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鎌倉にて  作者: ゆくえ知らず


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8/12

夫婦


 僕はその後も、先生に呼ばれてはお宅にお邪魔して夕食を食べ、おかずをもらっては帰る生活を続けた。お酒で祝ってくれた日のことが蒸し返されることはなく、あの日自体がなかったかのように、平和な交流が続いた。

 しばらくそのような状況が続いたが、小さな変化が起きた。先生が僕を家に誘っておいて、僕が先生の家に行くと先生自身はいない、そんなことが起こるようになったのだ。

「先生は、今日はどうされたのですか」 

そう尋ねると、大抵は学会の集まりが急に入ったということで、食事を先にしておいてくれと連絡がありましたと、奥様が言うのだった。

連絡を頂ければ押しかけないのですが、と言っても、「いいえ、かまいません」と奥様はいつも言い、食事を出してくれた。

食事の最中に先生が帰ってきて一緒に食事に加わることもあったし、終わる頃に帰ってきてお酒のお供を私に勧めることもあった。

そして、食事が終わっても先生が帰ってこず、奥様と食事をしておかずを頂いて帰ることも、あった。

奥様が二言三言質問をし、それに簡潔に答えるだけだったが緊張してとても疲れた。黙っているとつい目が奥様に向いてしまうので目を逸らすのが大変だったが、質問に平静を保って答えるのは尚一層大変だった。

 そのような交流を続ける中で、一つの疑問が浮かんできた。

先生と奥様はどのように知り合って、なぜ結婚したのか、ということだった。

二人が一緒にいる時は歳の離れた夫婦と見ることもできたが、その親しさは夫婦というよりは何かもっと別のもののようだった。自分はもちろん結婚したことがないから、交流を始めた当初は夫婦とはこのようなものだろうと思っていたが、二年も付き合っていると、何だか違っているように思えてきたのだった。

夫婦というのは切ったら暖かい血が出るような、そのような分かちがたい関係だと思っていたのだが、そのような関係性を二人の間から感じることはなかった。

 先生は、かつて僕に「人間は感情の生き物なのだから」と言ったが、先生と奥様の関係は、感情とはかけ離れたところにあるように感じられた。


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