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チビと私の平々凡々【本編完結/番外編続編スタート】  作者: 愛賀綴
番外編(続編)

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01.最悪を考えよう

お待たせしました!「チビと私の平々凡々」の番外編(続編)です。

本編のときのようには執筆工数が取れず、月一更新くらいのカタツムリ執筆かもしれませんが、頑張って書いていきますので、またお付き合いください。


 今使っている暦は、遡ると二万年くらい前に誕生したとされる。その当時は巨大な帝国時代で、帝国の都の雪どけの時期が年の区切りだったらしい。その帝国滅亡後に幾多の国々の興亡があったものの、どの国も帝国に匹敵するほどの影響力とならず、帝国時代の暦が民の生活に根づいてしまったこともあり、そのまま今に至っている。


 そんな暦の年の区切りは、モウリディア王国の気候の区切りとはズレていて中途半端。モウリディア王国も大きい国なので地域による気候の差は大きいけれど、多くの地域で冬の真ん中。あと数カ月ずれていたら、春か秋の祭りと合わせられるのに微妙なのだ。

 モウリディア王国は年の区切りよりも、芽吹きの春や実り多き秋に盛大な祭りを行う地域が多く、年の区切りだからといって何かを行うことは稀。たいていは普通に過ぎるのだが、今年は違った。


 年明けとともにチビの歌の発売。


 各地で発売記念のイベントが発生し、その最たる場所がシャーヤランの領都なのは言うまでもない。

 お祭り騒ぎである。

 チビの歌はシャーヤランに来訪しなくても全世界で買える。音楽雑貨などを扱う店で買えるばかりか、通販も確保してあるのに、またしても観光客で大混雑のシャーヤラン。

 領都で宿泊先が取れず、余波で第二領都も大混雑。そしてシャーヤラン領で三番目に大きな街、ナムナも驚きの混雑で、シェルル様の旦那様が倒れかけたという報告もあった。

 ナムナはシャーヤランでも農林産業が盛んな場所で、この時期は穀物と一部の根菜の作付けも始まって大忙し。耕作地にまで観光客が押し寄せているわけではないが、街の行政は大わらわだという。


「確認したら単に寝不足でふらついたのが大事(おおごと)に聞こえてきただけでした」

「そ、それなら、いいんですが」

「ふふふっ。チビ画伯の似顔絵を焼印したパンケーキが飛ぶように売れるのが楽しくなったらしいですよ」

「え」


 ラワンさんも聞いたときは気になって情報を詳しく調べたら、シェルル様の旦那様は露店販売が面白いように売れるのが楽しくなってしまい、自分も材料の仕込みを手伝って寝不足になったのだという。そう聞いたら私も乾いた笑いしか出ない。


 チビの街デビューのときに領都で売ったチビ画伯の似顔絵を焼印したパンケーキは、取り扱い先を増した。焼印のコテや鉄板などの器具を貸し出す許可制で、許可した先に求めるのは『チビの関係者』が街で人に囲まれて困っているときに保護すること。この奇妙な契約となったのにも理由がある。

 年の区切りの少し前に、リーダーとメイリンさんが何かの用事で街に行ったら、群衆に囲まれる事件が起きてしまったのだ。

 リーダーはフェフェの相棒、メイリンさんはチビのサプライズコンサートの際にヴァイオリニストとしてステージにあがったことを知っている観光客が、興奮して握手を求めたのがきっかけ。近くの店の人が気づいて助けようと思ったときには遅かったという。

 被害は握手攻めだけで怪我などはなかったものの、通報を受けた警備隊員に保護されて帰ってきた。「なぜ俺が」「なぜ私が」と言っていた。

 チビの余波のすごさを思い知った出来事だった。

 シャーヤランの領都民は妖獣と妖獣の相棒に対して理解のある人が多いけれど、一人の行動が波紋のように広がり、数十人、数百人に及んでしまう怖さを改めて痛感した。焼印を使わせてほしいという要望を多くもらっていたので、避難先を確保する対策と抱き合わせとなったのだ。そのうち落ち着くと思いたい。


 焼印の使用先を増やすなら同じ絵では面白くないだろうと、チビの似顔絵のパターンが増えた。オニキスとフェフェの焼印も作られた。チビがウキウキと描き、監修は部長さん。

 コテだったり、鉄板だったり、作るものによって器具も増えた。

 焼印を使う種類もパンケーキだけでなく、その他の焼菓子類やホットサンド、厚焼き玉子、魚肉の練りものなどにも派生し、果てはステーキまで。ステーキ用の器具を作ったのはチビ大好き商会長さんだ。ちょっと高級志向のレストランのメニューにチビがニパッと笑っている焼き目のステーキ。焼くときの加減が非常に難しいらしい。「よくもこんなものを作ったもんだ」と許可した所長も大笑いだった。

 そんなこんなで『チビ画伯の焼印メニューを食べ尽くそう!』なんてツアーも生まれている。


 ナムナの行政施設前ではシャーヤラン名物の具だくさん野菜スープや緑連豆の甘いペーストを挟んだパンケーキ、各種のホットサンドなどを露店販売していて、それらがウケている。

 ナムナにある飲食店でも野菜スープや焼印のあるものはあれこれ売っているものの、どの店も行列で、この大混雑が落ち着くまで露店販売で分散させようと始まった。とにかく手軽にシャーヤラン名物が食べられればいい観光客に大好評。


「仮にも侯爵家につながる方が『単なるパンケーキがめちゃ売れる!』という発言はだめでしょうけれどね」

「え」


 ラワンさんがクスクス笑いながら教えてくれたが、それは外では言っちゃだめだ。引き攣った笑いになってしまったら、向こうでちゃんと諌めた人がいると聞いて安堵した。まあ、確かに焼印しただけなのは事実ですけれど!


「緑連豆、また足りなくなりそうですね」

「隣領が融通してくれているので大丈夫でしょう」


 シャーヤランの山脈の向こうの地域でも緑連豆はわさわさ育つ作物。しかし、山脈一つを隔てただけなのに、向こうでは飢饉を救ったありがたい作物の代表は赤茶芋なので、一部の地域を除いて緑連豆はそこまでありがたがられていない。

 この夏のシャーヤランでの緑連豆不足騒ぎを知って、普段は取り引きしていない緑連豆を適正価格より僅かに高値だが誤差の範囲で回してもらっている。もう少ししたら夏の終わりから慌てて植え始めた緑連豆が実り出すけれど、まだ需要と供給が見通せる状況でもないらしい。

 ただ、まだ緑連豆メニューを出して数カ月なのに、これまでのシャーヤラン定番の具だくさん野菜スープと並び、「シャーヤランと言ったら緑連豆」と言われ始めているので、このまま定着してくれたらいいなとも思う。


 山小屋でラワンさんとともにコロンボンさんを待ちながら雑談していたが、警備任務で街に出ているコロンボンさんから「遅れる!」と連絡があった。

 チビは仮称職員村の開拓の手伝いをしていて、コロンボンさんが山小屋に来るときに戻ってくることになっている。

 コロンボンさんが来たらチビも同席する話なので山小屋のウッドデッキ。少々肌寒い気もするが、ここはシャーヤラン。暦の上では真冬だけどシャーヤランには事実上、冬はない。季節がしっかりある王都基準でいうとポカポカな春なので、ちょっと着込めば問題ない。


 コロンボンさん待ちの雑談で出た内容はシシダのこと。兄夫婦に子どもが生まれたら私が帰省するだろうことを見越し、チビのコンサートをしてくれと要望が来ていて、あれから延々と揉めていた件だ。

 湯治場と商店街で揉めている話を知った山脈案内人のドンと、新しくシシダの警備隊長に就いた陸軍中佐の方が、商店街の無責任さに「現実を見て言え!」と吠えてくれて、それから音沙汰がない。


「山脈案内人のあの方と向こうの警備隊長さんの言葉で、商店街の方々もわかったと思いたいですが、どうでしょうね」

「あの言葉は効いたと思いたいです」


 山脈案内人は直接街の商いに関わらないが、世界最高峰の山へ挑戦する登山家たちのガイド役として欠かせない人たち。

 シシダは山脈に挑戦する人たちの最後の物資補給の場であり、登頂成功後の休息の地として集落が形成されたのが街の原点。

 山脈案内人は大事な存在で、彼らの声はたいへん重く受け止められる。

 そして、新しくシシダの警備隊長に着任した陸軍中佐の方はしっかりとした方で、商店街の計画の杜撰さに「娯楽で死傷者を出したいのか」と怒ってくれた。


 ここ最近シシダに迷惑な観光客が来る。昔から無謀な者はいるが、ここ数年顕著に増えた背景には、チビの相棒である私の出身地として名が広まったのもあるだろう。

 シシダを紹介する観光ガイドブックなどに防寒必須とあるのに、防寒対策が不十分でやってくる。防寒対策不十分だけならシシダで買い足せばいいのだが、なかなか人気となったシシダの宿はたいてい満室で、それなのに宿の手配もせずにやってきて、どこも宿泊先が見つからずに保護される人たちが発生。実に迷惑。

 この時期にシシダの道端で野宿したら凍死する。地熱で雪が積もらない場所があるといっても、地熱のないところは家の高さを超す積雪があるのがシシダ。確実に凍死する。宿なしの人たちを放置もできず、警備隊で保護したり、宿泊施設である湯治場のどこかに要請があって、従業員の部屋を貸し出すなどしなければならない。無計画だったと反省してくれればいいが、ラッキー! となる人がいるから腹立たしさが生まれてしまうのだ。

 そして、迷惑な自称登山家もいて、こちらのほうがもっと迷惑。山脈に入るのは事前申請が必要なのに、「自分は登山経験がある。ちょっと入ってみたかった」という無謀も無謀な人たち。


「人が死ねば遺体の保管にも搬送にも費用がかかるんだが誰の負担だよ! 家族や親類がいるとは限んねぇんだぞ。山の救助費用を請求したって支払いを踏み倒すやつらもすげぇいる。毎回毎回こっち持ちの経費マイナスで、じゃあ助けるなってか? そうは言えねぇだろ? 街ン中で凍死されてもいいのか? 結局誰がそういうバカの面倒みるんだよ!」

「商店街の方々もご存知ですよね? 遺体の引き取り手もなく、焼くのもタダじゃない。土に還すのも掘るための工賃発生してます。実際に担っている山脈案内人と警備隊員の苦労をわかっていますか? 私が着任して早々のお打ち合わせで、この地の税金をそういう愚か者の始末に垂れ流したくないとお聞きしたんですが、無計画に人を寄せ集めて、何人の凍死者や圧死者を出すご予定なんですか?」


 山脈案内人のドンは烈火の激怒。シシダの警部隊長さんは凍える激怒で、商店街の杜撰かつ無計画なチビのコンサート開催に大反対。

 湯治場はチビのコンサートを事前告知開催したら、チケットがなかろうが宿が取れなかろうが観光客がやってきてしまう危険を予想し、もともとコンサート開催は反対だった。「チビが来てくれるだけでいいじゃないか」の姿勢で商店街を諌めていたのだが、二人がここまではっきり言ってくれたのは非常に心強かった。


「湯の一番ンとこのコストゥの娘が帰ってくるのも、チビのこともめちゃくちゃ歓迎してぇよ。いつだって帰ってきていい話さ。本音言えば俺だってチビのコンサートがあるなら行きてぇよ。だがな、迷惑な客を呼び込んで人が死ぬだろう危険があるとわかって、やってくれなんて言えるかよ! そんなんまっぴらごめんだぜ!」

「警備隊としても死亡事故が起きかねないことを計画していると知れば、眺めているわけには参りません。シャーヤランでもどれだけの根回しと調整を重ねてコンサートを実現させたのか。主催者の方々の苦労を詳らかに聞いたら想像を絶しますよ」


 私はチビのサプライズコンサートをやると半ば決まった時点から共有されたが、もっと前々から真剣に話し合われていたのは、無事にコンサートが終わってから知った。

 シャーヤランでもチビのサプライズコンサートがまだサプライズとすると決まる前、先行チケット販売スタイルは協議されていた。けれど、事前にコンサートをやることを発表したら、宿なし、チケットなしでもやってきて、確実に街は大混雑になる。人の殺到で圧死事故だって起きかねない。だから、歌うのが好きなチビにコンサートをさせてやろうとなっても、告知したらだめだと真っ先に却下となった。

 できる方法はないかと話し合う中で、「陛下を驚かせてやろう」の悪ノリも追加となり、それでサプライズとして実現できる内容に落とし込んでいった。

 途中何度も断念の声があがった。けれども一つ一つ対応策や回避策を考え、ああして実現できたのだ。


「シャーヤランでも宿予約なしでやってきた観光客が、道端で野宿という名の酒盛りをしたり、何かしら揉め事が起きてますからね」


 もともとシャーヤランでも無計画な観光客問題はあって、そこに加わったチビという存在。シャーヤランに来てもチビに会えるわけではないけれど、妖獣の歌手デビューは前代未聞。それが拍車をかけていて、夏に誕生した飛行船宿泊プランで宿泊できる場所を増やしたりしたが、路上宿泊者が出てしまうから困ってしまう。


「たーだーいーまー! コロンボンももーすぐ来るよー!」

「ちょっ! チビ、顔が泥だらけ」

「洗ってくるー!」


 チビがふよふよ飛んで帰ってきたが、どういう手伝いをしていたのかチビは頭から首近くまで泥だらけだった。

 そのまま泉に向かったので顔を洗ってくる気だろう。


「……機嫌はどうですか?」

「やらないと決めたので、ひとまずは割り切ったと思います」

「残念ですが、仕方ないですね」


 妖獣は素直に喜怒哀楽を隠さないものだが、感情がだだ漏れということでもなく、矛盾するけれど感情を隠すのも上手い。

 チビもシシダの商店街の人たちに怒ってしまった。サプライズのミニコンサートを考えていたけれど、あれだけ湯治場の人たちが説得したり説明したのに、自分たちで対策も何も考えない商店街の人たちの無責任さにへそを曲げてしまったのだ。

 せっかくラワンさんも同行で計画していたけれど、プンプン怒って「やんない!」と叫び、その日の夜、チビの(ねぐら)からドカンドカンと音が聞こえてきて、オニキスがチビの荒れてる音に眠れず、数日間寝る場所を変えたほど。

 ミニコンサートがなくなっても、私が帰省するときのラワンさんの同行はそのままになった。今後があるので、実際に顔を突き合わせて話し合う場を持つことになっている。


「シシダだけではなく、先行チケット販売スタイルで人の殺到をどう対策するのかわからない先には同じ回答です。そうすると連絡が途絶えますね」

「そうですよね……」


 そう判断できるならまともな方々が多い場所だと思う。

 そんな話をしていたら、フォーンという浮遊バイク特有の音が聞こえてきてコロンボンさんが来てくれた。

 警備服が少々乱れていて乱闘騒ぎでも止めてきたのかと思ったら、チビの歌の作曲の一人として、握手攻めとハグ攻めに遭ったという。


「ハグ」

「変な想像するな! 小さい子たちだ! 無理に離せなくて苦労した」


 それは断りにくい。

 握手を求めてきたのは数人の観光客だったので応じたら、「コロンボンさんだー!」と足にまとわりついた三人の子ども。親御さんが謝りながら離したもののギャン泣きされ、落ち着くまでよしよし係をしてきたのが遅刻の理由だった。


「ラワンも気をつけたほうがいいぞ。俺らの顔、しっかりバレてる」

「そんな可愛い洗礼なら甘んじて受けましょう」

「いや、時間とられるからな?」


 子ども向けの曲を作った者として無下にはできない。

 ただ、子どもの相手をしていられないこともある。

 可愛い洗礼なら断れないと言ったラワンさんだったが、きっちり想像して、若干遠い目になったのだった。


お読みいただきありがとうございました。

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