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チビと私の平々凡々【本編完結/番外編続編スタート】  作者: 愛賀綴
番外編(続編)

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08.え、違うの!?

 そして目が覚めたら医務室の急患用一時入院室のベッドだった。


「?」


 ルシア先輩に睡眠導入効果のある薬草茶を飲ませて寝かせ、医務職員さんに起きるまでお願いしますと言ったけど、なぜ私がここに?


「ん、起きたな? 薬を盛ったら盛られると覚えておくんじゃな」


 私が起きるのを監視していたとしか思えない速さで、お爺ちゃん医師(せんせい)が部屋に入ってきた。


「おはようございます?」

()()()()()()()()()、だ。もうすぐ夕方だぞ」

「え?」


 のろのろと起き上がってお爺ちゃん医師(せんせい)に挨拶したけれど、帰ってきた言葉に驚いた。


「まったく。先輩を薬草茶で眠らせた張本人が徹夜して同じように盛られてどうする?」

「……」


 お爺ちゃん医師(せんせい)に呆れられたけど、じわじわと思い出した。

 ルシア先輩のレポートで使えそうな分析結果をグラフ化しているときに、突如落ちてきた天啓。

 真っ暗闇に現れた針の穴のような小さな光に向かって、私はがむしゃらに走り出した。

 『誰かに薬を盛って寝かせたら、盛った者も早く寝る』という伝統に則って、私もあれから早々に研究室を追い出され、ニット先輩の部屋に戻り、情報端末を取り出して知りたかったものを探した。


 スライムの謎茶の分析結果。

 分析結果の日付。

 同じ謎茶でも瓶が増えるごとに分析してもらっていた。

 発光苔が成長したと喜んだ日を重ねる。


 ネダヤラリ。


 謎茶三号から僅かな量がブレンドされていた。

 『服用効果:なし。混入理由:不明。味覚効果:苦さ? 茶にとろみをつけようとした? なぜ?』というモラさんのコメントが添えられていた。

 モラさんに解説された際、茶にとろみをつけようとするだろうか? と首を傾げ、実際淹れてもとろみはなかった。

 スライムは人が飲むに適さない不許可となる謎茶も作るので、単に試してネダヤラリも混ぜてみただけじゃないかと結論づけ、気にせず忘却の彼方だった。

 冬になって謎茶に使いたい草のうち、一年草のものが集まりにくくなった。

 それで謎茶づくりを一時的にやめているらしいスライムは、ネダヤラリだけを探してきて干している。

 肌ケアせよという意味だろうと笑われたけれど、そうではなく別の理由があったとしたら?


 ネダヤラリについてもっと知りたい!


 情報端末で図書閲覧機能にアクセスしたけれど、手のひらの大きさでは足りない。

 部屋を出て図書室に行った。図書室は終日開いている。深夜だろうが研究者が調べものに使うからだ。

 大きなデスク端末を一台占拠して、ネダヤラリについてありとあらゆる書籍と文献を探した。

 暑さ寒さに強く、年がら年中どこにでも生える。食用には不向きだが食べたところで害はない。乾燥させ冷水に浸す条件下でのみ抗炎症作用の成分が抽出でき、とろみのある液状となる。常温水などでは抽出できず、詳細はわかっていない。

 他には? 他にも情報はない?

 探して、探して、読み込んでいく。

 ない、ない、ない、ない!

 知りたい情報がない!

 絶望しかけたけれど、ルシア先輩がネガティブ落ち込みしていたことを反面教師に、いいタイミングで私のポジティブ思考が活動開始。

 真っ先に読んだ文献をもう一度読み直した。


 ──詳細はわかっていない。


 文献執筆日も確認した。

 記されていた調査年月は酷く昔ではない。この手の研究で二十年前なら最新情報と言ってもいいだろう。

 そう考えると、ネダヤラリは調査されて尽くしていないのかもしれない!

 未知の何かが隠されているのかもしれない!


 ネダヤラリについて付け焼き刃の専門家になれるほど読み込み終えたときは朝になっていた。

 トイレに行きたくて籠もっていた場所から出たら、外から差し込む明るさに驚いて、反射的に山小屋に向かった。

 見事に徹夜してしまったが、この時点ではその自覚はなかった。もはや正常な思考ではなくなっていたんだろう。


「んんん? リリカ? リーリーカー?」


 管理所と職員寮から見える空き地で寝ていたチビが起きて、呼ばれた気がしたけれど、浮遊バイクを飛ばして山小屋に急いだ。


「リーリーカー! リーリーカー! だめだ! ニットー! ニットー! 起きてるー!? リリカが暴走中ーッ!」


 浮遊バイクをどんなに飛ばしても、チビのぶっ飛ぶ速度に敵わなくて悔しかったことも覚えている。

 朝食の準備をしていただろうニット先輩とカーラさんに驚かれ、何事? の表情で山小屋の玄関を開けて出迎えてくれたけど、押しのけるように山小屋に入り、苔部屋に飛び込んだ。

 昨日の確認では発光苔の生育は目視でわかるほどの成長はなかったけれど、魔導具計測器などを全部出してきて再計測。


「ふと、ふ、太ってるーッ!」


 水槽内で生育範囲はほぼ変わらずだったが、高さが一ミリ成長。それよりも一つ一つの苔の茎葉体(けいようたい)部分が太ってる!


「リリカ? どうした?」

「太ってます!」

「え?」


 ニット先輩が苔部屋の扉の向こうから声をかけてくれた。

 発光苔の水槽は魔導具制御で温度と湿度の管理はしているけれど、他の苔は普通の水槽なので部屋の温度管理が大事。扉の開け閉めだけも少なくしたいことは妖獣世話班メンバーには伝えてあって、全員研究者なので理解し、今もニット先輩は押し入ってこない。

 もう少し、もう少し待ってほしい。

 観察しきったら出ますから!


 どうしよう、発光苔の茎葉体を一つだけ採る? 採って感触確認する? ぜんぜん育ってくれなくて茎葉体の感触も観察できないでいたけれど、採っていいかな? 他の部分から育ってくれる?

 待て待て、自分待て。採る前に撮ろう。焦るな。撮らねば。

 分析表を見て、育っていない発光苔と育った発光苔の条件差も推論に入れて考える。


「教授のところの同じ条件の発光苔の生育は変わらないってあった。王都とシャーヤランの環境差を出しているけど、四番は月に数度の日陰浴を実施していて、水、空気、外気温、太陽光線の強さ、……空気?」

「リーリーカー」

「空気!」

「え?」


 それもこれも王都とシャーヤランでは違うけれど、ネダヤラリが影響を与えているとすれば関係してくるのはおそらく空気。

 ネダヤラリが普通に生息している状態ではなく、乾燥していくときに何かを放出している? そう考えるなら、他の草でもそういうことが起きるものはあるかもしれないけれど、今はネダヤラリに絞ろう。

 これを検証するにはもう一つ水槽を、いやもう置き場はない。他の水槽の苔を捨てたくない。

 もう一つ苔部屋がほしい!

 山小屋を改築して苔部屋を増やせないかお願いしなければ! 改築費用はどうにかしよう! チビの魚資金から貸してくれないかな?

 部長さんに直談判しなきゃ! と苔部屋を出たらニット先輩がいて、何事かと尋ねられた。


「新しい苔部屋です!」

「え?」

「急がないとならなくて!」

「ま、待って、待とう、待っ! チビー! 捕獲ーッ!」


 外に飛び出したら浮遊バイクが手の届かない高さに浮いていて、なにするんだとチビに抗議したら、ガッチリとチビの前脚に捕まってしまった。


「よし! チビ! 部長さんのところに飛んで!」

「飛ばないよー、飛ばなーい。苔の世界から帰って来ようー」

「リリカ、落ち着いて説明してくれないかな?」


 チビとニット先輩とすったもんだして、その間もチビは前脚の檻から出してくれなくて、発光苔の生育確認のためにもう一つ苔部屋が必要だと熱弁を振るい、カーラさんに「喉が渇いたでしょう」ともらったお茶を飲んで、……イマココ。


「覚えているようで何よりだ」

「……」


 私もルシア先輩と同じく睡眠導入効果がある何かのお茶、または軽めの睡眠剤を盛られたのはわかった。眠らせる薬を盛るときは三人以上じゃないとだめなのに、ニット先輩とカーラさんとあと一人はヤスさんだろう。

 自分の行動を思い出し、私のために薬を盛りました始末書を出させてたことに申し訳ない気持ちになった。

 なんであんなにハイテンションになってしまったんだろう。恥ずかしい。

 呆れ顔のお爺ちゃん医師(せんせい)に、疲労が蓄積しているのを無自覚に気力で踏ん張って、今回苔の何かの発見で振り切れ、私ははっちゃける方向にいったんだろうと言われた。

 日中はなんだかんだと体を動かし続ける業務で、夜はルシア先輩のレポート制作のお手伝い。寝てないことはなかったけれど、十分に休めていたとは言えず、確かに今「よく寝たな」という感覚がする。


「頑張りすぎるなと言いたいが、今の状況で頑張らんとならんこともわかるから、無理だけはするなよ」

「すみません」

「その反省は班で言うんだぞ」

「はい」


 お爺ちゃん医師(せんせい)が医務職員さんを呼んでくれて、尿管を取ってもらえた。オムツではなくこの措置だったのは点滴をされていたからで、昨夕から今朝までの行動を関係者から把握した結果、あまり食べていないと判断され、栄養補助と脱水症状にならないために点滴の措置にしたという追加の説明と追加の説教を肩を縮こませて聞いた。

 点滴が終わったら着替えて帰っていいとも言われ、私を寝かせるときに没収されていた情報端末なども着ていた作業服とともに返してもらえた。

 すぐにリーダーに連絡。通信が繋がって謝ろうとしたら「やっと起きたかー」と大笑いが返ってきた。


「正直みんなに無理させているからな。よく寝れたならいいんじゃないか?」

「本当に! 本当に! 申し訳ございませんでした!」

「まあ、大丈夫だ。そうそう、チビが『リリカが苔の世界に旅立ってしまった~』と言いふらしてたぞ。はははっ!」


 チビーッ! 私が死後の世界に旅立ったように言うんじゃない!

 ルシア先輩は早朝に目覚めて、睡眠不足からのネガティブ落ち込みモードから脱却し、薬を盛って寝かせてくれた私や同僚のみんなに感謝していると言う。

 私もニット先輩に感謝しなければ。

 気持ちが落ち着いたルシア先輩なら一気にレポートはまとめられるはず。昨夜の段階で使うだろうデータ類はグラフ化までは作ってきたけれど、リーダーからレポートが完成するまで手伝いに行ってやってほしいと言われた。

 その後、順に先輩たちに連絡して謝った。

 ルシア先輩には薬草茶で盛ったことも謝ったが、睡眠不足で正常な判断ができなくなっていたから寝かせてくれて助かったと感謝された。

 ニット先輩だけ連絡がつかず、カーラさんに連絡して詫びた。ニット先輩は妖獣たちに連れられて森の奥に向かってまだ帰ってないという。今日はハッチャケて遊ぶ妖獣が何匹かいるらしい。あとでまた連絡しよう。


 点滴が終わるまでまだかかりそうで、ガラガラと点滴スタンドを転がして洗面所でうがい。歯を磨きたいけどもう少し我慢。

 洗面所までの行き来の際、顔馴染みになっている医務職員さんたちと会えば、笑ってドンマイと励ましてくれた。

 点滴しているけれど落ち着いてきたら若干の空腹感を覚え、いつもの野菜スープとプリンをもらった。食べ終わるのと点滴が終わるのはほぼ同時。眠らされたときに着ていた作業服に着替えるしかなく、お風呂に入っていないことも思い出した。

 歯を磨きたい、お風呂にも入りたい、作業着も洗わなきゃ。

 しかし、それよりも何よりも確認したいことがある!

 急ぎ足で職員寮のニット先輩の部屋に戻って、リビングのテーブルに置いたままのボウルに駆け寄る。

 いない。


「スライムー! どこー!」


 コトッと小さい音がしたほうを見たら保冷庫の扉がゆっくり開き、中でスライムが鎮座していた。


「なんでそんなところに……」


 私が保冷庫に食べ残していたのは売店で購入してあった生野菜が少し。それがきれいにない。蓋と空にした容器を被る必要はないと思うが、その被り方が絶妙でいちいち器用だと思う。

 スライムはミニトマトを体で包んでいた最中だった。


「お腹が空いたんだね。ごめんね」


 保冷庫から出てきたスライムは被っていた蓋と容器を保冷庫の中に残し、床に落ちるように這い出て、丸まって動きはない。取り込んだトマトを食べているんだろう。

 追いかけるように私も床に(うずくま)れば薄っすら見える床の埃。台所の床掃除は数日していない。そろそろお互いの住まい交換期間も終わる。いい加減掃除しよう。

 スライムの目がどこにあるのかわからないけれど、高さを揃えるように低い位置から問いかけた。


「ねぇスライム、発光苔の成長にネダヤラリが関係してるってことを教えてくれようとしていたの?」


 無反応。


 え? 無反応!?


「発光苔のことで何か教えてくれようとしてくれてたよね?」


 フヨン……、フヨン……。


「ネダヤラリは?」


 スライムの表面がさざ波のように小さく波打って、止まって、水玉みたいな模様ができて、元に戻って、また小さく波打ってと繰り返す見たことない動きをして、無反応になった。


「……ど」


 どういうこと?


 スライムの動きで喜怒哀楽を察することができるのは、わかりやすい反応をしてくれるから。

 とくに私が妖獣たちの記憶の断片を言わないと決意をした夜以降、スライムは今まで以上にわかりやすく教えてくれるようになった。

 それでも言葉はないから動きから考えないとならない。

 肯定なら勢いよくブヨンと動く。

 否定なら無反応。

 スライムの表面が微妙に波打つような動きは見たことがない。

 怒っているときはトゲトゲした姿になり、さらに体の一部を鞭のようにして床や壁を叩いてくる。喜びの舞いはなかなか激しく体を揺らす。

 この微妙さは何?

 発光苔の成長にネダヤラリが関係あると思いこんでいた私は、スライムのこの微妙な動きに衝撃だった。思考が止まった。


 私が呆然と停止している目の前にスライムの体内から出てきたのはミニトマトの皮。ヘタは食べてしまうのに、ブドウやトマトなどの食べられる外皮は食べずに出す。

 スライムの体内から出てきたミニトマトの皮は床に転がり落ちた。


「ゆかに、ごみを、すてないでよぉ」


 私が掃除をサボると怒るくせに床にゴミを放り出すなとぼやいたのは反射的なことで、それでゆっくりと私の脳が再起動し始めた。


「発光苔について何かを教えてくれようとしている」


 ブヨン。


「まさか謎茶の材料にしたいわけじゃないよね?」


 無反応。


 それはよかった。


「ネダヤラリが関係……」


 そもそもなんで私はネダヤラリが関係していると思っている?

 自分の中にあるこの仮説はどうやって生まれたんだっけ?


「スライムがここのところネダヤラリばかり干していて、苔部屋の前に佇んでいるって聞いて……」


 ぐるぐると考えて、腕を枕に突っ伏した。

 

 完全に私の思い込みだ!

 お爺ちゃん医師(せんせい)に私も疲労が蓄積していると言われたことを思い出す。ルシア先輩ほどではないとはいえ正常に判断できていなかった。ハイテンションなまま穴だらけの仮説をほぼ断定と思い込んで突き進んでいたんだ。

 いや、でも、スライムが発光苔について何かを教えようとしてくれているのは事実だとムクリを起き上がった。

 スライムを質問攻めしすぎるとうざいと怒るので、今一度自分で仮説の穴を塞いでから聞こう。

 床に転がされたミニトマトの皮を摘んで生ゴミ収集容器に入れて、床を拭く。今はミニトマトの皮を吐き出されたところだけと思ったけれど、拭き始めたら結局台所の床を全部拭いてしまった。

 ふと時計を見た。

 ルシア先輩の研究室に行く時間までまだ余裕がある。

 よし、管理所の大浴場でお風呂にしよう。たっぷりの湯に浸かってほぐされよう。

 それからまた考えよう。


評価や感想などを頂戴できましたら、執筆の励みになります。

引き続き、どうぞよろしくお願い申し上げます。

たまに活動報告も記しております。お時間があればご確認をお願い申し上げます。

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