24.運用実験第二回
11月下旬、我ら『先端重機開発室』一同は、冬の海に居た。全員、防寒着は着用済みである。
「さて、この一ヶ月。歩行訓練をしつつ、パーツ、否!ネジ単位での改善を繰り返して来た訳だが…出資者の声は、この海のように冷たかった!」
ニワさんの言葉に合わせ、なぜかいいタイミングで波しぶきが上がった。仕込んだのか?
「確かに…合体機能、二足歩行機能のオミット要求は、歩行データと安全性を示しても撤回されることはなかったわね…」
エルさんが続く。
俺も開発室で、エルさんの事務仕事を手伝う際、その意見書には多く目を通した。
「遺憾の意。不満のフですね。ロボットにロマンを求めるという日本の武士道精神が足りませんっ」
ティアも続いた。
前半は日本語が間違ってるし、後半は偏見が過ぎる。少なくとも武士の時代にロボはない。
「例えば、二足歩行状態じゃ無いと対応出来ない所に巨大災害が出現して、そこでの実験が許諾されれば…なんて話してたっすけど。……ホントに都合良く起こっちゃったっすね」
レイさんがまとめた。
そう都合よく起こったのだ。巨大災害の予想がされたのは、現在地。
より詳しく座標を示すなら関東地方の干潟地帯、被害予想範囲には漁港や家屋が入っている。
過去、干潟に出現した際の事例を紐解けば、ぬかるんだ干潟には重機の侵入が難しく、これまでは重機を陸地に並べ、数で対応していたそうだ。
「このような場所に出現の予測が発表された際には、放置も検討されていたのだが…。
地元議員が漁港周辺の出身で、その支持者が『フェリドゥン』の存在を知って居たことでお鉢が回ってきたというわけさ!ありがたいね!」
連絡を受けたニワさんは快諾し、実験許可の申請の際には、その議員の口添えもしっかり貰ったらしい。
そして、現在、事前の現地確認に来ている。全体が見渡せるように、干潟からは少し離れた堤防に集まった。
現在9時半、出現予測自体は6時間後、午後3時半だ。
「さて、現地確認も済んだね。事前ミーティングでも確認済みだが、念のために確認しておこう。
オペレーターはガズくん。そして、本日のサブオペレーターはエルくん。歩行訓練の実働時間で選ばせてもらった。二人ともよろしく!」
「「はいっ」」
ニワさんの言葉に俺とエルさんは返事をする。
フェリドゥンの歩行訓練も、最近はティアとレイさんもこなしているが、エルさんに一日の長がある。
「ティアとレイくんはワタシの補助をお願いしよう。
この後は、機器のチェック、測定のシュミレーションは行うが……ふむ」
ニワさんは、漁港近くに止められた重機と輸送車、アジダハーカとクリンタ号に目をやった。
そして、携帯端末と見比べている。
「あの位置は、少し出現予測地点から近いかな…。予想範囲でも、かなり漁港寄りになったか…。念のため、少し車両を動かして作業に取りかかろう」
巨大災害の出現予測まで後6時間、ほとんど場所は確定している。
故に、あまり近くでの作業を行えないのだ。
それと言うのも、巨大災害の出現場所に干渉した場合、予想から大きく外れるのだ。
検知機の設置された直後、人類が共通で行った事がある。それは待ち伏せ。
防壁を築いたり、捕獲ネット等の罠を仕掛けたりと様々だった。
しかし、それらはまるで意味を成さなかった。
宣告の通り、予測範囲内で過度の干渉をすると、別の場所に出現するからだ。それも、予測時間すら破って。
そして、その可能性は、開発者、黒鉄・ミツキも提言していた事でもある。
一度、某国政府の重要施設近隣に出現予測が出た事がある。
この理屈を逆手にとって、その場所に防衛戦力を集結させた際、避難地区に指定された場所に巨大災害は出現した。
検知機の設置以降、最大の死傷者を出したこの国は、国内外から非難にさらされた。
結果として、他国からの政治干渉を止められず、指導者は更迭、新政府が樹立したという。それは立派な傀儡政権だった。
ニワさんも流石に慎重にならざる終えないのだろう。
「うーん、あの場所が冬の海とは言え、合体時のフェリドゥンが一番映える背景だったのだが……残念!」
「……残念でしたね」
一度頭部パーツの中身を改めた方がいいと思う。ニワさんの。
俺達は、場所を移動し、作業に取りかかった。
機器の確認は、遠く離れた技師が遠隔操作のするドローンが行い、レイさんが目視で最終確認。
ティアとニワさんの作業情報技術班は、タブレットやノートPCを並列で使いっている。作業内容の1割も分からない。
そんなわけで、俺は雑用を行っていた。ドローンの誘導や、レイさんへ必要機器を渡したりだ。
エルさんは、作業情報技術班の補助。7割ほどは把握しているらしい。俺の約七倍だ。
そうしているうちに、やがて昼前になった。
「お疲れ様、ガズくん」
「お疲れ様です、エルさん」
作業を続けるレイさんと別れ、エルさんと合流した。
操縦組は、早めに食事と排泄を済ませ、特殊作業服を着ることになっている。
漏らしても大丈夫な作りをしているのだが、なるべくお世話になりたくないのが人情だ。
「保存食はやっぱり味気ないわね」
「漁港の人も、地元飲食店の人も避難してますからね」
「この辺は貝や穴子が名物なのよ?……言うんじゃなかった……」
海鮮好きのエルさんは、自分で言って自分で沈んでしまった。
保存食のメニューは俺はラーメン。エルさんはトマトスープパスタ。漁港の近くだが、魚にかすりもしてない。
「今日予定通りに行けば、明日は開く店もあるんじゃないですか?」
今日はこの近辺、といっても避難範囲外だが、宿を取っている。事後の事も考えてだろう。
明日の午前までは撤収作業の予定になっている。昼頃には身体は空いてるので、地元で食事が取れるかもしれない。
「絶対、巨大災害を倒しましょうね…!」
「…そうですね」
海鮮の為にも、そんな言外の決意を感じた。
あの居酒屋の夜より、時折この小さな先輩の頭に手を伸ばしてしまいたくなってしまう。
バレないように気を付けよう。そう、俺は決意した。




