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カティア、襲来


⠀ノックの音がした。



「あら、誰かしら。専業主婦の優雅なアフターヌーンティーを邪魔するなんて無粋だわ」



⠀【マヨネーズ村】の一角、自身と旦那の貯金を注ぎ込み購入した一軒家にて、昼時のティータイムに興じる主婦が一人。

⠀旦那と息子がいない一人の時間、へそくりで購入した王都の高級菓子でセレブリティな一時を満喫していたオリビアは、不機嫌そうに立ち上がる。



「ロックスはまだ学校よね。セールスなら覚悟しなさい。安く買って定価で売り捌いてやるんだから」



⠀主婦の優雅なティータイムを邪魔するのはセールスと決まっている。

⠀追い返すだけでは気が収まらない。

⠀得意の値引き交渉で安く買い取り、後日定価で売却する。

⠀それが貿易というものだ。

⠀あるいは転売。


⠀ドアを開くと、見知った人物だった。

セールスではないならとオリビアも愛想良く対応する。



「あら〜アイリ先生いらっしゃい!⠀どうかなさったの?」


「突然お邪魔してすみません……この子がロックスくんに用事があるという事で……」



⠀来客は友人の紹介で息子の家庭教師をしているアイリだった。⠀

⠀黒髪から覗かせる碧の瞳は何故だか不安げで、隣には見知らぬ少女も立っている。

⠀アイリが話終わる前に、ブロンズヘアーの少女は気品ある仕草で話し出した。



「ごきげんようお母さま。カティア・グライゼンと申します。お忙しい中、連絡もなく突然お邪魔して申し訳ございません。どうしてもご子息のロックスさんに一目お会いしたく来てしまいました」


「!?」


「あらまぁ!⠀随分礼儀正しい子ね〜」



⠀ブロンズのロングヘアーに上質そうな衣服。

⠀スカートの裾を持ち上げ優雅に挨拶する姿は、童話のお姫様のよう。

⠀辺境の村に似つかわしくないカティアの姿に、オリビアも僅かに驚いた。

⠀隣のアイリも信じられないものを見た顔をしている。



「あいにくロックスはまだ学校にいるのよ。夕方までには帰って来ると思うけど……大したおもてなしはできないけど上がってくださいな。アイリ先生も上がって上がって!」


「わぁ!⠀ありがとうございますお母さま!⠀お邪魔します!」


「お、お邪魔します……」


「今お菓子と紅茶用意するわね〜」



⠀珍しい来客、可愛らしいお嬢さんが息子宛に来たなら、母は上機嫌にもなる。

⠀高級な紅茶とお菓子を出すのもやむなしと、オリビアは機嫌良くキッチンへ向かった。



「……何よアイリさん。言いたい事でもあるわけ?」


「……カティアちゃん……私の時と……随分態度違うなぁって……」


「おばさんは単純な生き物だから、適当に愛想良くしとけばいいからラクね。アイリさんにもそうしてあげよっか?」


「いいよ今更……!⠀なんか釈然としないけど……」



⠀本音と建前の激しい子だ。

⠀カティアが話した『契約結婚』の意図は詳しく教えてもらえずに連れて来てしまった事に、改めて不安になるアイリ。

⠀道中でも時間を潰しながら聞いてみたが、カティアは多くは教える気がないようだった。

⠀アイリにできることは、せめて無事に話が解決するように間を取り持つ事だけ。



(不安だなぁ)


「ささっ、どうぞ召し上がってくださいな。大したものなくてごめんなさいね〜」


「わぁ!⠀ありがとうございますお母さま!⠀この香り……王都の有名メーカーの!⠀あたしこんなの初めて!⠀感激です〜!」


「あらお上手ね〜カティアちゃん!」


(不安しかないなぁ……)




⠀アイリと話してる時には聞いた事のない媚び売り声だ。

⠀オリビアもカティアの態度に上機嫌になっている。

⠀どうかこのまま、穏便に話が解決しますように……。



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