07.黒鉄・ニワ
「さて、我々、黒鉄重工が世界的企業になった背景。
それは、いち早く他の企業が倫理観から躊躇った『コア』からもたらされた新機軸の技術の導入、それを貪欲に成し遂げたから、というのが一点。
他にも、世界情勢の影響ががある。ガズくん、答えられるかな?」
「全世界の建設重機特需、ですか?」
これは、先ほど聞いた話だった。
「その通り!巨大災害に対する各国の対応は様々でね。
すぐに軍隊を派遣する国もあれば、事なかれ主義で24時間後の消滅を待つ国もあった。
ちなみに、『ハザードマテリアル』の大気中の汚染度合いは、この時の対応で過激な対応を行った国ほど高い。
皮肉な事に、軍事に強いの国ほど、初期対応で汚染は広がったのさ。
いずれしてもスクラップの後にはビルドが来た!
即ち、重機が求められる、建設重機特需だね。
しかも、彼らは複数の重機で押さえ込む事が可能だった、というのも大きい。
即ち、重機は人類既存の道具で唯一の対抗策にもなった!
もちろん、火器、重火器を除く、ね。
求める者も、企業も、国も増え、より高性能、より新機軸、それを実現したのが、我らさ!」
スライドには、黒鉄重工の事業規模が表示されているが、年々右肩上がりだ。
「うん、この企業、黒幕の悪の組織っぽい!実は上層部が仕組んだ世界的テロでは!?
…とは、思っても口にしてはいけないよ?SNSへの書き込みもね」
しねぇよ。
「そして、我ら黒鉄重工の巨大災害解析班は、約20年前、出現パターンの解析に成功。
アラートの開発に成功し、即、全世界へ技術公開をした。
この発明により、事前避難と対策が可能となった。
検知機とアラートシステムは、全世界に配備された。
検知機設置箇所を対象とした現在の精度、的中確率は、
1ヶ月前で20%、
2週間前で40%、
1週間前で80%、
3日前で100%といった所かな?人的被害は劇的に減らせたのさ!
ああ…ただもっと、早期に……いや、たらればは良くないな!
その偉大な先輩の名は、社史にも刻まれているから読むといいよ!
キミ達の学習の機会の為にも、ここでは触れないでおこう!」
言葉の最後、ニワさんは明らかに取り繕っていた。
俺は知っていた、その訳を。
偉大な先輩の名は黒鉄・ミツキ。ニワさんの母親で、もう亡くなっている。
『ハザードマテリアル』に身体を汚染されながらも、研究を続けた偉大な発明家。
アラートシステムの完成と配備を見て、旅立っていったそうだ。
20年前に完成したとされているが、それは認可が下りた年だ。
実物は22年前には、完成していたそうだ。丁度、俺が孤児になった年でもある。
ニワさんの紺色縁の眼鏡の奥は笑顔だ。
だが、そのもっと奥を、俺はこの話を聞いた時に見た。
巨大災害への怒りと、後悔や罪悪感の混ざったような、複雑な色だった。
俺には黒鉄重工に恩しかないと言うのに。
「おっと、スライドはここで最後か。
『先端重機開発室の今後』という最後の項目は、場所を移して話すとしよう!
そうそう、その前に最後の質問だね。
工業専門学校卒業後、黒鉄重工整備部に就職、先端重機開発室設立当時から、とある重機の開発に従事してくれたレイくん!
本日、最終点検を終え、現在格納庫で待機中の重機の名は?」
「はいっす!対巨大災害双腕重無限起動機!通称アジダハーカっす!」
「その通り!ワタシの我が子に等しいアジダハーカさ!
さぁ、みんな!続きたまえ!この部屋には格納庫への直通道を作ってある!」
意気揚々と全員を案内しようとするニワさん。
だが、部屋の入り口へと向かわないニワさんへ、皆、どこか不審な目を向けている。
「ニワ姉様。今度こそ、普通の廊下ですよね?」
「…私以外にも被害者、居たのね…」
「…自分も昨日やられたっす」
「…実は、俺も今日……」
このメンバーと仲良くなれる気がした。
部屋の扉の一つを開けると何の飾り付けもない個室になっていて、そこに全員で入った。
ニワさんが、なにやら操作パネルを弄ると、かすかな駆動音が聞こえたと思ったら、すぐに静かになった。
「ワタシは、司令部から格納庫に向かう移動装置が好きでね。
故にこの横移動式エレベーターも作ったのだよ。初めての移動は、オペレーターの皆と一緒に、と決めて居たから、ワタシも乗るのは始めてさ!」
移動中も音や、振動をあまり感じない。静音性、耐衝撃吸収性の応用、という技術がここでも使われているのだろうか?
「分かります!ニワ姉様!」
「……試運転はされましたよね?」
「遠隔では実施済みさ!」
ティアさんは喜んでいたが、エルさんはまだ不安そうだった。
「そう言えばすけど、格納庫の隅で作業していたような気がするっす…。そんで、自分だけその周辺には立ち寄らないようにって、お達しが…」
「それもワタシだ。今日という記念すべき日には、色々な初めてを共有したいだろう?」
その言い分は少し分からないが、随分張り切った準備だ。
ケーキやチキン、シャンパンもあるのだろうか…。ないとは言い切れないな…。
やがて、静かに扉が開いた。
目に飛び込んで来た。
巨躯で異形な、何度も見ているのに、初めて合う竜の頭を持った重機。
それに向かって、一歩二歩、と無意識に足が進んだ。呟きも思わず漏れた。
「お前が、アジダハーカ…」
「その通りさ。現在ただ一人の正オペレーター、黒鉄・ガズくん」
その言葉に高鳴った。仮想が、現実になってそこに居た。




