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【第二章完】重機王フェリドゥン ~ロボで戦う社畜、気付けばハーレムラブコメ展開になる~  作者: 沢クリム
第三章

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33/36

33.重なる拳の律動

 


 15分のウォーミングアップの後、トレーニングマシン体験では、記録を測るように俺でも知ってるようなメジャーな機種に触れた。

 チェストプレス、ラットプルダウン、レッグプレスの順番だ。


「レイさん、さすが経験者ですね。フォームがブレてないです。

 ガズさんは僕と一緒に、まずはこの背中のシートの位置から調整していきましょう!」


 レイさんが経験者と分かると、インストラクターの東さんは主に俺に使い方の指導をしてくれた。

 それから、呼び方も俺達に合わせてくれたみたいだ。


 なんとか、全ての機種でレイさんの記録を抜いたが、その差は僅差。


 正しい姿勢と経験というやつは、純粋な体格差や筋肉量のハンデをこうも簡単に埋めてしまうらしい。技術の最適化という意味では、なんだかフェリドゥンの制御プログラムにも通じるものがある。


「それでは15分の休憩後、スタジオレッスンを開始します。

 ベンチとストレッチスペース、どちらでもご自由にご利用いただけますよ。

 それから、こちらは当ジムで販売していますクエン酸飲料となります。

 試供品ですので、お気に入りになりましたら是非ご購入くださいね」


 爽やかな笑みと共に、ペットボトルを渡してきた東さんは、一旦退出した。


 今はレイさんと二人、並んで座っている。

 同時に傾けたペットボトルは、喉から身体に染み渡るようだった。


「ぷはぁ…!いやー、うまいっすねぇ」

「ですね。少し酸っぱいけど、甘くて」


 俺の言葉に、レイさんはチッチッチ、と人差し指を左右に振るような訳知り顔をした。


「ガズくん、うまいのはこのドリンクの味じゃなくて、『やり方』っすよ」

「やり方?」


「そうっす。本来なら地味で回数をこなすだけの退屈な筋トレを、『挑戦』と『成功体験』のゲームに昇華させてるっす。

 しかも、こうして絶妙なタイミングで疲れを残さない配慮までセットで提供する……。

 流石ウチの、黒鉄重工の傘下企業っすね」


 どうやら経験者の視点があったようだ。うんうんと感心した様に頷くレイさん。


 確かに、身体的負荷より精神的充足感が勝っている。


 特に最後のレッグプレス。

 シートに座った状態で、足の裏で重りのついたフットプレートを押し出すトレーニング機器で自分の体重の2倍程度の重量を上げたときには自分でも驚いた。


 そこには、レイさんの応援という助力もあったと否定出来ないが。


「ユーザーエクスなんとやらってやつを実によく分かってるっす」

「エクスペリエンス?」

「そうそう、それっす」


 ユーザーエクスペリエンス。商品やサービスを利用してユーザーが得る体験や感情全般、だったと思う。

 同僚のエルさんか、上司のニワさんが言っていたような気がする。


 充分知的だったのに最後が締まらないレイさんと、笑みを交わしている間に、休憩は終わった。



 そんなわけで、スタジオレッスンの時間になった。

 そもそもスタジオレッスンとは、インストラクターの指導に合わせて音楽や映像を使い、複数人で一緒に運動を行うプログラムらしい。


 今回の体験会で選べたのは30分のボクシングレッスン。

 当然ながら経験はないが、ボクシング自体はイメージしやすい。


 シャドーなども嗜んだこともある。

 おそらく経験者から見れば失笑ものの、お遊びクオリティだろうが。


 今日は平日の昼間。10人ほどの主婦層、それに男子大学生の2人組もいた。

 俺達も合わせて14名。レイさん曰く、この時間帯ではなかなか集まったほうだという。


「こんにちは!本日指導役を務めます。東です。よろしくお願いします!」


 ―――よろしくお願いします!


 指導役はまたもや東さん。

 俺達の相手に、スタジオ準備などもしていたはずだ。

 だが、14人の挨拶に変わらず爽やかな笑顔で応えている。


 流石、スポーツマンの体力。

 前を陣取った主婦層の黄色い声援も納得だ。



 その後、ウォーミングアップで軽いステップやストレッチ、ジャブやストレートなど基本のパンチの型を確認していた。


 やってみると、足も結構動く。

 所謂、腰の入った動きは、フェリドゥン操縦にも通じるものもあるな。


「「―――シッ!」」


 呼吸を吐く音が、レイさんと被った。ついでに視線も交差していた。


 音楽に合わせてパンチを連続で繰り出すメインパートに入った。

 その中で追加された避ける動き、ダッキングやウィービングがなかなかに良い運動になる。


 主婦層で途中、少し立ち止まる人も居たが、俺とレイさんはついて行くことが出来た。


「はーい!今日は広くスタジオを使えますので、二人一組のプログラムをやってみましょう!」


 同じ動きをしつつ、声を出しているのに笑みを浮かべている東さんにはもはや尊敬の念すらある。マッチョすごい。


「となりの方と向き合って、絶対に手が当たらない位置から、さらに一歩下がりましょう!いいですよー!

 それから、右の人がジャブを打ったら左の人がダッキング!次はその逆!ワン、ツーで行きますよー!元気な人は声を上げてくださいねー!」


「「ワン!ツー!ワン!ツー!ワン!ツー!」」


 レイさんと向き合って、声を出す。シンクロした動きのようで面白い。

 代わりに体力が削れていってるはずだが、完全にアドレナリンが出ていて、顔には笑みが浮かんでいる。


「それでは最後にー!ストレート!!」


「「ストレート!!」」


 空中でお互いの汗がぶつかった気がした。



 その後、音楽が穏やかなものに変わり、皆で前を向いてクールダウンの時間になった。


 息は荒いが、まさに満足感に満ちた30分だった。


 ユーザーエクスペリエンス…覚えておこう。



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