神々の不始末と姉御の鉄拳
「……ああ、クソッ!納得いかねえ。あそこに善吉さえ送り込めてりゃあ、今頃は魔王の城で祝杯あげて、わしの信者も倍増してたってのに!」
次元の狭間、豪華な(しかしどこか安っぽい)神殿の片隅で、ろくでなし自称神はモニターに映る「滅びゆく異世界」を眺めて地団駄を踏んでいました。
「ふふふ……見苦しいぞ、クズ神よ。貴様の陣営はもはや虫の息。このままこの世界は我が軍勢が美味しくいただくことにしよう」
隣で優雅に神酒を傾けるのは、禍々しい角と気品を湛えたライバル神の邪神。彼は自慢の配下たちが世界を蹂躙する様子を、愉悦に浸りながら眺めていました。
「うるせえ!善吉がいたらなぁ、お前の配下の四天王なんて指先一つで捻り潰して、お前の鼻面も『お掃除』してくれたんだよ!あいつはな、九十五年の徳を積んだ挙句に最強の肉体を手に入れた、わしの最高傑作なんだ!」
「はっ、笑わせるな。ならばなぜ戦場に送り込んでこなかった?口先だけのハッタリはよせ。そんな人間、この次元のどこを探しても――」
「ハッタリじゃねえ!送り込む途中で、あのアホな『地球の神』に横槍入れられただけだ! 今頃あいつは、どっかの地球で隠居生活を楽しんでやがるんだよ!」
「……ほう?――見つけたぞ。これか、貴様が隠した『切り札』とやらは」
邪神の瞳が、次元の壁を越えた「極東の島国」に、異質なほど強大で清らかな魂の拍動を察知しました。
「なぜよりによって、あんな霊的に守護の固い地球になど。……だが、別次元に迷い込んだイレギュラーなら、ルール上、私が直接処理しても問題はあるまい。我が魔力の結晶よ、次元を穿ち、その魂もろとも塵に帰せ。『滅星の魔導隕石』、射出!」
邪神が指を鳴らした瞬間、善吉のいる地球の火星付近に、直径10キロを超える漆黒の質量兵器が忽然と出現しました。
一方その頃、善吉のいる世界の地球の男神は、朝食の支度をしていた手を止め、驚愕して空を仰ぎました。
「ちょっと待て……?!なんだこの禍々しい質量兵器は!誰だ、うちの座標にこんなゴミをシュートしたのは!」
男神は慌てて次元のログを解析しました。すると、そこには「ろくでなし自称神」と「邪神」の低レベルな喧嘩のエネルギーサインが残っていました。
「またあいつらか……!ええい、よりによってうちに押し付けるとは。……もしもし姉さん!?ちょっと聞いてくれよ!」
男神は慌てて通信用の鏡を叩き、別次元の担当者――善吉が元いた世界の姉神へ回線を繋ぎました。
『……何よ、騒々しいわね。今、お肌のゴールデンタイムなのよ?』
「もしもし、姉さん!?あんたのところの『ろくでなし』共が、うちの管理区域に特大の隕石を放り込みやがったぞ!善吉という魂を勝手に居着かせただけでも温情で黙認してやってるのに、これ以上トラブルを持ち込まれちゃ困る!」
『……あぁん?なんだってぇ?』
鏡の向こうから、地鳴りのような低い声が響きました。
『……わかったわ、弟。ちょっとそのゴミの「元」を掃除してくるから、あんたは現場を死守してなさい。……お礼はあとで弾むから』
「っ!?了解しました姉さん!お手柔らかに!」
「ふはははっ!見ろクズ神!今頃あの星の連中は、自分の死を悟って阿鼻叫喚の――」
勝ち誇る邪神と、それを必死に止めようとする「ろくでなし神」。
その二柱の背後に、突如として次元を物理的に引き裂いて「姉神」が現れました。
「……てめぇら。……いい度胸してんじゃねぇか」
「「ひっ……!?」」
二柱の神が振り返ると、そこには特攻服を羽織った般若のような形相の姉神が、バキバキと指の関節を鳴らしながら立っていました。
「おい屑ども、うちの男神《弟》の庭に隕石《粗大ごみ》を放り込んで、タダで済むと思ってんのかい?」
「ま、待て、これは正当な次元間ルールに則っ――」
「ちょ、わしは止めようとっ――」
「うるせぇ!ルール以前に『不法投棄』だろうがぁ!」
ドカッ!バキッ!ドゴォォォン!
次元の狭間に、神々の悲鳴が虚しく響き渡りました。
しかし、すでに射出された隕石は止まりません。
神々の遊びの不始末によって放たれた「滅星の隕石」は、既に火星を通り過ぎ、刻一刻と地球へと迫っています。姉神の説教が終わるのが先か、それとも――。
かくして、地球滅亡まで「一週間」という、世界で最も長くて騒がしいカウントダウンが始まったのでした。




