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【第二章完】重機王フェリドゥン ~ロボで戦う社畜、気付けばハーレムラブコメ展開になる~  作者: 沢クリム
第三章

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31/36

31.予定表には『力こぶ』のマークを書き込んで

 


「お待たせしましたー! エビフライハンバーグセット、ライス大盛り、タルタル多めでーす!」


 店員さんの威勢のいい声とともに、鉄板の上でジューシーに音を立てるハンバーグが二つ、テーブルに並べられた。

 デミグラスソースの爆ぜる香ばしい匂いと、これでもかと盛られたタルタルソースの白が、視覚と嗅覚を暴力的に刺激してくる。


 しかし、ライスの皿にはマスコットのマッチョが書かれ、ライス盛られ方は、上腕二頭筋になっていた。

 常連のレイさんに気にした様子はない。これがこの店のデフォルトなのだろう。

 …プロテインとか入って無いよな?


「うわぁ、やっぱりここのは最高っすね!じゃ、いただきまーす!」

「うまそうですね、ハンバーグもエビフライも。…いただきます」


 レイさんは嬉しそうにパチリと箸を割り、さっそくハンバーグに手を付けた。

 俺もそれに続いた。肉汁が溢れるハンバーグと、サクサクのエビフライ。

 重厚なデミグラスと濃厚なタルタルソースの組み合わせは、お世辞抜きで絶品だった。


 そして意外な発見、ライスが二つこぶになったことで、ハンバーグ用とエビフライ用にご飯の組み合わせが変えられる。とにかく、これはご飯が進む。



「……ん?」


 ふと、視線を感じて顔を上げた。

 対面に座るレイさんが、箸を止めてじっとこちらを見つめている。なんだか嬉しそうな笑顔だ。


「レイさん?どうかしましたか?」

「あ、いや! なんでもないっす!ただ、ガズくん、本当に美味しそうに食べるなぁと思って」


 先輩の前というのも忘れ、気付けばライスの皿を抱えている俺がいた。

 ……食べ方がやんちゃ過ぎただろうか?


「だって、すっごい良い笑顔っすよ。……あ、ほら、箸止まってるっす。せっかく熱々なんだから、冷めないうちにじゃんじゃん食べるっすよ!」


 レイさんは慌てたように自分のエビフライを口に放り込みんだ。サクッという音と共に、レイさんの表情も解れた。


 俺は、少し表情に迷う。なんだか、妙に気恥ずかしいのだ。

 誤魔化すように放り込んだハンバーグからの肉汁が、口角を上げたので、きっと俺達は似たもの同士だろう。


 ひとしきりお互いの胃袋に肉を収め、落ち着いたところで、俺は気になっていた本題を切り出した。


「……さっきの話なんですけど。俺、本当にジムなんて続けられるか分からなくて。まずは体験会、行ってみようか迷ってるんですよね」


 すると、レイさんの目が途端にきらきらと輝き出した。アニメの布教の輝きによく似てる。


「え!本当っすか!?だったら、私がガズくんのサポートをしてあげるっす!」

「…いや、でもレイさんは経験者ですよね?

 初心者の体験会にわざわざ付き合わせるのは悪いですし……」


「そんなことないっす! ……あ、いや、実は……」


 レイさんは人差し指同士をつんつんと合わせながら、少し気まずそうに視線を泳がせた。


「自分、最近ちょっと仕事が忙しくてサボり気味だったんっすよね。前のジムも一ヶ月通えなかったんで辞めたんすよ。ほら、『あの子』のことで精一杯だったっていうか…」


『あの子』、それが指すのは俺達の『黒鉄重工先端重機開発室』の搭乗型変形二足歩行重機『フェリドゥン』のことだろう。

 世間にその存在と、現在行われた実証実験の映像は発表されているが、開発チーム、俺達のことは特に守秘義務が強い。

 先日のコンプライアンス研修後でも、再確認があった。


「……その、偉そうに講釈たれといてなんっすけど、やっぱ初めての場所って不安じゃないっすか。

 一緒に行ってくれるとうれしいなー、なんて!らしくないっすけど!」


 誤魔化すように笑ってるが、その発想はまさに今の俺と同じだった。

 …いや、もしかしたら、それを察して、あえて言ってくれたのだろうか?


 色んな意味で、嬉しいお誘いだった。


「……レイさんがそう言ってくれるなら、ぜひお願いしたいです」

「やった!じゃあ、決まりっすね!」


 レイさんは弾けたような笑顔になり、素早くスマートフォンを取り出した。

 画面には、先ほどチラシで見た『アイアンスポーツクラブ』の予約ページが開かれている。仕事が早い。

 パソコンはやや苦手と言っていたが、『フェリドゥン』の点検作業でも使うタッチパネルの端末の扱いはお手の物だ。


「じゃ、ガズくんの来週に有給を取る日に合わせるっすよ。自分もその日にするんで。

 …ええと、午後のこの時間なら、二人同時に体験会の枠が空いてるっすよ!」


「あ、じゃあ俺も今予約します。ところで、俺、有給の日って話しましたっけ?」

「え?…予定表を見たんすよ!たまたま!じゃあせーので送信するっすよ。せーの……よし、完了っす!」


 画面に表示された『予約が確定しました』の文字を見て、レイさんは満足げだった。

 そして、その画面と俺の画面を見て、より笑みを深めた。


「これで有給の言い訳も、美味しいご飯の言い訳もバッチリっすね!ガズくん、当日はよろしくっす!」

「はい、よろしくお願いします」


 ふふ、と嬉しそうに笑うレイさんは、残っていた最後のエビフライを口に運んだ。


「あ、ちなみに、今日の摂取カロリーの計算はしない方が身のためっすよ!」

「ですよね」


 俺はベルトを一段階緩めながら同意した。

 ライスの皿の底では、マッチョがこちらに親指を立てていた。



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