夜の海
先生にこの海岸であったのは大学一年目の秋だった。
大学に入って半年が過ぎていたが、僕はすでに失望していた。のんびりとして笑顔の絶えないキャンパス。僕には周りの学生がバカに見えて仕方なかった。誰一人として真剣に学問に向かい合っているようには見えなかった。
僕は何かにせき立てられるように焦りながら、それでいて何かを先に進めることも成し遂げることもできない状況にあった。
大学とバイト先とアパートの三角形の行程を、必要以上にはしゃべることもなく、友達を作ることもなく、毎日課題をこなすような義務感で消化していた。僕はいつも、どの講義も、一番前の席で受けた。時には教室の一番前に僕だけが座り、残りの学生がはるか後ろに集まっている、ということもあった。空いた時間があるときには図書館に行った。
しかし講義をいくら受けても、自分の道が見えてくることはなかった。先も見えず将来への夢もなく、ただ課題をこなしているだけの自分には何も蓄積されなかった。夏休みにも故郷に帰ることもなくバイトと勉強に時間を費やしていた僕は、十月に後期課程が始まり再び他の学生とともに講義を受けるようになると、一層焦燥感を募らせるようになった。
このままでは神経がおかしくなってしまうと思った僕は、その時に気分転換に海が見ようと思って、電車に乗って鎌倉を訪れたのだ。
大学に向かうために使っていた小田急線は、反対方向に乗ると海に近い藤沢まで延びていた。そこで江ノ電という小さな電車に乗り換えると、海岸沿いに鎌倉まで連れて行ってくれる。そのことを駅の案内で知った僕は、大学が終わるとアパートのある駅を通り過ぎてそのまま藤沢まで行き、江ノ電に乗り換えると「由比ヶ浜」という駅で降りて海に向かった。
小さい頃から慣れ親しんだ故郷の海とは違って、由比ヶ浜から見る海は湖かと思うくらいに穏やかだった。
夕方になると、海は空から垂らした絵の具が水の中で混じり合うように静かに色を変えた。日が落ちて夜になっても海岸通りの街灯と行き交う車のライトで海辺は明るく、漆黒の故郷の海で感じる怖さはなかった。静かな波のざわめきと車の通過音を聞きながら海岸で過ごすと、気分がずいぶん落ち着いた。
結局その日、僕は砂浜で横になって一晩を過ごした。目を覚まして浜辺を見渡すと、早朝の秋の海辺を散歩する人もまばらで、釣り人が朝日の中に釣竿を高く掲げているのがそこかしこに見えた。体にかかった砂を落としながら歩いていると、一人の男性が釣り人に声をかけていた。




