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【第二章完】重機王フェリドゥン ~ロボで戦う社畜、気付けばハーレムラブコメ展開になる~  作者: 沢クリム
幕間②

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27.新世界の英雄達へ



 ーーーーーーーーーーーーーーー


ちぐはぐな部屋だった。


そこには今まさに、巨大蟹を討伐した鋼の英雄が映し出されている。


「うーん。何度見てもイイね!

 ちなみに、この後はみんなで泥を被りながら運搬作業をやったり、翌日はうまい海鮮に舌鼓、なんてこともあったのだが、流石に蛇足だろう?とくに、キミ達にとっては、ね?

 さて、閑話休題」


無駄話はここまで、とし、その顔から笑みが消えた。


「キミ達を元の健常な身体に戻せるかもしれない、夢の特効薬。その可能性の話に戻ろうか。

 残念ながらピュアセロトニンは、人工的に合成することが絶対に不可能なのさ。では、どうやって精製するか?

 これにはね、『極限状態における、男女の自然な純愛』が必要不可欠でね」


 くす、と自称ドクター黒鉄は喉を鳴らして笑った。

 キーボードを叩き、メインモニターに二足歩行兵器『フェリドゥン』の機密仕様書を呼び出す。

 そこには、開発コードの真の並びが映し出されていた。


「Fairy Declare Nuptials(妖精結婚宣言)。

 これこそが、あの泥だらけの英雄が乗る機体の裏の名前。……そう、あれは巨大災害を倒すための兵器であると同時に、最高に贅沢で命がけの『お見合い会場』なのさ」


 赤い眼鏡の奥で、彼女の瞳が冷酷な歓喜に細められた。


「ハザードマテリアルに完全な耐性を持つ、人類唯一の素体。ワタシの可愛い身内、黒鉄・ガズ。

 彼を中心に職場恋愛を展開させ、命のやり取りの中で本物の愛を育ませる。その純愛時の脳内から溢れ出る『ピュアセロトニン』こそが、この世界を救う唯一の特効薬になる。

 もちろん、当の本人である彼や、可愛いサブオペレーターの彼女『達』には、くれぐれも秘匿された絶対機密だけどね。


 ああ、言っておくと、彼の脳髄を取り出してもどうにもならないよ?

 ただ、彼らが装着した特殊作業着の一部で汗などの体液は常に収集し、分析は進めているけどね。

 健康管理は上司の役目なのさ」


 モニターの中の亡霊たちのバイタルが、困惑と怒りで激しく明滅し始める。


 かつて世界を数字で支配していた権力者たちが、今や若者の「恋愛感情」という最も不確実なものに、人類の、そして自分たちの命運を握られている。その滑稽さへの感情で。


「キミ達がかつて作った『搾取の仕組み』なんて、もうどこにも残っちゃいない。

 これからの世界を支配するのは、データでも権力でもない、若者たちのピュアな恋心さ。ねえ、最高にくだらなくて、最高に素晴らしいと思わないかい?

 せいぜい特等席で、彼らの青い春の結末を見守って執着しておくれ、元・支配者諸君」


 高額なコーヒーメーカーのスイッチを入れた。

 部屋の中に、芳醇な香りが広がり始める。


「今回の定期報告はここまで。

 ああ、ついでに今、黒鉄重工では『買い手』を募集していてね。所謂スポンサー募集をしていると告知させてもらおう。

 スポンサーにはもちろん、研究成果の優先権が与えられる。

 それから、もしワタシになにかあれば……今までの研究は水の泡になってしまうかもしれないね。なぜか。

 

 存分に牽制し合い、残った金を出し合い、寝たきりでも動かせる人脈を総動員することをオススメするよ。無論、ワタシを不快にさせない範囲で、ね?

 そして、その対象はワタシだけでは無い。

 同僚の皆にも支給した端末から常にバイタルチェックをし、『なにか』起こらないか観測中なのでご承知おきを……。


 それじゃあ、次の『災害』が牙を剥き、皆の距離がまた一歩近づくその時まで、どうぞお幸せに」


 プチリ、と冷淡な音を立てて通信が切断され、ちぐはぐな部屋に再び静寂が戻った。


 部屋の主は、抽出されたコーヒーを口元に運び、香りを楽しむ。


「おっと、そろそろ寝る時間だったね…」


 そして、名残惜しそうに、それを捨てた。眼鏡を外す。眼鏡の下は、年の割りに幼くも見えた。


「……母も厄介な遺産を残してくれた。

 誰かの目に触れる前にワタシが把握出来たことは僥倖。

 『彼ら』を使った牽制、いつまで持つか。……人の知りたいという欲求を、生きたいという欲求で牽制する。まったく、悪魔か、ワタシは……。今日はもう、思考を止めよう」


 部屋に眼鏡を置いて、真っ直ぐ扉へ向かう。扉の先は、寝室だった。


 そこは暖色で統一され、柔らかそうなベッドと枕、いくつかのぬいぐるみ達が鎮座している。

 その部屋の住民の視線を外れたところで着替え、ベッドに横になった。


「……はぁー、ダルっ……つかれたー」


 大きなため息は、毛布に吸い込まれる。

 暖房の駆動音だけがしばらく響いた後、枕元の携帯を弄る。開くアプリは写真の保存フォルダだ。

 指の動きに合わせて、思い出を巡る。


「……ふふっ…」


 そこに自分は映っていない。映っているのは、同僚達だ。ガズであり、サブオペレーターの彼女達。

 料理と一緒だったり、フェリドゥンの前ではしゃいでいたりする。


「……さて、明日の出社が楽しみだ。…キミ達……」

 

 その日の黒鉄・ニワの最大の計算違いは、携帯端末の充電忘れであった。

 翌日、携帯端末を充電器に繋ぎっぱなしなことを弄られることを、眠りについた部屋の主は知らない。



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