていてんだろうな」
対策本部のメンバーからは余裕の表情が消え、会議室は静寂に包まれた。
「皆さんの気持ちはご察しします。私も最初は気持ちの整理に時間がかかりましたから。このことからお判りいただけるように、もし予備システムに移行したとしてもすぐに今回と同じことになるでしょう。ですから私たちがまずすべきことはシステムの復旧よりも犯人の特定をすることです。」
東が言う事にはおおむね納得がいった。内部に攻撃者がいる場合、何度システムを復旧させても、また攻撃される恐れがある。つまりいたちごっこだ。特に今回の場合は、メインサーバーが大きなダメージを受けたことにより、復旧には多くの時間を要するだろう。そうすると誰もが予備サーバーを使う事を考える。でも予備サーバーさえもダウンしてしまえばNPOCは本当に終わりであろう。
「そしてつい先ほど、サイバー攻撃は生徒用の腕時計型端末から行われた可能性が高いということがわかりました」
つまり生徒の中に犯人がいる…。でも生徒といってもこの学園には20万人が在学している。この中から犯人を見つけ出すのは無理に近いだろう。でもまだ幼い、幼・小・中等部の子供たちはこんなことまずできないだろう。子供を除外しても高・大・院合わせて容疑者は9万人もいる。
「そこで、君たち二人の出番なんですよ」
東はそう言いながら俺と優芽の方を向いた。なるほど。やっとすべてに納得がいった。生徒に犯人がいる可能性が高い今、生徒を調べるのが得策だろう。でも、司令部の人間や教師が調べて回ると目立ちすぎてしまい、犯人に感ずかれる可能性が高い。だから生徒である俺と優芽が潜伏者を潜伏者としてあぶりだす、という事なんだろう。
「つ…つまり、私たち二人で犯人を見つけろって事ですか?」
「その通り。二人で協力して犯人を一刻も早く探し出してください」
~4月9日 11:15 NPOC上空~
「おい見ろよボブ、あれがNPOCだぜ」
「噂には聞いてたがでけぇーな」
NPOC上空には10機の米軍所属戦闘機が飛行していた。NPOC統括学園長 西郷の要請により彼らは無防備なNPOCの防衛に当たることとなったのだ。
「でも革命国の奴ら本当にくるのか」
「いやきっと俺たちにビビッて逃げてくさ」
はっはっはっはっはと軍人たちが談笑しているその時だった、一機のパイロットの顔が真っ青になった
「おっ、おい。くっそー。こちらAA13。敵の戦闘機にロックオンされた。」
「ジョンすぐに退避飛行をしろ。はやく!」
パイロットたちは口々に仲間をミサイルの恐怖から救おうと指示を出した。しかし一向に退避飛行に入る様子はない。
「ジョン、死にたいのか?早くしろ!」
「やってるさ、やってるけれど操縦が利かないんだ。まるで誰かに乗っ取られたように勝手に動くんだよ」
その時ミサイルが発射されたことを知らせるアラームが鳴った。
「くっそー死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない。」
ドゴォーン。爆音とともに黒煙が立ちこめた。パイロットは間一髪のところで脱出に成功できたらしい。
「いったいなんなんだ…」
パイロットたちの顔にさっきまでの余裕はもうなくなっていた。
~4月9日 11:15 NPOC SS層~
私はアメリカが嫌いだ。だから撃ち落とす。練習は積んできた。ミサイル発射ボタンに手をかける。上空で大きな爆発音がした。かなり手応えがあった。しかしパイロットは脱出してしまったようだ。
「チッ、外したか」
私はアメリカを叩き潰す。連合国を叩き潰す。
「日本も叩き潰してやる」




