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アイリ先生、謎の少女とカフェに行く


「自己紹介しとこっか。私はアイリ。この村で家庭教師してるの」


「辺境伯領の辺鄙な村で家庭教師なんて物好きよね。冒険者より安定するのかしら」


「気楽ではあるかなぁ」



⠀謎の少女に絡まれ、とりあえずカフェに向かいながら自己紹介するアイリ。

⠀少女にも自己紹介してもらいたいと思ったが、返事は相変わらず生意気で失礼なもの。

⠀しかし『冒険者』というワードが出たのは引っかかった。

⠀元冒険者だと知っている?⠀探ってる?

⠀アイリ自身、隠してるわけでも無いので聞かれれば答えるが、今は自己紹介してほしい。

⠀相手の名前も知らないままで、自分の素性を語るのもおかしな話というものだ。



「あたしはカティア・グライゼンよ。カフェはここ?⠀案外立派じゃない」


「私も入るの初めてだけどね。この村の唯一のカフェみたいだよ」



⠀少女の名前がやっと分かった。やっぱり貴族の令嬢だったかと改めて確信する。

⠀ファーストネームを持つ者は王家と貴族、後は何かしらの功績を挙げて、姓名を賜った者だけ。

⠀アイリの記憶にもグライゼンの貴族性はあるので間違いないだろう。



「ところでカティアちゃん。そのまま聞いてほしいんだけど、後を付けてる人いるよ。振り向かないでね」


「えっ?」


「振り向かないでね。敵意は感じないから大丈夫。長身で初老の男性……村人の格好してるけど多分変装。隠密行動に慣れてる人だね。身に覚えあるかな?」



⠀急な指摘に驚き、振り向きそうになったカティアを静止させる。

⠀素っ頓狂な驚き声が可愛らしい。

⠀宿を出てカフェに向かう道中で初老の男性がいるのは分かったが、敵意を感じず尾行だと気付くのが遅れてしまった。

⠀プロの犯行に違いない。



「……うちの執事よ。勝手に家を出たから追いかけて来たんでしょうね。邪魔してこないなら放っときなさい。ていうか、貴女に気付かれるなんて、うちの執事もまだまだね」


「そ、そっかぁ……とりあえずカフェ入ろっか」



⠀尾行をアイリに気付かれる事はそんなに恥ずべき事でも無いが、相手の素性が分かってるなら心配無いだろう。

⠀不審な人に付けられているわけで無いと確認できれば十分。

⠀カフェに入って、カティアの探し人についての話を聞くとしよう。

⠀手伝うかどうかはともかく。



「いらっしゃい。見ない顔だね。お好きなお席へどうぞ」



⠀初めて入るカフェは、いつもちょっぴりドキドキする。

⠀優しそうな店主に少し安心しつつ奥の席へ。

⠀カティアと向き合って着席する。



「良さそうなお店だね。窓からの景色もいい感じだよ」


「辺鄙な村の景色に大したもの無いでしょ。マスター、この店のオススメは何かしら」


「マヨネーズだよ」


「カフェでマヨネーズがオススメとかある?」



⠀【マヨネーズ村】で唯一のカフェのオススメはマヨネーズだった。

⠀これが聞き間違いか、店主の冗談であると祈りたい。



「お嬢さん達。初めて来たカフェではとりあえずコーヒーを注文するのがベターだよ。コーヒーへのこだわりは店のこだわりそのものだからね」


「たしかに……一理ありますね」



⠀王都でもカフェはコーヒーにこだわる店が多かった、と思い出すアイリ。

⠀マヨネーズをオススメと言ったのは冗談だったのだろう。

⠀まずはコーヒーを飲んでほしいという、店主のこだわりは理解できる。

⠀マヨネーズをオススメした冗談はちょっと理解できないが、そこをぶり返すのは野暮というもの。



「ではコーヒーお願いします。カティアちゃんも同じでいい?」


「そこまで言うなら飲んであげようじゃないの。コーヒーを注文してあげる」


「あいにくコーヒーは切らしてるんだ」


「ふざけてんの?」



⠀カティア。キレた。



「まあまあ……カティアちゃん落ち着いて?⠀気持ちは分かるけど落ち着こ?」


「このあたしをおちょくってるの?⠀あたしを誰だと思ってんの!」


「君の素性がなんであれ、この店にいるからには大事なお客様さ」


「だったらお客様への相応の対応しなさいよ!」


「悪かったよ。コーヒーでも飲んで落ち着いてくれ」


「コーヒーあるじゃないの!」



⠀いつの間にか、店主はコーヒーを用意していた。

⠀テーブルに乗せられたカップから漂う、淹れたての香ばしい香り。

⠀コーヒーのこだわりがカフェのこだわりと言うのは真実なのかもしれない。



「行ってくるねパパ」


「行ってらっしゃいユーリ」



⠀店の奥から出てきた少年が出て行くのを傍目に見つつ、カティアは本題に入る事にした。

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