村長に会いに行こう
「私ったら大事な事を忘れてたわ。アイリ先生、マヨネーズ村の村長にはお会いした?」
「そうだ。村に来たら、いの一番に村長に会わなければならない。それがこの村のローカルルールというものだ」
⠀家庭教師初日を終え帰りの支度をするアイリに、今思い出したとばかりにオリビアとローガンが訊ねる。
「まだです。今日このお家に来る前に村長さんのお宅に行ったのですが……留守だったみたいで、ご挨拶できなかったんです」
「念の為詳しく聞いてもいいかしら?」
「えっ?⠀えっと……村長さんのお宅までは着いて、ドアの前にお爺さんがいました。それで……」
⠀やや言葉に引っかかったが、この夫婦の言う事なら珍しくもないと思い直し記憶を辿る──。
回想
「あのぉ……村長さんにご挨拶したいのですが……あなたが村長さんですか?」
「んぁ?⠀わっしゃあ村長なんてモンじゃないわい」
「しっ失礼しました!村長さんはいらっしゃいますか?」
「んが?⠀だれじゃそれっ!」
回想終
「って感じで……変わったお爺さんがいるだけでした」
「その人が村長よ」
「ええっ!?」
(ってこと改めて、村長さんにご挨拶に行くぞ!)
「ごめんねロックスくん。もうすぐ夜なのに道案内してもらっちゃって」
「謝ることないのだ!⠀夜道を女の子一人に出歩かせない。それが男のグローバルルールというものよってママが言ってたのだ!」
「そこはパパじゃないんだね」
⠀そういうのを教えるのは父親かと思ったが違ったらしい。
⠀言い回し的にもローガンかと思ったが、そうじゃなかったらしい。
⠀とはいえ、夜道を幼い子供一人に出歩かせない事こそ、年上のお姉さんのオフィシャルルール。
⠀村長への挨拶が終わったら、宿に戻る前にこの子を家に送り届けようと決めるアイリだった。
「着いたのだ!⠀村長の家なのだ」
「案内してくれてありがとうね。私一人じゃ道に迷ってたかもしれないよ」
「お安いごようなのだ!」
⠀Sランク冒険者だったアイリは、既にこの村の地図は頭に叩き込んでいる。
⠀この村に来るのは初めてだが、冒険者としての必須技能でそれくらいは容易い。
⠀故に予定時刻5分前にはロックスの家に着いたし、その前に村長の家にも足を運んだ。宿もマヨネーズ工場も協会も全て記憶している。
⠀それとは別に、道案内してくれた男の子の気位を立てる。
⠀これはただのアイリの人柄。
「村長がいるのだ!」
「さっきの人だ……本当に村長なんだ」
⠀数刻前にアイリが来た時と変わらず、大きな家のドアの前に立つ老人。
「なんで村長さんはずっとドアの前にいるの?」
「村長はご飯の時と寝る時以外はずっとあそこにいるのだ」
「どうして?」
「さあ?⠀こんにちは村長!⠀もうすぐこんばんは。両方言えるお得な時間なのだ」
⠀何にお得さを見出したのか、ロックスが村長に話しかける。
「んぁ……?⠀おーい村長!⠀呼ばれとるぞ」
「あなたが村長なのだ。スキル鑑定の日は泊めてくれてありがとうなのだ!⠀おかげで寝坊しなかったのだ!」
「そっかそっかあ。よかったな。んで誰じゃお前」
「僕はロックスなのだ」
「んがぁ?⠀しばらく見んうちに大きくなったのおマサヒコ」
「僕はロックスなのだ。今日は村長に挨拶に来た人がいるのだ。アイリ先生、挨拶お願いしますなのだ」
「あ、うん」
⠀何となく分かったと思えばいいのか、よくないのか。
⠀ともあれ目的通り、村長に挨拶をしなければならない。
⠀村長の目の前に立ち丁寧にお辞儀する。
「ご挨拶が遅れて申し訳ございません。王都から来ましたアイリと申します。ロックスくんの家庭教師の為、暫しこの村でお世話になります。こちらつまらないものですがお召し上がりください」
⠀丁寧に挨拶し、村長に渡す為の菓子包みを渡す。
「んお、あんがとな村長」
「私は村長ではありません」
(何言ってんだろ、私……)
「思い出した思い出した……わっしゃあ村長じゃったわ。菓子ありがとなシャルロット」
「私はアイリですよ……?」
「ちょっと惜しいのだ」
「惜しくない惜しくない!⠀一文字も合ってなかったよロックスくん。ロックスくんはしっかりしてて?」
「悪いのお、村長。こいつは最近物忘れ激くてな……」
「私は村長ではありません(二回目)」
「僕は物忘れ激しくないのだ!」
「おおそうじゃ!⠀わっしゃあロックスなんじゃ」
「ロックスくんはこの子です!」
「惜しいのだ村長!」
「何が惜しいのロックスくん!」




