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家庭教師がやって来た


「今日は家庭教師の先生が来る日なのだ!どんな人かわくわくするのだ!」



辺境の小さな村──マヨネーズ村の一角に住む一家の一人息子は、家庭教師が来るのを心待ちにしていた。

【天上天下無双の剣聖】のスキルを持つロックスも、無邪気な能天気な子供なのだ。



「あと6分で家庭教師が来る時間ね。お茶もお菓子も用意して準備万端よ」


「そうだ。家庭教師が来るからにはこちらもおもてなしをしなくてはならないんだ。ママが商人から値引きして買い取った高級なお茶菓子で準備は整っているぞ」



この夫婦は妻のオリビアと、夫のローガン。

迫り来る家庭教師に備え、奮発したおもてなしを用意している。



「私の学生時代の友人の紹介だから変な人ではないと思うけど……どんな人が家庭教師か心配」


「大丈夫さ。オリビアの学生時代の友人の紹介なら、変な人じゃないよ。それに、妙な輩なら僕がすぐ追い返してやる。その為に僕は有給休暇を取ったんだからね」



今日はちゃんと有給休暇を取って休んでいるローガン。

彼の勤務するマヨネーズ工場は、辺境伯領全体で見ても有給休暇の取りやすい職場だった。

作るマヨネーズも中々評判がいい。



「パパもママも気合い入れすぎなのだ。僕の先生なのに、パパとママが張り切る必要ないのだ」


「いいえ、駄目よロックス。家庭教師の先生はこれからお世話になる人かもしれないのよ。できる限り良い印象を与えなくちゃならないの」


「そうだ。これから息子がお世話になるかもしれない相手には、良い印象を与えなくてはならないんだ。舐められるわけにはいかない!親の沽券に関わる問題なんだ!」


「そうなのだ?」


「そうよ」


「そうなんだ」



子供のロックスには親の礼儀やプライドは分からなかったが、そういうものかと納得する。

予定時刻の五分前──玄関からノックの音がした。



「────来たわね」




「はっはじめまして!王都の冒険者ギルドのサリアさんからの紹介で来ましたアイリです。ロックスくんのお宅でよろしいでしょうか……?」



愛らしい女の子が来た。

女性と呼ぶにはあどけなく、緊張を隠しきれない声色は微笑ましくもある。



「あらぁ〜!ようこそいらっしゃいましたアイリ先生っ。私ロックスの母のオリビアです〜。さっ、挨拶しなさいロックス」


「ようこそお待ちしておりましたアイリ先生っ。私がロックスの父でオリビアの夫のローガンです。さっ、挨拶をするんだロックス」


「ロックスです!アイリ先生!よろしくお願いしますなのだ!」



他所受け用の、普段より幾分高いオリビアの声に続いて、ローガン、ロックスも次いで挨拶をする。

初対面の印象を重視し笑顔も忘れずに。

大人の処世術は第一印象から始まるのだ。



「ご丁寧にありがとうございます。あ、こちらサリアさんからの紹介状です」



親しげな一家の雰囲気に多少緊張は和らいだか、先程よりは落ち着いた声で紹介状を見せる。

オリビアの友人である、ギルド職員サリアが記した紹介状だ。



「ご丁寧にどうも〜!」


「さっさっ、立ち話もなんですから上がってくださいアイリ先生」


「お邪魔します……」


「いらっしゃいなのだ!」



控えめにお辞儀をしながら上がるアイリ。

黒髪から覗く碧の双眸も控えめに揺れている。



「あっ、あとこちらつまらないものですが。王都で評判のクッキーです。皆さんで召し上がってください」


「わーい!ありがとうなのだ!王都から来た家庭教師のアイリ先生は手土産にお菓子を持ってきてくれたのだ!パパの言う通りだったのだ!」


「えっ?」


「んんッ!変なことを言うんじゃないロックス。パパはそんなこと一言も言ってないぞ!パパは初対面の相手に手土産を期待する男では無い!そんな厚かましい男では断じて無いのだ!」


「おほほほっ。お気になさらないでアイリ先生っ。ささっ上がって上がって」



アイリ先生の家庭教師が始まる!

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