謎の少女と人探し
「伝説級のスキルを持ってる人を探してるの。【神の秘跡】とか【無双の剣聖】とか【後退する生え際】とか。一人くらい心当たりあるでしょ?」
「うぅん…………」
「聞いてんのアイリさん」
「ごめんごめん。ちゃんと聞いてるよ」
⠀カティアの挙げたスキルは、いずれも古くからの見聞に伝わる伝説のスキルだった。
⠀特に【神の秘跡】は、世の魔導学から掛け離れた荒唐無稽な逸話から、本当にそんなものがあったのかと、疑問視と同時に神聖視されている。
⠀曰く、死者の死んだという概念すら書き換え、死んだ事も生き返った事も誰も認識できないだとか。
⠀無論、誰も証明することもできない。
⠀今貴方は死んでたけど蘇りました。誰も覚えてないけど本当だよ。と言う逸話。
⠀それでも信じる者もいる。
⠀こうして生まれたのがイーデル教だ。
「事情は聞かないけど……【神の秘跡】にまつわる人探すなら教会に案内しよっか?⠀私は信徒じゃないけど、教会ならこの村にもあるよ」
「はぁ?⠀なんであたしが信徒になりたいみたいな話になってんのよ。そもそも会った事もない神とやらの、一体何を信じてんのあいつら」
「思想が強いよ!⠀そんなこと言っちゃ駄目だよ!」
⠀危ない話になったのを慌てて止める。
⠀宗教の話題は、時にとても複雑で繊細なもの。
⠀同じ宗教でも受け取り方、捉え方の違いで、異なる教義が生まれる。
⠀それが宗派の違いというものだ。
「あたしは神とやらじゃなくて人を探してんの。伝説のスキル持ってる人よ。変なこと言って話題逸らさないでちょうだい」
「ごめんごめん……」
⠀【神の秘跡】と聞き、ナイーブな話題と早とちりしてしまった。
⠀スキルも魔法もある世の中だ。呼び方が何であれ、大いなる存在を強く感じてる者もたまにいる。
⠀思想の違いから思いもよらぬ争いが起こる事もある。
⠀思想が強ければ、それだけ争いも大きくなるもので。
⠀とは言っても、今回はアイリのただの早とちりだ。
⠀アイリの宗教への造詣が深くないせいで、不必要に警戒して受け取ってしまっただけのこと。
⠀カティアは別方向に思想の強い少女だったが……。
(とはいえなぁ……)
⠀伝説のスキルを持っている人に、もちろんアイリは心当たりがある。
⠀家庭教師である彼女の教え子は【神の秘跡】と同じく伝説と称される【無双の剣聖】……の、さらに上と目される【天上天下無双の剣聖】を持っているのだから。
「伝説のスキルって大昔の英雄とかが持ってたスキルだよ?⠀どうしてカティアちゃんは、そんな人を探してるの?」
⠀とはいえ、事情が分からないままこの少女に教え子を紹介するのは気が引けるというもの。
⠀何せロックスは将来学者さんになりたいという夢があるのだ。何の学者さんになりたいかも考えていないのだが。
⠀彼の両親も、息子が学者さんになる事を望んでいる。彼の仕送りで資産運用したり、養ってもらうのが目的らしいのたが。
⠀当のアイリも、ロックスのスキルを聞いた当初は王都に連れて行って戦場に送り出そうとした前科があるのだが。
⠀ともあれ、カティアの目的を確認しないうちは、易々と紹介するべきでは無い。
⠀それが家庭教師のお姉さんというものだ。
「さっきは事情は聞かないって言ってたのに、そんなこと聞くんだ?」
「うぐっ」
「アイリさん、貴女スキル持ってる人を知ってるってことよね?⠀事情を聞いといて心当たりありませんなんて、そんなことあるわけないものね?」
「あっ、ぐっ……ぐう……」
⠀ぐうの音だ。
⠀Sランク冒険者のアイリは、年下の女の子にぐうの音を出させられた。
「た、たしかに……カティアちゃんの言う通りだよ。私は貴女が探してる伝説級のスキルに……心当たりがある……」
「親切に教えてくれてありがとう。案内してくれるのよね?」
「やな言い方だなぁ……分かったよもう……」
⠀ここで否定しても、誤魔化せるはずがない。
⠀心当たりがあるとバレてるなら、この小さな村でカティアがロックスに辿り着くのも時間の問題。
⠀ならばせめて、アイリが直接紹介するのが筋だ。
⠀穏便に話が解決するように、間を取り持つのが責任というものだ。
「案内はちゃんとするけど、その前にちゃんと聞かせて?⠀あの子に会って……何をするの?⠀何をさせたいの?」
「…………はぁ」
⠀数秒、間を置いて。
⠀カティアは心底嫌そうに言い放つ。
「……契約結婚よ」
「けっ……!?⠀けっこっ!?」




