18.格納庫内歩行実験
午後、格納庫内には、合体済みのフェリドゥンが起立している。
この前の夕日の中で学校の校舎前で立つ姿が凜々しい立ち姿なら、今日は言葉を選ばず言えば病人だ。
というのも、身体、機体の全身からケーブルが伸びているのだ。
無論、データ収集の為のものだが、外部装甲の一部が剥がされ、そこからチューブのように伸びたケーブルが病人のようなのだ。
しかし、これはこれで……
「うむ!内部フレームというのはそそるね!例え、自らが設計したものだとしても!」
「…そうですね」
いつの間にか、隣に居たニワさんに声を掛けられた。
心を見透かされたようで少し居心地が悪いが、俺もたしかに思った事だ。
「私は半分が装甲を付けた状態で、半分が内部機構むき出しの状態の図解が好きです!」
「自分も三面図も好きっすね。一部の武装の解説も載ってるなおよしっす」
ティアさんとレイさんも合流している。いいよね、公式図解。でも近くない?
「そこまでにしましょう。今日は二人とも機体のリアルタイム分析と解析があるでしょう?ニワさんは言わずもがな」
「はーい」 「はいっす」
あっという間に二人を所定の位置に戻したエルさんの手際には関心せざる終えない。
「まったくその通りだ。仕方ない。今日は二人とも任せたよ!」
「はい!」
「任せてちょうだい」
一番仕事の多いニワさんも、離れてゆく。
今日はエルさんが、サブオペレーターをやる予定だ。
他、二人がエルさんも言った機体とシステムの分析と解析も行う都合上、必然の組み合わせになるわけだ。
「今日はよろしくお願いします…っ!」
「…?なにかしら…?」
今日のパートナーのエルさんを見てしまった。
特殊作業服は操作性を邪魔しない身体に密着する素材、つまり体型がはっきりと出る。
小柄だが、はっきりと女性らしいくびれや、ヒップのラインが目に入る。
慌てて目を反らす。
「ああ、分かったわ。気になるのね?」
「い、いえ…!」
「私は図解なら、機械生命体の共生関係や生体を描写されてると嬉しいわね」
「……俺も劇中描写の解説なんかも好きです」
少しマニアックな会話は、搭乗時刻まで続いた。
『では、格納庫内歩行実験を開始する。所謂一つの、今は歩くことだけを考えて、というやつさ』
今日は巨大災害は居ない。操縦席で司令官の声を聞く、という大変アガるシチュエーションではあるが、これは仕事だ。冷静にいこう。
「ああ、了解だ」
いや、違う。テンションが上がってる訳では無い。
運用実験第一回で、正式に敬語禁止例が適応されたのだ。その方がパフォーマンスが上がるという、ティアとレイさんの猛烈なプッシュがあったことは確かだが。
『こちらも、準備完了してるわ』
その影響か、それとも一ヶ月の作業と交流の成果か、分からないが、エルさんもニワさんに対しても遠慮のない口調変えている。二人の間でなにかあったのだろうか?
細かい所は置いておいて、今日はエルさんも搭乗している。
転倒や事故も当然想定されているフェリドゥンだが、万が一も許されない。緊張感をもって取り組もう。
『外部からの解析ですけど、お兄様に緊張が見られます!』
『機体に異常は無いっす!オペレーターくん!緊張しなくて大丈夫っすよ!』
妙に気の抜ける声がするけど、頑張ろう。
『二人とも、オペレーターくんのことは私に任せない。今日は、ね』
『…はい』 『…了解っす』
それきり、二人はすっかり大人しくなった。おそらくシステムや機体の監視に戻ったのだろう。
フェリドゥンの機内カメラからも、専用モニターに真剣な目を注ぐ二人の姿が確認出来た。
フェリドゥンの機内カメラは、俺の視線を感知し、注目部分をズーム表示出来る。
二人の事を確認出来たのもその機能のお陰だ。
『さて、データ的にも緊張は解れたようだ。では、計画書通りにいこうじゃないか!
まずは、静的歩行。一歩一歩踏みしめるように歩いてみてくれ。
問題なければ、動的歩行に移ろう。
慣性力と重力の合作用点が足の裏にとどまるように制御する段階だ。
多少難易度は上がるが、初期状態の今でも機体性能や理論の時点では軽いダンス程度なら問題なく行えるはずさ。
ただ、フィードバックに関しては未知数。シミュレーターと実機の差、加えて個人差までは計算出来ない。二人とも、異常があれば、すぐに知らせてくれるね?』
最後の、二ワさんの声色、それは真剣そのものだった。
「ああ、すぐに報告する」
『頼もしい外部からの解析も着いてることだしね』
機内モニターには、外の3人の様子も見える。エルさんの言葉に、深く頷いた様子が見えた。
『そこは任せたまえ!』
『もちろんです!』
『頑張りますっす!』
頼もしい返事と共に、歩行実験は始まった。




