第十話
~4月9日 8:00 NPOCシステム管理部~
「どうだ!復旧できそうか?」
「まだ難しいです」
「サイバー攻撃元は判明したか?」
「まだです」
ずらっと並ぶ数々のモニター、それを凝視し作業する多くの職員…。ここはNPOC司令部の一室だ。皆あわただしく作業に追われている。
「東部長、個人情報管理システムのバックアップデータ復旧完了しました」
「本当か!よかった…そのデータだけは、消えてしまったらもう打つ手なしだからな」
【個人情報管理システム】
NPOCには20万人の生徒が在学し、100万人の教職員がこれを支えている。
この多さ故に従来の紙媒体の生徒管理では対応できないためNPOCでは創立当初からこの個人情報管理システムが導入されている。
・個人識別番号
NPOCで生活する者一人ひとりには個人識別番号が割り振られる。
ここでは例として山本貴文について説明していく。
山本貴文の個人識別番号は『000112010240』である。これは『00/01/12/01/02/40』と二桁ずつに区切ることで何を表しているか判断できる。
まず最初の2桁は職種を表している。『00』が生徒、『01』が教員、『02』が職員である。
次の2桁は性別だ。『00』が女、『01』が男である。
ここからは生徒の個人識別番号特融のものであり、『12』は高等部1年であること、『0102』は学年とクラスを(この場合1年2組)を最後が出席番号を表している。
ここはNPOC司令部システム管理課、NPOCサーバーの管理を行っている部署である。
昨日の自動運転システムらのトラブルに加え、朝早くに発生した大規模なサイバー攻撃によるシステムダウンの対応に部長の東は全力を注いでいた。
「次はあれだな、サイバー攻撃元を特定するのが最優先だ。手の空いている者はログシステムの復旧に全力を注いでくれ」
「「「はい!」」」
【ログシステム】
NPOC内で学校に登校したり家に入る際の電子ロックシステム、学園内通貨システムなどはこのログシステムによって、いつ、誰が、どこで、どの施設に入ったり、決算したりしたかかが管理されている。
・システムログ
個人識別番号に時間、場所、の情報が付け足されることでシステムログとなる。
(例)山本貴文が7:00に自室に入った時→【000112010240 0700 US1614IN】
システムログを見れば誰がどんな行動をとっているかを把握することが可能なのである。
部下たちに指示を終え私は自身のディスクに戻った。ディスクの上に置いてある資料に目を通しながらコーヒーをすする、これが今の至福のの娯楽であろう。
プルルルルプルルルル…誰だ、人のコーヒーブレイクの邪魔をするのは…私は少し苛立ちながら受話器を取った。
「もしもし、こちらシステム管理課東です」
「東か、私だ」
「えっ…その声はまさか…」
私は電話の相手が予想外すぎて思わず声をあげてしまった。でもどうして奴が俺に電話を掛けてくるのか、今まで一度もこんなことはなかった。ま…まさか…。
背筋が凍るような感覚とは正にこんな感じなのだろうか
「お…お疲れ様です…どうされましたか」
「サーバー攻撃元が判明した」
「えっ」
~2100年4月9日 8:30 首相官邸~
「統括学園長、システム管理課の東部長からお電話です」
近藤が通話中になっている携帯を差し出しながら言った。どうしたのだろうか、対策本部は東に任せてあるので心配いらないはずだが…なにか進展があったのだろうか。
「私だ。どうした東」
「お疲れ様です。それが、先ほどサイバー攻撃元が判明しまして…」
「本当か!でサイバー攻撃元はどこなんだ、やはり外部からのものだったのか」
「お…落ち着いてください統括学園長」
私は自分でも驚くほど興奮していた。まぁ仕方ないか…サイバー攻撃元が判明したという事は、これからの対策の大きな助けになるに違いない。私は少し呼吸を落ち着かせた。うん、大丈夫だ。
「す、すまない…。続けてくれ」
「まず最初に今からお話しする情報はUG3からの提供でして…」
「なに!彼らが動いていたというのか?だったら今回のサイバー攻撃はやはりただ事ではなかったという事か!」
「その通りです。UG3からの報告によりますとサイバー攻撃元はNPOC内部から、という事です」
「な…に…」
私が想定してた二つの可能性のうちの一つ、それも信じたくはない、総理にもお叱りを受けた方だったとは…。
「ほ…本当なのかね、その情報は。その情報は本当に信頼できる、正しい情報なのかね!」
「統括学園長のお気持ちもご察ししますが、なにせUG3からの報告です…正しいかと」
「そうか…」
この情報―サイバー攻撃がNPOC内部から仕掛けられたものであるという事は
「裏切り者、革命国の潜伏者がNPOC内に紛れ込んでいるという事か…」
~8:45 US1層 噴水公園~
優芽の親父さんからの非常事態宣言を受けNPOC内はバタバタの連続だった。
非常事態宣言には俺たち生徒の移動がUS1層のみに制限されるというものがあり、これが少し厄介だったのだ。
US1層に移動が制限されることは即ち商業層であるUS2層に行けない、つまり買い物ができないという事だ。
とてUS1層にもコンビニがいくつかあるが、品ぞろえは限られてくる。特に生鮮食品はスーパーでしか取り扱っていない。
それ故、非常事態宣言後すぐに多くの生徒が生鮮食品を求めUS2層の各スーパーに押し寄せる事態になってしまった。
しかしC-payが機能していないため当然支払いができるはずもなく、皆泣く泣くUS1層に戻ってきた。
システムダウンの影響をもろに受けたこの小1時間であった。
「はぁーあ…8:30に完全にUS1層だけに移動が制限されちゃったし、お肉とかお魚とか買えなかったし…もう最悪だよ…」
食の魔人、優芽はどうしても肉や魚が欲しかったらしいが買えず、さっきからずっとこれを言っている。もう聞き飽きた!
「優芽ちゃん、そう落ち込まないてくださいよ。私の家にいくらかお肉とお魚ありますから、よければ少しお裾分けしますよ」
「えっ…お肉とお魚分けてくれるの?」
「はい!優芽ちゃんは大切なお友達てすから、困ったときはお互い様てす」
「うっ…うっ、うわぁーん!ありがとう!ありがとう!明衣ちゃん大好きー!」
「ひゃぁ!」
優芽はうれしさのあまり(?)明衣に盛大に抱き着いたが、明衣はまさか抱き着かれると思っていなかったらしく見事にバランスを崩してしまった。
話しは変わりますが今の明衣の「ひゃぁ!」なかなか良かったですね、はい。
「おぉーい優芽さんやい、明衣が困ってるぞ」
「嫌だ!私はこのご恩を精いっぱい返すの!」
「な…なんて大げさな」
「ふふふ…って大変てす!優芽ちゃん、少し部屋に戻らないといけない用事があるのてお暇させていただきます」
「お肉とお魚は?」
「へっ…えぇーと、あっ!後て優芽ちゃん家に持って行きますね」
「本当に!私の部屋第1棟の714号室だよ、来たらチャイム鳴らしてね」
「1棟の714号室てすね…分かりました!じゃあ失礼しますね」
「じゃあまたあとでね!」
明衣を優芽が盛大に見送った後、優芽がな、決して俺じゃない。今回は優芽だぞ!そこんところ頼むぞ。
俺と優芽は寮に戻るため家路に就いた。
「てか本当に食欲が大せいだな優芽は…」
「ちょっと語弊があるかなぁー、成長期って言ってほしいなぁー」
「どっちも同じだろ」
「違うの!気持ちの持ちようが違うの!」
「へいへい」
「山本貴文君と西郷優芽さんかな?」
急に後ろから声を掛けられ、振り返るとそこには黒いスーツに身を包んだ、見知らぬ男が一人立っていた。
「あんた、誰だ」




