頑張れ、アイリ先生!
「アイリス・ジャックフォード。お前をジャックフォード家から追放する!⠀二度とジャックフォードの名を騙ることは許さん!」
「えっ!?」
⠀お家柄よろしくないスキルと判明した少女は、齢10歳にして実家から追放されてしまった。
⠀それが宗教上の問題というものだ。
「アイリ。お前をSランクパーティー【光来する奇跡】から追放する!」
「ええっ!?」
⠀実家を追放され冒険者ギルドで日銭を稼いでいた少女だったが、2年間所属したパーティーから追放されてしまった。
⠀これが痴情のもつれと言うものだ。
「とほほ……最近は順調だったと思ったのにこんな事で追放されちゃうなんて……気まずくて冒険者ギルドに顔出せないなぁ……」
「そんな貴女にいい話があるわ。仕事を紹介してあげる」
「さ、サリアさん……!いいんですか……!?」
「ええ。貴女15歳よね。貴族のおじさまとお話していっぱいお金を貰うお仕事と、田舎の子供の家庭教師、どっちがいい?」
「後者でお願いします!」
(そんなわけで今の私は家庭教師。今日から私は先生です。頑張るぞ!)
「アイリ先生!できましたのだ!」
「どれどれ……正解!すごいねロックスくん!」
「褒められたのだー!」
「ふふふっ」
(ロックスくんは素直な良い子だし、ご両親も優しそうな人でよかった……)
⠀王都から大分離れた辺境の村。
⠀20年前に王都の貴族が発明したとされる、マヨネーズの名を何故だか付けてるのが【マヨネーズ村】だ。
⠀そんな村の子供の家庭教師になる事にいくつかの不安があるが、ひとまず職場の人間関係は大丈夫そうと安心するアイリ。
「今日は初日だし、ロックスくんもいっぱいお勉強したら疲れちゃうよね。今日はここまでにしとこっか」
「それならお話するのだ!⠀アイリ先生は王都にいたんだよね?⠀王都のお話聞きたいのだ!」
「ふふふっ。ロックスくんは王都のお話に興味があるんだね」
「そうでもないのだ」
⠀じゃあなんで聞いたの?
⠀脊髄反射で出かけた言葉をぐっと飲み込むアイリ。
⠀相手は初対面の子供。なればこそ、意味の無い言動も繰り出して来ると覚悟していたからこそ堪えることができた。
⠀それが先生であり、年上のお姉さんというものなのだ。
「そ、そっかぁ……じゃあロックスくんのお話聞かせてくれるかな?」
⠀何にせよ、雑談をすればお互いのことを知れるだろう。
⠀家庭教師をする以上は生徒との交友、相互理解は必要不可欠。
⠀それがプライベートレッスンというものだ。
「もちろんいいのだ。なんでも聞いてほしいのだ!」
「ありがとう。まずはロックスくんのスキル教えてくれるかな?⠀あっ、やっぱりそれは無し」
⠀アイリ、失態!
⠀数日前まで冒険者ギルドにいた故の失態。
⠀彼女は初対面の人にはスキルを確認するよう心掛けていた。
⠀現場での迅速な連携に不可欠な確認、冒険者以外にも当てはまる処世術。
⠀然して、今は話が別!
⠀人によっては自分のスキルを話したがらない者も少なくない。
⠀特に子供は自分の夢とスキルに隔たりがあり、故にスキルにコンプレックスを持つ子もいる。
⠀アイリ自身もそうだった。
「スキル?⠀【天上天下無双の剣聖】なのだ」
「そ、そっかぁ。素敵なスキルなんだね……えっ……んんっ?」
⠀なんて事なく答えてくれたロックスに、アイリは一安心。
⠀よかった。この子はスキルにコンプレックスは無くて、自分の配慮の欠けた言動で傷付くことがなくて……と思ったところで、異様な単語を聞いた気がした。
「ロックスくん……?⠀スキルの名前……もう一回教えてくれる?」
「【天上天下無双の剣聖】なのだ」
⠀【剣聖】というスキルがある。
⠀ズバ抜けた身体能力に、剣術の天賦の才。
⠀凡ゆる【剣術】スキルの頂点に位置する、世界最高峰のスキルだ。
⠀【無双の剣聖】というスキルがあった。
⠀かつて世界を救った、勇者が持っていたとされるスキル。
⠀【剣聖】をも凌駕する伝説のスキルだ。
「……本当に?」
「本当なのだ。僕は嘘なんてつかないのだ」
「一字一句間違いなく?」
「本当なのだ。僕のスキルは【天上天下無双の剣聖】なのだ」
「ロックスくん。一緒に王都に行こう」
「なんで?」
⠀この子は英雄になる逸材だ。
⠀この子は救世主になれる。この子のスキルならそれができる!
「とにかく王都に行こう!⠀冒険者でも騎士でも!⠀君はなんでもなれるから!」
「なんでも?」
「うん!⠀だから王都行こう!⠀君の才能を無駄にしちゃいけないよ!」
「なんでもなれるなら学者さんになるのだ!」
「違うよ!⠀君は戦う運命だよ!」
⠀少し前まで名のある冒険者だったアイリは、この逸材を辺鄙な村で放っておくのはありえない事だと確信していた。
⠀伝説の勇者にすら勝る、戦いの才。戦いの世界に生きていた彼女にとって見過ごす事はできなかった。
⠀本当に【天上天下無双の剣聖】が戦闘のスキルかを確認する余裕もないくらいには暴走していた。
「待ちなさい!」
「そうだ待つんだ!」
⠀瞬間、ドアが開かれる!
「パパ!⠀ママ!」
「初めての家庭教師で上手く行ってるか聞き耳立てて様子を伺ってたら、聞き捨てならないわ!」
「そうだ!⠀初めてのプライベートレッスンはナニが始まるかと聞き耳を立てていたら、聞き捨てならない事が聞こえたぞ!」
⠀ロックスの両親。オリビアとローガンが現れ捲し立てる。
「ロックスは学者さんになるのよ!⠀騎士だの冒険者だのに誘わないでちょうだい!⠀勝手なことをするならアイリ先生……貴女はクビよ!」
「そうだ!⠀ロックスは学者さんになるんだ!⠀その邪魔をすると言うなら君は我が家から追放する!」
「うええっ!?」
アイリ、追放!
齢15にして、人生三度目の追放!




