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チビと私の平々凡々【本編完結】番外編(続編)連載中!  作者: 愛賀綴/『チビと私の平々凡々』続編連載中!
番外編(続編)

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16.戸惑いと嬉しさ

 トウマとニット先輩に軽くからかわれ、スライムにもからかわれ、二人はすぐに謝ってくれたけれどスライムは妙な踊りを披露しながら外に出ていった。あいつめ。

 ニット先輩も外で作業中。本当なら昨日私とシード先輩がやるはずだった作業なので申し訳なさしかない。

 トウマは私の足を見て、食事の準備が大変だろうと想像したのか「何か作ってやろうか」と台所に入ろうとしてきた。すかさず私が片足でリビングのソファーに移動する。気にしているからか頭が少し臭う気がするのだ。絶対近づいてほしくない。

 トウマが保冷庫や半地下の貯蔵室にあるものを確認して「野菜がねえな」と言われたけれど、それはさっきスライムに食べられてしまったのだと言ったらなんとも言えない顔をされた。


「勝手にか」

「そう勝手に」


 保冷庫の扉は普通に開けるし、なんなら保冷庫の中に入り込んで扉を閉め、鎮座していることもある。凍えないのか不思議でならないが、あのスライムは寒いことはへっちゃらのようで、冷凍室に入り込んでブルーベリーを全部食べられたこともある。


「売店に注文して配達してもらうから大丈夫」

「今日は買いに行く暇はねぇが、次に来るときは何か買ってくるな」


 今日のトウマは勤務復帰の打ち合わせで整備班の班長に会いに来たそうだ。打ち合わせを始めようとなったときに班長が別件対応に呼ばれてしまい、ぽっかり時間が空いたのでその間に山小屋に来てくれた。


「やっと復帰だね」

「本当にやっとだ。日付が変わった時間に強制退去命令が発動されて、警備のヤツラが早速捕獲に向かったってよ。俺が起きたときにはみんな晴れ晴れした顔だった」


 想像がつく。やっとヴィスランティ家のお屋敷周辺に穏やかな時間が戻ったことは喜ばしい。

 トウマはお屋敷での対応でイライラが突き抜け、私との定期連絡も叫ぶだけになるからと中断していた。こうして話すのは何日ぶりだろう。ちょっとでも顔が見たいと来てくれたのが嬉しい。

 でも、屋敷を出るときに連絡してくれたら急いでシャワーだけでも浴びたのにと、またぶーたれてしまう。


「驚かせようと思ったんだよ」

「それもわかってる。来てくれたのは嬉しいから近寄らないでね」

「わかった、わかった」


 昨日少し雨に濡れたし、じんわりと汗もかいた。そんな状態で怪我をしてしまい、頭も体も洗えていない。フィールドワーク中なら頭も体も洗えない場合もあるけれど、今はそうじゃない。服は着替えたけれど、やっぱり頭が臭い気がしてならない。なぜ昨日の私はお風呂を面倒くさがったのか。足首のせいではあるけれど、せめて体は拭けばよかった。


「このスープがあるなら、昼もこれか?」

「うん」


 昨日のうちにペニンダさんが作ってくれた野菜たっぷり具沢山スープは昼食分まである。トウマは保冷庫の中にあるペニンダさんが作ってくれたおつまみ料理を眺めてしばらく考え、芋とハムとタマネギ、チーズを適当に混ぜたガレットを作り出した。

 ペニンダさんの作ってくれたものはどちらかというと酒のアテに近い料理ばかりで、それはそれで美味しいし、ちょこちょこ食べるのも楽しい。けれど、トウマはどっしりと腹にたまるものを作ってくれるようだ。

 片足で立ってシンク台などに寄りかかりながら料理はできるけれど、右足だけでピョンピョン移動するのは普通の動きではないのでけっこう疲れる。料理を増やしてもらえるのはありがたい。


「俺の本格的な復帰は親父が戻ってくる来週かな」

「ジュニオル様も忙しいね」

「強制退去の発動で、まあ、ちょっとな」


 トウマが私との連絡を不通にした間のことをかいつまんで話してくれた。

 迷惑な人たちをシャーヤランから強制退去させる命令の発動に対して、懸念の声などもあって発動まで時間がかかったそうだ。ちょびっと聞いた気がする。

 私が『G−I(ガス・インコグニタ)』とは何かと調べ物に明け暮れていた間、ジュニオル様は某所に赴き、煩い御仁を黙らせ回ったという。実は侯爵様も侯爵夫人も弾丸でどこかに行っていると聞いた。どこに赴いたのかは聞くまい。


「管理所のことは職員向けの共有とオニキスが毎朝仕入れてくるからだいたいわかっているつもりだが、この春も草(・)なんだな」

「そう言われると、去年の春も草(・)だったね」


 昨年の春はゴリ押しで魔草の採集隊が組まれ、人手不足でてんてこ舞いだった。

 今年は手が空いていれば元魔草属に分類される草探しの協力要請。管理所敷地内での作業で強制ではなく、おもには研究職員と子どもアルバイト隊、退職して職員寮にいる元気な高齢者の皆様でやることになっている。子どもアルバイト隊の採用基準は変えないが人数は増やすらしい。

 草探しは森を知る授業にもよいのではないかとなり、初等学科の特別授業として扱う調整も行われていると聞いた。草探しの際に出会った虫や小動物のことを学ぶ内容で単位がもらえる。


「子ども門番隊のやつらが『稼いでくる!』って言ってたのはそれか」

「稼いでくるって言ってたんならアルバイト隊かな? 管理所に入れる街住まいの子を増やすって聞いたから」

「今朝会った子どもによ、『稼いでくるね! 門を作るね!』って言われて、ナンノコッチャだったぜ。自分の稼ぎは自分に使えと言ったんだが、そういうことか。理解した」

「子どもたちも頑張ったんだね」

「ああ。子どもらに『迷惑だからくんな!』と言われて帰ったやつらはマトモという判断ができたしな」


 その言葉を裏返せば、引き返さなかった迷惑な人たちがいたということ。

 子どもたちが道に並んで通せんぼ。イカれた思考の持ち主でない限り、無理やり突破せず止まるので、屋敷に近づけないようにしてくれてだいぶ助かったのだそうだ。

 普段以上に屋敷に近づこうとする人たちが多く、門番ごっこしていた子どもたちもキレたらしい。それで門を作ろうと言い出すあたりがあの一帯の連係の強さだと思う。

 そんな話をしながらトウマが作ってくれた芋のガレットは小さいフライパンで二枚分。具材が微妙に余っていたけれど、ショートパスタなどを少し追加してグラタン風のものも作ってくれた。アレンジが器用だ。


「そういやシシダに行くのはいつだ?」

「あと一ヶ月はあるけど、なんで?」

「俺もついて行っていいか?」


 ん?

 シシダに?

 何の用でトウマが?

 なぜ?


「リリカの親御さんにご挨拶しねぇとよ」


 ボンッと頭から湯気が出たんじゃないかと思うほど体温が上がった。顔も真っ赤だろう。全身に汗が吹き出た気もする。

 お風呂に入ってないのにこれ以上臭くなりたくないっ! なんて妙なことを思いつつ、トウマを凝視したら微笑まれた。

 髭が薄っすら伸びていて野人に戻りかけているとしても、己の顔の偏差値の高さをわかっているのかトウマ。微笑みの暴力。両手で顔を覆った私は悪くない。


「まっ? えっ? おっ? あっ?」

「想像通りの反応だが、抱き締めに近づいたら怒るんだろうな」

「近づかないでね!」

「わかってるって」


 アハハッと豪快に笑うトウマを指の隙間から見れば、スライムがキッチンの向こうにある窓に張り付いて妙な造形になっている。祝い窓絵画をありがとう。


「どこかから聞くだろうけど、親父と俺に政略結婚を持ちかけてきた家がいくつかあってよ──」


 そう言い出した内容は私に絡むことだった。

 幼き日にシシダを飛び出した私は同級生に無視された。なぜ一斉に無視されたのか未だにわからないし、今だって蟠(わだかま)りが残っている。

 学院時代に何度かシシダに帰省したときは私が避けまくったので、溝は深まるばかりだった。

 シャーヤランの管理所に採用されてチビと帰省した際に大半の人が謝ってくれたけれど、妖獣の相棒になったことで手のひらを返された気もして、素直に受け入れられなかった。弾まない会話でなぜ私を無視したのかのきっかけを聞いてみたものの、誰も彼もが理由は思い出せず、同調しないと次は自分が無視されるという怯えた感覚があったらしい。当時の誰が言い出して私は孤立したのか、もはや真相は闇の中。

 あの当時、親や兄の同年代の子たちは私を一斉無視した同級生の子どもたちを窘めてくれたし、噛み合わなくなった歯車を修復しようと頑張ってもくれた。けれどそれがうまくいかなくて、私自身も泣くまいと頑張ったけれど、知らぬうちに私の心の疲弊は限界がきていた。

 親たちが相談し、たまたまババ様のツテで王都の学院に編入させてもらえたのを「逃げた」と笑い者にしたのも誰が言い始めたのかわからない。

 王都の学院にも飛び級で入ったため、教室に歳の近い子はいなかった。わざわざ下の学級に赴いて交流することもしない。

 幼い年代ではたった一歳差が大きい。飛び級を重ねて三年も離れると接し方がわからない。

 特待生という肩書から僻みも受けたのも事実。

 だけど逃げる場所はもうない。

 あの頃の私はそう思って踏ん張った。

 シシダでの出来事と編入直後の学院で妬み僻みの視線を浴び、遠巻きにされた状況は、私の心に大きく影を落とした。

 とにかく早く卒業しよう。

 そうして自分の殻に閉じこもってしまった。

 巨大竜チビの出現のときに私の生い立ちは脚色され、私は他人と交流ができない捻くれ者という烙印を押し付け、虚実の私を鵜呑みにした人たちから蔑む声もたくさんあったのを知っている。

 私が学院に編入した背景を正しく知り、声をかけ続けてくれた人たちも少ないけれどいた。筆頭は学生寮の管理職員さんたち。学生寮でだいぶ歳の離れた先輩方も気にかけてくれた。そして教授に出会わなかったら、私は今頃どこかの山奥に引き籠もって生活していたかもしれない。

 未だに虚実の私は独り歩きしていて、鵜呑みにしている人もいると認識している。

 己の娘こそ、自分こそ、由緒あるヴィスランティ家にふさわしいと売り込みに来た者たちがいたという。

 隠さずに教えてくれたトウマの言葉に心の奥が軋んだけれど、クサムラトカゲだったチビが巨大竜になったときに私のそれまでの人生は勝手に面白おかしく脚色されて広まっているすべてを消すことはできない。諦めたじゃないか。

 この管理所に来てからの人の温かさが私を支え。今はトウマの話を聞こう。


「わかってねぇのはバカなヤツラだから気にすんなよ?」

「うん」


 話が捻れて聞こえてくるより、トウマやジュニオル様、侯爵様などから直接聞けるほうがありがたい。侯爵様は言葉を選びがちだが、侯爵夫人ははっきり教えてくださる。ここのところ迷惑な人たち対応で侯爵夫人のマナー研修も中止となっているけれど、落ち着いて再開した際に同じように教えてくれるだろう。


「まあ、腹が立つことばっかりで連絡やめたのはごめんな」

「オニキスに怒られた?」

「毎日毎日愚痴愚痴とな」


 こっちでも朝の餌場でオニキスは愚痴愚痴続きだったから想像できる。でも、トウマは私に感情的に苛立ちをぶつけないために連絡を中断とした。それは優しさ。私はそんなトウマが好きだ。

 赤面していた状態から落ち着いてきて、台所の椅子を私のいる方向に向けて座るトウマをしっかり見た。

 薄っすらと生えている髭。わざとぐちゃぐちゃに見える髪。そう見えるように整えて作っているという野人姿のトウマ。

 髭をきっちり剃り、髪を撫でつけている貴族なトウマを思い出す。

 どっちもトウマだ。

 カッコイイ部類に属するトウマの外見に惹かれたわけではない。

 管理所で妖獣の相棒という同士で接点があり、トウマが妖獣世話班の仕事を手伝ってくれるなかで指導してくれて、その人柄に拒否がなかった。

 トウマから告白されておよそ一年だろうか。

 付き合い始めてまだ一年余りで、婚約届というの早いのか遅いのか。

 私の知る一般庶民の結婚は婚約届はなく結婚だ。上流階級も婚約期間を経て結婚が主流なわけではなく、婚約届を出さずともお付き合いして結婚の流れはあると教えてもらっている。

 トウマの口から婚約届の話がチラホラ出てくるようになったのは、私の心の整理を待つ間の誹謗中傷を抑止する目的だと気づいてもいる。

 ヴィスランティ家の者になる覚悟。

 正直、できているとは言えないけれど、以前よりは前進している。

 その不安を解きほぐしてくださったのは侯爵夫人。マナー研修という名のほぼ女主人研修を受けながら、「嫁いでから学べばいいのよ」と仰ってくださった言葉と優しい笑みを思い出す。チャオミー様もビダニーオ様の妻になると決めるまでは相当葛藤があった話も聞いた。「ウジウジ悩んだけれど、でもね、好きになってしまったんだもの」と言われ、私もそうなのだと自分を見つめた。

 トウマが私の両親に会う。

 婚約を通り越して結婚という話もチラリと出ることもあったけれど、結婚の決意に至るにはもう少しだけ私に時間がほしい。だから婚約届なのだ。


「シシダに行くのはいいけど、どうやって行くの?」


 気持ちを落ち着かせてクスッと笑って話を戻した。

 トウマが泊まる場所は父と母にお願いすれば湯治場の従業員部屋を一つ貸してもらえるかもしれないけれど、シャーヤランの行き来は船の予約から難航する。ラワンさんは早々と船の手配をしてあって、同じ船が確保できるとは限らない。私はチ(・)ビ(・)船(・)なので、もしかしてオ(・)ニ(・)キ(・)ス(・)船(・)で行くつもりかな?


「アイツも温泉に入ってみたいとかなんとか言って船を出してくれるっつーから、チビも乗れるんじゃねぇか?」


 アイツ──。


「王子殿下!?」

「そうだが?」


 なぜここで王子殿下なの?


「あー、アイツもイライラ続きで、その反動でどっかに行きたいんだろうな」


 わかるようなわからないような。

 でもシシダに王子殿下ご来訪だなんて、チビとは違うお祭り騒ぎが起きかねない。


「ほ、ほほ、ほほほ、本当に殿下がご来訪となるならシシダと調整しないと!」

「突撃訪問できたら面白いんだがな」

「面白がらないでね? シシダが混乱する!」

「はははっ」


 トウマもわかって言っていて、「実は……」と打ち明けられたのは、王子妃殿下の夏の療養先の視察というか確認をそろそろしないならないという。

 シャーヤランからシシダに向かうルート沿いの手前に王国の最大軍事施設があり、王子妃殿下の夏の療養候補地として準備が進められている。王子殿下は数度訪れているけれど、実際に療養となって使用する部屋などを見ていないので気になっているという。

 そんな話を王子妃殿下も交えてしていて、一度見に行こうと計画している中で、「そこまで行くならもう少し足を伸ばしてシシダの湯治を体験してみたい」とおっしゃられたのだそうだ。


「でも、そんな……。急に行くとなってもシシダで殿下が泊まる場所があると思えないよ」


 シシダも観光地として人気が出て何ヶ月も前から予約しないと宿泊が取れない。そもそも王子殿下御一行がお泊りになるとなったらお付きと護衛の方々もなので、湯治場にある宿の一部が占拠されかねない。それはそれでどうなのかと妙に冷静に分析してしまった。


「そのあたりもわかっているし、シシダに行くならセロゼダにも行く計画らしいぞ」

「ええ?」


 シシダと大山脈を挟んであるセロゼダだと、一ヶ月先だと巨大な雪像群のお祭りは終わっているから宿泊先が確保できるんだろうか?


「アイツはアイツの船で行くから寝泊まりは船で計画してたぞ。それなら俺らのことも乗せてってくれって言っといただけだ」


 軽く言わないでほしい。

 けれど話を聞くと、ここのところ体調がよい王子妃殿下を見て、王子殿下が夫として妻と我が子で旅行という楽しみを与えたいという気持ちも滲んで聞こえてきた。そういう家族旅行的な側面があるなら部外者が同乗するのはどうなのかと言ったら、あれだけデカい船に百人くらい増えたところで変わらねぇとトウマも軽い。


「でさ、アイツらの湯の案内はリリカの親御さんがいるところでになるから、リリカからも根回してくれねぇか?」

「え、まだ計画段階なんじゃ」

「いや、今頃打診していると思うぞ。だって一ヶ月しかねぇんだぞ?」


 じゃなきゃリリカに言わねぇよというトウマは確信犯だった。

 とりあえず両親に連絡しよう! あと……ババ様、卒倒してないといいな。


評価や感想などを頂戴できましたら、執筆の励みになります。

引き続き、どうぞよろしくお願い申し上げます。

たまに活動報告も記しております。お時間があればご確認をお願い申し上げます。

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