08.特殊輸送車両クリンタ
ここ30年、巨大災害の影響で、巨大物恐怖症・メガロフォビアにかかる子供も多く居たらしい。
だが俺は、大きなものをちっとも怖いと思わなかった。
覚えがあるのだ。非常に曖昧だが、真っ暗な中にいた自分が、なにか大きなものに助けられたのを。
それは、子供にとっての大人だったのかも知れないし、ヒーロー番組の一場面を自己投影した結果かもしれない。
でも、ロボット、あるいはメカへの憧れが始まったのは、その原体験が始まりだった。
ロボットやメカはいつだって強かった。
ピンチのヒーローが巨大な敵と戦うときの味方であり、怪獣や悪い奴と戦う戦士だった。
やがて誰に言われるまでもなく、『居ない』と悟る程度には健やかな成長を遂げた。
だが、完全な諦めに至るその手前、重機達に出会った。
そして、『居ない』という諦観は、『今は居ない』という認識に代わり、『いつか会える』という希望に変わった。
その最先端に、俺は居る。だから、目が離せなかった現実にある、その力強さに。
「いやいや、確かにそっちがメインっすけど、ご機嫌なニューメカもあるっすよ!オペレーターくん!」
レイさんの言葉に現実に引き戻された。
よほど夢中になっていたのか、気付けば随分近くにアジダハーカの巨体があった。
「おお!そうだった!諸君!格納庫の入り口側シャッターを見たまえ!アレこそが、アジダハーカ専用輸送機!クリンタ号さ!カッコ良く、キャッスル・クリンタと呼んでくれてもいい!」
ニワさんによると。
クリンタとは『CRNT』、Command Role(指揮役)とNew Trailer(新牽引車)を組み合わせたものらしい。
「アジダハーカと有線接続を行い、シュミレーター内同様にナビゲーションすることが可能だ!
サブオペレーション席も、アジダハーカ同様、完全気密可能だよ。
まったく、巨大災害が周辺に電波妨害場を発生させなければ、無線接続でスタイリッシュに出来たのにね」
「でも、ニワ姉様、私は有線接続も好みです!」
「分かるッ!!」
なんて似たもの姉妹だ。いや、俺も好きだけど。
「まぁ、原典をなぞるなら頭文字は『C』では無く『K』としたいところだが、丁度いい単語が無くてね。妥協案だよ」
「…原典、ですか?」
思わず質問していた。なにか、もとになった物があるってことか?
「ゾロアスター教の聖典『アヴェスター』よ。オペレーターさん。
『アジ・ダハーカ』はそこに登場する三つの頭を持つ強力な悪竜。古代メソポタミアのバビロンにある『クリンタ城』は、その竜の住処。…っていう豆知識が、私がやたら長い廊下で話された、命名秘話」
エルさんからの説明が入った。そうだったのか、あの廊下でそんな話を……ん?悪竜?
「…今のために私にこの話をしたのですか?ニワさん」
「さぁ、どうだろうね?しかし、ナイスアシスト丁度いい!わざわざ悪竜の名をとった理由を話すべきだからね!」
どこまで計算ずくなのか、ニワさんはやはり芝居がかっている。
「『3つの口、3つの頭、6つの目』これは、『アジ・ダハーカ』の姿の特徴だ。
そう、つまりオペレーター、サブオペレーター、そして本機体の三つが一つに、というわけさ!
加えて、『アジ・ダハーカ』は悪神アンラ・マンユによって、世界を破壊するために生み出された竜とされる。
巨大災害が闊歩する今この世界を破壊しよう!とは、言葉が強すぎるが、現状打破の願いだね。
他にも、様々な魔法を使い非常に狡猾で強い力を持っているとされるが、これはまさに人間では?
行きすぎた科学など魔法と区別が付かない、とされるし。
あと言葉の響きがカッコいい」
最後だけ、めちゃめちゃ早口だったが、それが本音では?
「ともかく!現在、巨大災害を駆除する為には、
複数台の大型重機を操作し身体を固定したうえで、
有線ドローンによる『コア』位置の特定、
一定以上威力の火器による『コア』の破壊。
これらの一連作業を、完全防護服を着用、かつ無線連絡使用不可の状態で行わないといけない。
それを今ならこの一台!対巨大災害双腕重無限起動機、通称アジダハーカ!…というわけさ
まぁ、試作段階の現在で、今例にあげた重機及び、機器や使用道具の購入額の三倍程度の予算はかけているがね。これから要調整、なのさ」
いまさらながら、『商品』なのだな、アジダハーカ。
「ちなみに操作席の竜の頭は?」
「ワタシの趣味」
「ついでに名前も?」
「ワタシの趣味。……あ、誘導尋問はずるいぞ、ガズくん」
公私混同はズルくはないらしい。
その後、操縦席の構造を補強する利点と、ヒロイックな見た目や名前が与える効果などを語っていたが、省略していいだろう。
「おっと、最重要事項、『先端重機開発室の今後』がまだだったね。
ただ、それより先に、やりたい事がある。皆、それぞれ個々の携帯端末はもっているかな?」
その問いに、皆頷く。俺も支給されたものを持って来ている。
「うむうむ、では最初に……アジダハーカと一緒に記念撮影といこう!SNSへの投稿はダメだよ?」
だから、しねぇよ。




