第十一話
~2100年4月9日 8:50 US1層噴水公園~
名前を呼ばれ振り返るとそこには見知らぬスーツに身を包んだ男が立っていた。俺は優芽をかばうようにしながら男に向き合った。
「あっ、すまない。名を名乗らなければ警戒もされてしまうよね。私は東時雄。NPOC司令部システム管理課の課長をしている者だ」
【NPOC司令部システム管理課】
NPOCは太平洋上に浮かぶ孤島であるがため行政、防衛、生活インフラなどを全て内部で賄う必要がある。生徒が安心して勉学に励めるようにこれらを行っているのがNPOC司令部である。
・システム管理課
NPOCの様々なシステムを管理、運営する部署。NPOCの全てのシステムを司るNPOCサーバーはこの管轄である。
今回のようなサイバー攻撃の際真っ先に対処を開始する部署でもあり、セキュリティーシステムのバージョン移行や攻撃元の特定、場合によってはNPOC内のシステムを全て停止する権利までもを有するNPOC司令部の中でも重要な課の一つである。
システム管理課と言えば確か今回のサイバー攻撃の対処に当たっている部署のはず。どうしてそこの人間が俺たちに用があるのだろうか。
「システム管理課の方が私たちに何の用ですか」
「二人ともそんなに警戒しなくてもいいよ。今回のサイバー攻撃における非常事態宣言が発動したのは知っているよね」
「あぁ、さっき放送で統括学園長が事情を説明したからな。理解しているつもりだ」
「だったら話は早いね。NPOCでは非常事態が宣言された場合直ちに非常事態対策本部が発足するんだ。私はその非常事態対策本部の本部長を任されたんだ。それと一緒に統括学園長から君たち二人も対策本部のメンバーに加えてほしいとの要望があってね。だから迎えに来たっていうのが用事だよ」
「お父さんが?」
まさか親父さんの名前が出てくるとは…。予想していなかった展開に俺も優芽も困惑の色を隠せない。でも非常事態対策本部とは何をする部署なんだ…。今回のサイバー攻撃もかなり大事みたいだし。優芽に危険が及ぶことだけは何として避けなければ…。俺は幼い、春の日の事を思い出していた。
「お父さんの頼みなら参加しようと思いますけど…」
「東と言ったか。対策本部のメンバーになったからと言って俺たちに、特に優芽に危険が及ぶなんてことはないんだろうな」
「お…おぅ(呼び捨てか…まぁいいけど)。って、もうこんな時間か。二人とも急かして悪いが対策会議が9時から始まるんだ。ついてきてもらってもいいかな。貴文君の質問には移動しながら答えるよ」
そういうと東はせかせかと歩き出した。優芽が上目遣いで目をウルウルさせながらこっちを見てくる。かっ可愛い…じゃなくてこいつも不安なんだろうな。
「とりあえずついて行ってみよう。危ないと思ったらすぐに逃げるぞ」
「わ…分かった」
俺と優芽は東の後ろを追いかけるように歩き出した。いや、ちょっと待って。なに、後ろからちょこちょこついてくる小動物、可愛すぎ…んっんん、さっきから邪心が見え隠れしてるな。ちょっと気合を入れないと。
俺は前を歩く東の背中を目で追いかけた。優芽の親父さんが頼み事をするくらいだ、きっと信頼できる人なのだろうが、なんだろう、どこか胡散臭い感じもする。あの笑顔、あの話し方、特に対策本部長と名乗ったときの顔は印象的だった。何かを隠している、そんな顔だった気がする。
「さぁ着いたよ」
東が立ち止まり、周りを見渡す。
「あんたやっぱり俺たちを騙したのか?」
俺たちは薄暗い路地裏に連れてこられていた。くそっ、やっぱりこいつの胡散臭さは気のせいなんかじゃなかったか。俺は優芽の耳元で小さく囁いた。
「優芽、次こいつがおかしな行動をしたら逃げろ。いいな」
優芽は何も言わずに頷いた。彼女の体は小刻みに震えているようだ。俺はまた過ちを繰り返すのか…。
「どうなんだ、俺たちをこんな路地裏に連れてきて。なにが目的だ」
「騙したなんてまさか、ちょっと待っててもらえるかな」
そういうと東は電気メーターに歩を進めた。電気メーターに腕時計型端末を近づけると、
ガッシャンウィーンガッシャン。行き止まりだった壁が大きな音を立てながら開き、道が続いていた。
「ここから先がNPOC司令部だ。一般の人が入れないように入り口はこういう風にカモフラージュされているんだ。時間もない、先を急ごうか」
NPOC司令部の存在は知っていたがまさかこんな風になっているとは全く見当がつかなかった。十二年もこの学園に通っているけどまだまだ知らない事ばかりだな。
「わぁー!すっごい。かっこいいね貴君!」
一方優芽とは言うと隠しドアや通路に目を輝かせている。まるで無邪気な少年みたいだ。
「さぁ、行こうか」
俺たちは東に導かれNPOCの心臓部に歩みを進めた。
~9:00 日本・本州 某米軍基地~
「今回の任務は先ほど大統領令が発せられた『NPOC非常事態宣言に対する特別防衛措置』に基づく太平洋上に浮かぶ国立太平洋学園の防衛だ。本国からは今回のNPOCへのサイバー攻撃は革命国軍からのものである可能性もあるという情報だ。各員気を引き締めろ」
司令官から作戦を聞かされた軍人たちの顔には緊張の色が見え隠れしている。
「スクランブル。ゴー。」
十機ほどの戦闘機が大地を離れ大空へと飛び立った。




