告白
僕は、先生の質問の意味がまた、わからなかった。考えていると先生がグラスを揺らし、氷が琥珀の海で音を立てた。
その音に急かされたように、僕は答えた。
「どうって、きれいな方だと思います」
そして「それに、優しいです」と付け加えた。
先生は、僕の言葉をかみ締めるように僕を長いこと見つめていた。先生の目の周りは少し赤くなっていた。そして何かにとりつかれたような強い光を放つ目で、僕を見つめた。
先生が口を開いた。
「もらってくれませんか」
そう聞こえた。
僕は、先生の顔をまじまじと見た。
「先生、今日は酔っていますね」
僕は、先生の意図をはかりかねていた。言葉通りだとしたら、それはあまりにも突拍子もないし、現実味もなかった。
「お付き合いしている人がいるのですか」
先生が継いだ言葉を聞いて、ようやく先ほどの言葉の意味を理解した。
「いません、いませんが」
「ならいいじゃありませんか」と先生は言った。
「言いわけがありません」
「そうでしょうか」
先生は奥様を愛してはいないのですか、と僕は尋ねた。
先生は、しばらく黙っていた。
やがて顔を上げると、真剣な表情で語り出した。
「私は、身勝手な人間です。しかしそれでもあれの幸せを考えています。そしてその幸せは私と一緒にいては成立しないのです」
「しかし奥様は、先生の奥様です。お二人は夫婦です、先生がそうおっしゃったではありませんか。夫婦として幸せを考えればいいではありませんか」
先生の目の周りは相変わらず赤かった。僕の方はすっかり混乱していた。僕はその時、席を立って出ていくべきだったのだろう。しかしそうはできなかった。いつもとは違う先生の言動が、僕の心を掴んで離さなかった。
「私たちを一対の夫婦としてみてもらっては困ります」
「困るも何も、実際そうではないですか」
「夫婦というのは形式上のつながりです。それに過ぎません」
それは外形的にはそうかもしれませんが、何もくじ引きで夫婦になるわけではないのですから、形式下には感情の働きがあるでしょう、と僕は反論した。
「ありません」と先生は言った。口調がいつもの先生に戻りつつあった。




