11.初業務開始
現在、アジダハーカ操縦席内。
検知機とアラートシステムの当日精度は、100%。
加えて、正確な場所や、数分の誤差もあるが時刻まで特定出来る。
『さあ、ワタシの計算では間もなくだ。
巨大災害発生出現前後には、電波が通じなくなるからね。
今の内に言っておこう、実は、ワタシはキミの姉だったのだよ!
……おかしい、ここでいい感じのタイミングでノイズが入るはずなのだがね…。
これでは、巨大災害討伐と直後に『姉さん!』と呼ばれ、呼び名を『ニワ姉』と改める機会がなくなるではないか。
『同じ名字で年上だからという、実質姉』という、そんなオチまで用意しておいたこちらの身にもなってほしいのだが…。
では、仕方ない。時間もあるなら、ここで小話を一つ、隣の家に囲いができたってね』
『通信途絶。巨大災害出現の前兆です。……いよいよですね、お兄様』
「……ああ。…そう、ですね」
先ほどまでニワさんの話を垂れ流していたスピカーからノイズが流れ出す。いや、騒音という名の長話は少し前から流れていたか……。
ノイズの代わりに、聞こえてくるのはティアさんの声だ。
『お兄様、これより先、一瞬の判断が必要な場面になります。ですので、どうか…』
「悪い。気を使わせた。後でコンプラ研修でもセクハラ研修でも受けるから、今日の所はこのまま行かせてくれ」
『はい…!…というか、私としては普段から、その口調の方が…』
何故か嬉しそうなティアさんだったが、後に続く言葉は尻すぼみになってしまった。
『あ、ちなみにクリンタ号にいるから自分とはまだ話せるっす!
巨大災害が出現したら、サブオペレーション席との通信が最優先になるんで弾かれるっすけど』
レイさんの声が聞こえる。先ほどの件もあり、少々気まずい。
そうだよな、いきなり年下の後輩が生意気な口を聞いてきたら、驚くよな…。
「さっきは、いきなり、すまなかった。でも俺は本気だ、信じて欲しい」
『わざとやってんすか!?』
え?なにが…?
戸惑っていると、突如、ノイズが走った。
機械や計器にではない。視界そのものにだ。そのノイズは徐々に強くなる。
『クリンタ号。サブオペレーション席より、オペレーターへ。化け物が来ます』
「訂正!巨大災害だ!」
ノイズが視界を一瞬、全て覆った。
居た。
汗が噴き出る。それは、シミュレーターの中に居た、リアルなだけの代物とは違う。
質量を持って、存在感を持って、あらん限りの意志を持って、そこに居た。
巨大なネズミだ。身の丈は、5m、二階建ての建物程度。
怪獣と呼ぶには小さいが、人が抗える大きさではない。
『巨大災害獣型ネズミ。正面出現。距離、30m、想定通りです』
「了解!業務開始だ!」
巨大災害が最優先に壊すものがある。それは、人工物。
複雑であればある程、最優先に破壊の対象とする。と資料にはあった。
だが、その資料にはなかった。
相対したものでないとわかるまい。この、『怒り』を想起させるような形相は…!
5mの生物にとって30mなど、あっという間だ。迷えば、吞まれる…!
「左アーム、クレーンアームを使う!」
『了解!左クレーンアーム、問題なし!』
ティアの声にも、力が入っている。
アジダハーカの左腕が唸る。まるで野球のサイドスローのように腕は振られ、その先端はネズミに迫る。
「ギチギチッ!」
歯を鳴らすような、威嚇音、外部集音器から聞こえた音は苛立ちが込められていた。
自らに迫る鉄塊、それをネズミは飛ぶような、ジャンプで避けた。
ネズミのジャンプ力、それは体高の10倍にも及ぶという。
しかも、ジャンプ中や着地の際、長い尻尾を舵のように使って空中での姿勢を調整する。つまり、強襲するのだ、空中から。
だが、この地域の出現巨大災害から、飛行ないし、空中の強襲を読んでいた同僚がいた。
エルさんだ。そう、害虫、害獣。いずれにしても、飛びかかる、という攻撃手段がある。
だから、このクレーンアームを装備し、距離もある程度離した。
「ブーストフック!点火!」
『了解!姿勢制御開始!アイ・ハブ・コントロール!』
「ユー・ハブ・コントロール!」
クレーンのフック、つまり先ほど迫ったワイヤーで繋がれた先端が、急激に起動を変える。
そのまま、空中のネズミを補足し、胴体に巻き付く。
「ギャッギャッ!?」
空中で、姿勢制御を誤ったネズミは地面に叩き付けられる。
いい操作だ。しかも、シュミレーションよりもキレがいい。
「テイルアンカー、オン!」
『了解!テイルアンカー起動!…以降、履帯移動不可、ご注意ください』
俺は、音声コマンドで機体を固定。そう、これから始まるのは、変則綱引きだ。
対戦カードは、巨大ネズミVS異形の重機、アジダハーカ。




