04.失敗を認める強さ
王子殿下ご夫妻のお出迎えの準備の余波でトウマがヴィスランティ家に行くことになり、ついでに私も拉致られた。妖獣たちへの朝の餌やりを終えてシャワーを浴びた直後に捕まり、「事前連絡!」と叫んだ私は悪くないと思う。
「庭を苔だらけにされてもさ! クソ親父、面白がりすぎだ!」
「……」
トウマに拉致られた理由は、ヴィスランティ家の主庭を苔いっぱいにしようとしているジュニオル様を諌めるため。
まだヴィスランティ家の一員ではない私の趣味趣向を反映した庭に変えようとしているジュニオル様。確かにチビが私は苔が好きだと言ってきたと聞いたけれど、いくらなんでも悪ノリしすぎだと思う。
依頼された庭師さんたちも困惑していて、本当にいいのかと本家のヴィスファスト家に連絡したという。チビも嘘は言っていないので誰のせいとも言えないけれど、話を聞いた侯爵夫人と次期侯爵夫人のお二人を頭痛が襲ったと聞いたら申し訳ない気持ちになった。
侯爵夫人からトウマに連絡が入り、トウマが頭を抱えたのが一昨日の夜。整備班の仕事の調整と私を拉致って連れて行くため、警備隊と調整したのが昨日。その時点で私にも連絡してくれてもいいんじゃないだろうか?
「昨日警備隊にリリカさんを連れ出す相談に来たときに、トウマ、連絡するって言ってたんだけどな」
「そうなんですか?」
「……」
車に同乗しているコロンボンさんがそう教えてくれたけれど、彼女に連絡するのをスポッと忘れる彼氏はどうなのか?
髪はボサボサ、髭はボウボウのトウマの表情はわかりにくいがジトッと睨んでおく。運転しているジャパスさんは笑っているけど、笑いごとじゃない。
私が休みの日ならここまで文句は言わない。
しかし、私は普通に勤務日。餌やりのあとは仮設妖獣仮眠所の掃除をして、果物系統が好きな妖獣の餌の仕入れの手配もあったのだ。自分の仕事の調整はしたくせに、私の仕事の調整を考えてくれないあたりに苛立ちがフツフツと湧き、トウマからリーダーに連絡させて謝らせ、「今後は連絡する」という言葉を引き出した。まったくもー!
私とトウマ、コロンボンさんが乗っている車の前後左右を警備隊員がバイクで並走している。非常に物々しく思うけれど、要人警護ならよく見る光景。私はここまでされる要人ではないのだが、バイクで並走する警備隊員の二人がまだ要人警護任務をしたことがなく、殿下らがいらっしゃる前に車との距離感などの実習を兼ねさせてほしいと言われてこうなってしまった。
コロンボンさんは王子殿下ご夫妻がいらっしゃる間、シャーヤラン側で結成した専任警備チームの責任者になった。管理所と領主館の各警備隊から選ばれた警備隊員さんたちの取りまとめ役で、今日は専任警備チームの顔合わせ会もあるという。
コロンボンさんはこの役目を担うにあたり、中尉への昇進も決まった。
「やっとなんですね」
「リリカさんまで『やっと』って」
「以前に隊長さんと副隊長さんが昇進試験を受けてくれないって嘆いていたので」
「あー」
管理所の警備隊はコロンボンさんより上の世代が妙に少ない。その年代の採用が少なかったわけではなく、本人の希望やご家庭の事情などで退職や管理所の別部隊に転職、異動の結果だという。
実は妖獣世話班もリーダーより上の世代がいない。警備隊同様にたまたまで、体力面の問題や研究に専念したいという理由もあったらしい。私が採用される前にいた初老のお二人は、専門研究施設へ転職すると同時に職員寮からも出ていってしまったそうだ。
整備班や調理班は各世代が満遍なくいる印象だが、そういえば菜園班もだいぶ偏っている。若手が入って来ず、お年寄りはいない。あそこは重労働なので体力の衰えが出てくるとつらいからしょうがない面もあるだろう。
コロンボンさんは今時点は少尉。すぐ上の中尉がおらず、直属の上司は大尉。その上の階級は少佐、中佐、大佐になるけれど、少佐がいなくて副隊長さんクラスの中佐まで飛ぶ。陸軍・空軍・海軍になると少将、中将・大将の階級が登場するけれど、管理所の警備隊に将官クラスの階級はなく、警備隊長さんが大佐で一番上。
ある日コロンボンさんとあと五人の少尉の面々が不意打ちで昇進試験を受けさせられた。全員筆記はスルリと合格。警備隊長さんが「受かる能力持ってるなら、なんでこれまで受けなかったんだー!」と叫んだ逸話はリーダーとシード先輩から聞いている。
「昇進したくないわけじゃなかったんだが、なんとなくだなー。俺も同僚も」
「下の奴らが上がりにくいじゃねぇか」
「隊長にはそう言われた。だが部下からは『先輩たちのせいで昇進試験受けさせられたじゃないですかー!』と文句を言われた俺らは?」
「それもどうなんだ」
階級が上がると給料が増えるけれど責任も増える。コロンボンさんの直属の上司がほどほどの階級で滞留したい勢をのらりくらりと庇っていたみたいで、その上司の方も少佐になるそうだ。打ちひしがれていたと聞き、トウマと笑ってしまった。
今回なかなか多くの人が昇進するので、各自の役目や分担も変わる人事異動等となるそうだ。揉め事対応は面倒でも街を見て回っているのが好きだというコロンボンさんだが、少し内勤が増えそうだと嘆いていた。
街中の交通量が少しあって、途中のろのろになったがヴィスランティ家に到着。
門を通過すると、静電気のバチッとくるあの痛みが全身のアチコチに起きて叫んでしまった。
「いっ! いてっ! いたいー!」
「モジャー! モジャいるかー! 解けー!」
何事? となったけれど、妖獣の作る障壁だとすぐにわかった。
車の中で洗礼を受けたのは私だけで、車の窓を開けてトウマが叫ぶとスッと痛みが消えた。
「何かあったな!?」
「だろうな」
「あっ! ウチの何人かも通れないでいる!」
正面玄関までもう少しあるけれど、コロンボンさんが途中で降りて門に走っていく。振り返るとバイクで並走していた数人が止まり、私と同じように痛がっていた。
「とにかく屋敷に入ろう」
「う、うん」
正面玄関に着いて車から降りたら、挨拶もそこそこに屋敷の中に案内された。
すると玄関前にいた屋敷の警備さんが一人ついてきて、ドアが閉まった途端にその人の首元からひょこっと妖獣が顔を出した。
「ちょっと強くしすぎた。ゴメンな」
「い、いえ……」
モジャと呼ばれた妖獣だとわかった。
ハムスターとミニチュアサイズのイヌのどっちつかずな姿で、頭の毛だけモジャモジャ。どうしてそこだけそんなにモジャモジャになる姿にしたのか問いたくなるモジャモジャさ。だけどその頭だからその名前になったとすぐにわかる姿でもあった。
「普段は本家の警備にあたっているダニエルとモジャだ」
「ダニエルです」
「モジャってんだ。名前で呼んでくれていいぞ」
「り、リリカと申します」
ダニエルさんは壮年の男性で、本来は侯爵家の警備を担っているお一人だと挨拶してくれた。侯爵家には何度か訪問しているけれどお会いしたことはなく、「目立ちたくなくて」と苦笑いしながら、首元から顔を出している妖獣の頭を撫でる仕草で理由は悟った。今も制服の下に隠れているし、モジャは不特定多数の人前に出るのは嫌なんだろう。
侯爵家のヴィスファスト家と分家のヴィスランティ家は両家共同で専属警備員を持っている。両家を行き来する人もいるが、ダニエルさんは本家屋敷が担当。だけど、王子殿下ご夫妻がいらっしゃる間はヴィスランティ家の専属警備員筆頭と聞き、そうなった理由はモジャの存在だろうなと思った。
「少し前に丘の麓で不審者の目撃情報が入りまして。モジャに警戒を頼んだままでした」
「本当にゴメンな?」
「いえ、安全第一です」
ヴィスファスト家もヴィスランティ家も街の喧騒から離れた丘の上にある。
ヴィスファスト家は敷地の境界線となる丘の麓に外壁と門があるけれど、ヴィスランティ家のある丘の下には門や外壁はない。屋敷に続く道の両側に敷地の境界線を示す柱が二本立っているだけ。部分的に柵を設置している場所はあるけれど、野草探し遊びの子どもたちが来るくらい地域住民といい関係にあるので、威圧感を与えるような壁は作っていないと聞いた。
代わりに丘の麓の住民たちが道行く人を監視してくれている。屋敷に至る道で見かけない人がいれば、地域の住民が声をかけて撃退しているので、そこまで変な人が入り込むことは少ない。しかし、時間貸しの車などで動く観光客までは止めきれず、そういう人が敷地に入り込んでしまう。
つい先程、地域住民から時間貸しの車が屋敷の方面に向かった通報と不審者の通報が同時に入り、緊急でモジャが障壁を作って対応したと説明された。
王子殿下ご夫妻が滞在する屋敷を見ようと軽い気持ちで近くを彷徨く人は、ほぼ間違いなく観光客。
連絡なく自分の家や敷地にズカズカ入りこまれたら嫌だろうに、どうして他家に対してそういうことをするんだろう。
シシダでも王都でも立入禁止とされている敷地に忍び込む観光客問題はあって、観光してたら不法侵入の罪に問われないとでも思っているんだろうかと不思議で仕方ない。
使用人さんがひとまずこちらへと部屋に案内してくれたタイミングで、ジュニオル様がやってきた。
ほぼ身内しかいないからか隠すことなく機嫌が悪そうで、言葉をかけたら不満が爆発してしまった。
「王子妃殿下の療養先って発表されてから、これまで接点のない輩からも来訪伺いの打診ばかりでね。父上もそうらしい。王子妃殿下の見舞いのことは俺たちで決められるものではないし、チビの歌のことでシャーヤラン観光したいが、街の宿泊先が見つからないから屋敷に泊めさせろの魂胆がスケスケで、本当にふざけんなっ!」
ジュニオル様はここのところ、王子妃殿下の見舞いに行ってもいいかと連絡してくる貴族たちに「来るな」と返す対応に追われていて、相当腹立たしいのか言葉が乱れまくっている。
ダニエルさんはまだ先ほどの警戒の対応があるからと部屋までは来ず、モジャから障壁を作るときに私をしっかり除外したいからあとで時間をくれと言われ、頷いた。
使用人さんに案内された部屋は主庭が見える大きな部屋。
そうだった。
私、庭のことで連れてこられたんだった。こういうことは早々に片付けたほうがいい。
ジュニオル様に声をかけようとしたら、窓からの明かりが薄暗くなり、なんだろうと窓を見ればチビとオニキス。
「やっと来たー」
「やっとというほど待ってないけどな」
二匹とも管理所からここまで森を伝って来てもらった。
トウマが二匹に森の中で不審なことがなかったか確認したが、森の中は問題なしだという。
「森の中の監視魔導具も動いていたし、オレっちとオニキスで奥のほうは障壁増やしといたし、魔獣感知したら食べちゃうし」
「食うな。素材確保しろって言われてるだろうが」
チビとオニキスのルーティンとなっている森の巡回で、ヴィスランティ家の周辺は厳重に見て回るよう指示が出ている。
チビは魔獣に出会うと食べてしまいがちだが素材は取りたい。素材が取れたらチビへの報酬にも上乗せになるんだからさ。
「ちゃんと仕留めるだけにする! 次の歌の制作費を貯めなくちゃね!」
そう強く決意するチビだが、びっくりするほど利益が出ているから大丈夫だよ。
でも、自分の体の鱗を剥いで換金しようと言い出さないだけ成長したと思いたい。
ジュニオル様自ら庭に面した大きな窓を開けてくれて、そこから庭に降りる。話に聞いていた通り、屋敷に近い場所にあった花壇は取り壊され、石畳もない。
「どういう配置にするかは悩むところだけど、例えば丸く囲った花壇をポンポンと配置して、青紫色の魔苔と赤紫色の魔苔と、キイロなんとか苔とか、色違いで整えるとなかなか可愛いと思わないか?」
……ジュニオル様がたいへん楽しげに話し出したけれど、流されてはいけない。
主庭で待機していた庭師さんたちが、植える予定で購入したという苔を持ってきてくれたけれど、表情から「旦那様を止めてくれ」の懇願をひしひしと感じる。
この苔をぜんぶ私が購入してもいいのでジュニオル様には諦めてもらわないと、侯爵夫人による孫娘候補への教育が厳しくなる。まだ孫になると決まっていないのに、私しか参加者がいないとマナー研修が女主人教育になりつつあるのだ。
ここは侯爵様に連なる由緒あるヴィスランティ家。
よし、言おう。
「……ジュニオル様、その、言いにくいのですが、これらの苔を日差しの降り注ぐところで育てるのは容易ではないです……」
黄色の配置で差し出されたキイロハリセンマツ苔はジメジメした日陰じゃないと枯れてしまう。青紫色と赤紫色の魔苔も半日陰で、燦々と日差しが振り注ぐ庭には不向き。
ジュニオル様は多分、面白半分なんだと思う。
そもそも苔のほとんどは半日陰か日陰なので、主庭を彩る植物としては不向きなことをご存知じゃないとは思えな……
「……そうだよね!」
本当にスパーンと忘れていたみたいでガックリした。
トウマも私への連絡をスッポ抜けたし、親子揃ってたまにポカミスするんだな。血の繋がりはないのにこんなところがそっくりで、笑ってしまいそうになった。
苔図鑑に掲載されている写真を見て、苔にもカラフルなものも多いのを知り、可愛い庭にできるんじゃないかとノリノリになっていたみたいだけど、もう一度言う。日差しが燦々と降り注ぐ主庭で苔を愛でるのは無理です。
「どうするか。いくつか買ってしまったし、あっちの奥を苔庭にでもするか?」
「前に別宅のあったあたりであれば、井戸からの水の引き上げできますので、苔の管理する場所は作れるかと」
どうなるかとドキドキしながら聞いていたであろう庭師さんたちが主庭の奥のほうを指し示せば、ジュニオル様に謝られた。
「義娘のために可愛い苔庭にしてみたかっただけなんだ。苔の性質を思いっきり忘れていたよ。こんな赤やピンクの苔があるなんて思わなくて、つい買ってしまったよ」
「……ピンクセロロラペリル!」
ジュニオル様の『義娘』の言葉に、まだ早いと言いたい気持ちを吹っ飛ばすものが目の前にあった。
庭師さんが窓の近くに苔を持ってきてくれて、「淡赤色のムシムコ苔です」と見せてくれた苔に紛れ込んでいたのは、ピンクセロロラペリルという劇薬が作れてしまう毒苔で、思わず叫んでしまった。
この二つはよく似ていて、苔の研究者や苔愛好家でも間違えてしまうことがある。
「え? これ、違う苔?」
「は、は、は、はい。こ、こ、この部分だけ、違います。ど………毒苔です。採取した人? 売った人? も気がついているのか、いないのか……だと、思い、たいです」
私の慌てっぷりに、のんびり漂っていたチビとオニキスが近づいてきて、私が見極めた毒苔で間違ってないと鑑定して太鼓判を押してくれた。
「どー見ても同じにしか見えない苔を一瞬で違うって見分けられるのに、なんで服の違いはわかんないのかな?」
「それが摩訶不思議だよな」
太鼓判とともに、チビとオニキスに散々な評価を受けた。トウマもそうなんだよなという顔で見ないでほしい。
キノコでもたまに毒キノコが紛れて食中毒事故が起きたりするけれど、この苔もそういう感じで悪意はなかったものだと思いたい。
私が触らないようにと制した行動にジュニオル様は表情が厳しくなった。
「ジャパス、ヨーダ、私が浮かれて買った物で、ほかに失敗してないか総点検してくれ。あとこれを買ったところにも連絡を。リリカ嬢、これはどう処分すれば」
「処分するのであれば管理所で引き受けます。この量なので影響はほとんどないですが、燃やした煙も有害なのでお屋敷でやらないほうがいいです」
「正式に依頼しよう」
さっきまでのウキウキ楽しい雰囲気を一変させ、ジュニオル様は真剣な顔でその場で毒苔処分の依頼を管理所に出してくれた。
同時に私が管理所に連絡。
諸々の事情を鑑みて受付処理を優先してもらい、私がこの場で引き取りできるように手配してもらった。
引き取り立会人として、ヴィスランティ家から仕入れに関わっていない使用人さん、管理所からはコロンボンさんとバイクで来てくれた警備隊員さんを呼んで、端末画面にサインしてもらう。まだ不審者警戒中なのに申し訳ない。
他の苔も全部見たけどヤバいのはピンクセロロラペリル毒苔だけだった。チビもなんだかんだ私の苔の研究の余波で苔のことには詳しくなってくれているので、念には念を入れてチビに鑑定してもらった。
「ペリル毒苔はねー、ほぼ味なし。でもあとから喉の奥がピリピリしたかな。緑色のだったけど」
「……食べたの?」
「どんな味なのかなーって。食べてから七転八倒してチョーつらかった」
私と出会ったときは毒草を食べた直後だったと言うけど、他にも食べていた。
クサムラトカゲだったときのチビは自殺願望でもあったのかと泣きたくなるほどの奇行っぷりだ。毒だとわかって食べるなんて、誰もが呆れるのも無理はない。
でもチビの言葉の通り、ペリル毒苔はほぼ無味無臭だからこそとても怖く、似た苔に同居するように紛れて生えていることが多いから厄介な毒苔でもある。
「さすが苔研究をしているだけあるね。まったく見分けがつかないよ」
「いえ、苔の研究をしていても知らない種類のほうが多いです。ペリル毒苔は研究テーマを決めるときに検討したことがあって、少し勉強しまして、それで知っていただけです」
教授の下で苔の研究をしようと決意したとき、どの苔について研究するかを決めなければならなかった。
研究調査数が少ない苔を選んだほうが学会発表での評価が得やすい。そんな打算でテーマとする苔を探したときに、ペリル毒苔も候補の中にあった。
ペリル毒苔は危険性もあって許可が厳しいために研究者が少なかったので候補にしたけれど、その危険性から研究する場合は解毒などの知識が必須で、医薬品生成研究を学ぶことがセットになる。医薬品生成についての専門学科を取得するとなれば、その分卒業が数年遅れてしまう。親からの学費仕送りを早く終わりにしなくちゃと思っていた私は、卒業が延びるのはだめだと諦めた。
それで教授が生育研究をする者が少なくて困っていた発光苔を選んだ。
研究テーマとして諦める前、同じ色のムシムコ苔とペリル毒苔を見たとき、まったく見分けがつかなくて怖かった。見分け方を知っておくだけでも役に立つかもと勉強と観察をした。その結果が今日に活きてよかった。
私が指摘しなくてもチビとオニキスが森の巡回で屋敷に来たときに気がついたかも知れない。さっき会ったモジャが見つけたかもしれない。殿下の護衛でついてくる王族護衛隊にも妖獣の相棒の人いるから、遠くない未来に発見できただろう。
私が判別できたのはたまたまだと言い、過大評価されたくなくて言葉を続けたら、ジュニオル様とトウマに首を振られた。
「そうかもしれないが、そうじゃない未来だったかもしれない。本当に今回は僕が反省だ」
ジュニオル様が猛省の姿勢。
どうやら本気で主庭を苔だらけにする気はなく、けれど私が喜ぶだろうと面白がっていろいろな苔を買い集めたのは事実だった。
普段は苔がそこらにあってもまったく気にしていなかったが、図鑑を見たらなかなかカラフルな苔もあり、それらを見ていたら楽しくなり、悪ノリしたと反省の弁も続いた。
「ミニコンサートのことと、警備隊のことは、トウマ、任せた」
「ああ」
ジュニオル様はここ最近に購入したほかの物にも不備がないか確認すると言い、急ぎ足でジャパスさんとともに出ていった。
ヨーダさんは先に出てしまったので部屋に残ったのは私とトウマ、ヨーダさんとの入れ替わりで来たジルミルさんだけ。庭師さんたちも苔を入れたトレーを小型車両に積み、庭の奥に行ってしまった。
毒苔が紛れていた驚きの緊張がまだ解けない。
ジュニオル様とトウマの顔色が変わったのもわかる。
あの苔は本当に見分けがつかなくて、売った先もうっかりだと思うけど、もし悪意を持って紛れ込ませていたとしたら?
これから王子殿下ご夫妻が来る。
最悪なことは考えたくない。けれど最悪を考えて対処して、問題のない日々としなければならない。
足早に出ていったジュニオル様は、普段購入しているものも総点検して、妙なものが紛れ込んでいないか確認するのだろう。
伏せた姿勢でいたオニキスがおもむろに立ち上がり、トウマを見上げる。
「はー、お前が面倒に巻き込まれるのは嫌だぞ。今日はもう整備班に戻らないな?」
「親父の補佐に入る。オニキス、巡回業務だけは継続してくれないか」
「この森のあたりは念入りにな。その前に鑑定で協力するか。一番は厨房と食材貯蔵庫だな」
「頼む」
「頼まれてやるから、その髪と髭をどうにかしろ」
オニキスはチビに「じゃーなー」と告げるとヒュンと姿を消した。
まっさきに厨房。
トウマとオニキスの会話が慣れていて、貴族の生活怖いとやっぱり思った。
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