手紙
波の中で細かい煌めきが踊った。
銀箔を混ぜ込んだような光を放つ波がその腹を見せると、その腹に魚の影が舞った。
早朝に海辺を歩く人は少なかった。海水浴にはまだ時期が早く、人混みで海底が荒らされていない海は、初夏の朝の光を受けて美しい青に輝いていた。
僕があの人からの手紙を受け取ったのは昨日だった。
一晩考えて今朝、僕は自分が住んでいるアパートから小田急線の駅に向かい、そこから藤沢へ出て、江ノ電に乗って鎌倉の由比ヶ浜へやってきた。
三年前、ここで僕は先生に初めて会ったのだ。
浜を見渡すと、少し離れたところで釣り人が長い竿を海に向けて掲げていた。
先生に初めて会った時と同じだった。
僕は釣り人に近づいて会釈をし「今は何が釣れるのですか。ハゼですか」と尋ねた。
「ハゼは秋だね。今の季節はキスだよ、天ぷらにすると美味いんだ」
彼は、「ほら」とバケツを指差した。バケツの中には小さくて細い銀色の魚がせわしなく泳いでいた。バケツのサイズから考えるに、想定している釣果にはまだだいぶ遠いようだった。
そうか、先生にあったのは秋だったのだな、僕はまた青い海に目をやった。
大きな波が起こり、その中を大きな煌きがうねるように踊った。そして、消える間際に波の中から、何かがこちらを見た。
「あ」と僕は声をあげた。
「どうしました」と釣り人が聞いた。
どう説明しようかと、僕はしばらく考えを巡らせた。
「今、とても大きい影が見えました、魚でしょうか」
釣り人が大きな口を開けて笑った。「この遠浅の海では大きな魚を見ることはないよ。見間違いだろう」
「カツオとかマグロとか、そういう魚は来ないのですか?」
「ないない」
釣り人は竿を持っていない手を顔の前で振って、また笑った。
確かに見えた。魚にしては大きな背中だったようでもあった。それにこちらを見た、まるで人魚のようだった。
釣り人は、自分の釣竿の先に神経を集中して、すでに海に向き直っていた。黙ってしまった僕に興味を失ったのだろう。
先生に初めて出会ったのは、もう少し逗子寄りだったかと、僕はその場を離れて歩き出した。風が吹いてきたので、ジーンズの後ろポケットに差したあの人からの手紙が飛んでしまわないように、手で押さえながら。




