10.運用実験第一回
2050年10月27日木曜日、その日は来た。
現在地は、クリンタ号車内。
運転席には防護服のレイさんが座っていて、助手席の俺は支給された特殊作業服に身を包んでいる。
操作性を邪魔しない身体に密着する素材、加えて身体の各所のプロテクターは緊急時には展開して、衝撃吸収の役割を果たすという。
全身にエアバックを仕込んでいるようなものだ。
『周辺避難は完了。出現予測地点は、この小学校の校庭中央よ。
過去、この地域の出現巨大災害は虫型が最も多いわ。ついで、獣型。
いずれも害虫、害獣と呼ばれた一般家庭に出没するものよ。
この辺りは、昔は飲食店も多かったみたい、その影響かもね。
つまり、厄介な生態を持つ生物は考えにくいわ、オペレーターさん』
車内スピーカーから聞こえるのは、通信の音声、発信者はエルさん。
『我々は一キロ圏外、高所からそちらを確認しているよ。
こちらからはキミ達と、ワタシ達の失敗時にフォローをする為に集まった皆様が確認出来る。
おや、記録機材搭載車も多いね。これは、我々の顧客、アジダハーカ購入検討者も多いとみたよ!』
つまりお客様か。あいにく接客業は経験がない。上手くおもてなし出来るだろうか。
顔がにやつく、どうやらこの状況に高揚しているようだ。
『クリンタ号。サブオペレーション席より、バイタル報告。心拍数上昇を確認。……お兄様、緊張なされているのですか?』
ティアさんの声が聞こえた。
サブオペレーション席は、クリント号車両部後方に運転席と別に設置されている。
そして、この特殊作業服は、アジダハーカと繋がっており、そこからクリンタ号のサブオペレーション席へ情報が送られている。
サブオペレーターの研修中、ティアは以前のマニュアル通りの話し方が抜けなかった。
なので、報告をあげる時はマニュアル口調。話しかける時は、普段の口調と、少々ややこしいことになっている。
「いや、大丈夫だ。……大丈夫です」
「あ、これはオペレーターくんが乗ってる時の合図っすね!これは今日は勝ったっすよ!」
レイさんの防護服越しのくぐもっているが、明るい声が車内に響いた。
そう、俺もなんとか敬語に修正しようとしたが、気分が高揚すると素の口調で話す癖が抜けなかった。
オペレーター、サブオペレーターそろって不器用コンビなのだ。
『…レイくん。やはり、クリンタ号から離れないかい?
クリンタ号には自動運転システムの他に、サブオペレーター席からでも車体の制御可能だと、誰より知ってるのは君ではないか。
車両本体の運転席は確かに、最もダイレクトに車体を操作できるだろう。
しかし、代わりに完全密閉装置もない。命を懸けるのかい?』
「運用実験第一回。誰より知ってる自分だから、万が一、何が起きても対処出来るって思ってるんすよ。
もちろん、どうにもならないって分かったら、ガキの頃から足は、男子にも負けないくらい早かったんで、ソッコーダッシュで逃げるっす!」
ニワさんの心配する声にも、レイさんは明るく返した。
その返答に、命を懸けているかの返答が含まれていないことに気付くまで、時間が掛かってしまった。
『ダッシュでこけて、防護服が脱げました。じゃ、笑い話にもならないわよ、レイ』
「大丈夫っすよ!エル先輩!ほら、自分らテーコー値が高いらしいじゃないっすか」
『訂正。ハザードマテリアル抵抗値です。…あ、ついマニュアル口調に…』
ハザードマテリアル抵抗値、これが俺達がオペレーター、サブオペレーターに選ばれた訳でもある。
これは誰でも持っているものではあるが、一般的に特に若い世代になるにつれ、数値が上がる。また、個人差もあり、その差も大きい。
俺達は、黒鉄重工でも指折りの抵抗値の持ち主であるそうだ。
俗な言い方をすれば、選ばれたのだ。巨大災害に抗えと。
そして、その道を選んだ。俺の憧れ達がそうしたように。
「万が一も、逃げる必要も無い。俺が勝つ」
あ……違った。
「…勝ちますんで、大丈夫です」
『『「………」』』
沈黙が怖い。いっそ笑ってくれ。
『ハッハハ!我らがオペレーターは頼もしいねぇ!いや、ここはあえて戦士と呼ぼうかな?否!勇者とでも!』
「そろそろ操縦席行ってきまーす!」
俺はダッシュで車両を飛び出し、すでに設置済みのアジダハーカへ走った。
実際に笑われると、それはそれでいたたまれない。
「ビックリして、心拍数上昇しちゃったっす……」
そんな声が、かすかに聞こえた。ビックリさせてごめんなさい!




