22.行こう
朝になって昨日イチゴちゃんの伝言板の件で集まってくれたメンバーに「ふと思い出したことがある」と連絡を入れたら、すぐにペニンダさんが車で迎えに来てくれて、あれよあれよと管理所の小会議室に閉じ込められた。
足首はだいぶよくなってきている。そろそろ浮遊バイクで移動しても大丈夫だと思うがそう言える状況ではなかったので、山小屋まで帰るときも送ってもらうしかない。
小会議室に閉じ込められたけれどフェフェとキィちゃんも一緒なので寂しさはない。
「所長とアビーは昨日延期した領主館との打ち合わせだそうです。相当のことでなければキャンセルできないと」
「それは仕方ないわね。トウマはもう少ししたら来るというけど、私とラワンで先に聞きましょう」
そんなこんなでラワンさんとペニンダさんに先に話すことになった。
キィちゃんたちから、私が思い出したことをきっかけにして話すよう勧められていたので、フクロウ二号から聞いたことは隠して話す。
夜にふと昔読んだ本に似たような文字があったようなことを思い出し、けれど思い出した内容自体がぼんやりしていて確証が持てず、チビを通じてフェフェを呼び出して相談した。フェフェを呼び出したのは、以前にフェフェと一緒に読んでいたときのものだったかもしれないので、聞いてもらうことにした。一人と一匹で「どうだったかなぁ」と考えても二年半くらい前のこと。記憶自体が定かではない。それで考えてもわかるものではない。途中でキィちゃんも来てくれて、イチゴちゃんの伝言板のときに集まったメンバーに共有して、相談するのがいいとなり、今この場になった──とした。
フクロウ二号のことを出さない話の流れとしても変なところはないはず。
フェフェもちょこちょこと補足してくれたおかげで、自然な流れで伝えられた。
ここからフクロウ二号が暗号文字ではないかと推測したところに着地できるかはわからない。フェフェと読んだときの本を確認できたとしても、フェフェはイチゴちゃんの伝言板を見ていない。そうなると私の記憶だけで突き合わせることになる。
「フェフェ、その特別許可が出た本ですが許可のレベルは?」
「いやあ、どうだったか?」
「まさかと思いますが最高レベル?」
「いやあ、どうだったか?」
ラワンさんへのフェフェの返答に「え!?」となった。
フェフェはすっとぼけているのか、本気で忘れているのか。
……前者な気がしてならない。
相棒であるリーダーの研究に役立つことはないかと魔素毒について読み漁っていたフェフェと、発光苔のことで何かわかることがないかと魔素毒方向から攻めていた私。お互いに読んでみたいと閲覧制限がかかっている本の申請をしまくっていたけれど、私はフェフェも一緒に読むことを申請の際に付記していた。
まさかフェフェは私が一緒に読むことを申請のときに伝えてなかったの?
フェフェのすっとぼけの様子だと書いてなかったに違いない。私はそうしていたからフェフェもそうしていると思い込んでいた。
「フェフェ〜、まさかかなりやばいレベルの禁書を読ませてくれてたの?」
「最終的に読んでいいとなったならいいってことじゃないか〜」
大雑把すぎる。それがフェフェだけど。
ペニンダさんとラワンさんが頭が痛そう。
キィちゃんは呆れている。昨日からその表情ばかりだね。
フェフェが「読んでいいって!」と嬉々として誘ってくれて、一緒に読んだ本の重要度が高すぎた事実に、私も時を経て頭が痛くなった。
本のタイトルは正直覚えていない。魔素毒に関する研究文献の類はどれもこれも似たような名前ばかりだったからだ。
私で許可を得た本ではなさそうな気配が濃厚となり、そうなるとフェフェの図書閲覧記録を遡ってこれかもしれないとあたりをつけて確認しないとならないけれど、特別許可を得たものは図書閲覧記録の該当行が非公開になっているので、その確認から許可を申請しないとならない。
「第一級禁書レベルの権限は私では閲覧許可が出せないわ」
「法律に関するものならなんとか手がありますが、研究や歴史書の類だと所長待ちですね」
よく考えれば、昨夜フクロウ二号が暗号文字の可能性を教えてくれたところで、暗号が使われているものの重要度に気がつくべきだった。
今さらながら背に嫌な汗が流れる錯覚がする。
ペニンダさんが通信で所長とアビーさんに概要を共有している間に、私とフェフェはそれぞれ報告書という名の始末書及び反省文兼口外禁止誓約書を書かされることになった。
数多く妖獣はいるけれど、あとにも先にも始末書を書く妖獣はフェフェくらいだと思う。
「毎度思うのだが、書く項目が多いと思わんか?」
「毎度って……、フェフェ、何回書いてるの?」
「アロンソといるとどうしてもなあ」
それ以上は聞くのをやめた。リーダーとフェフェは出会うべくして出会ったんだろう。
始末書プロフェッショナルなフェフェに書き方のコツを教えてもらう私だったが、「反省文は五パターンあるからその使い回しだ」というあっけらかん過ぎるフェフェの言葉に、ペニンダさんとラワンさんによる指導が始まってしまった。
怒られるフェフェからそっと離れる。
なぜ私まで始末書を書くことになったんだろうと若干疑問になりながら自力で書き上げた。
そんなところにトウマが駆けつけてくれた。
小会議室のテーブルの端と端に離れている変な状況に不思議がっていたけれど、私とフェフェが話したことを伝えたら、頭痛が飛来したようだった。
「それで始末書か」
「上位の口外禁止誓約も」
「どんだけやべぇもの読んだんだよ」
そう言われても当時は知らなかったのだからしょうがない。
所長とアビーさんも呆れているだろうし、頭が痛くなっていそうだけど、緊急度は高くないと判断され、夜に打ち合わせとなった。
私は始末書を書き上げたところでトイレに行かせてもらい、小会議室に戻ったらトウマから王子殿下のシシダ行きの報告を受けた。
「出てくる前にアイツが陛下らと話す時間があって俺も同席させてもらったんだが、結論から言うとセロゼダとシシダ行きは決定だ」
「決定?」
「ああ。シャーヤラン領に適用した渡航制限を他領にも発動してからだと言ってた。シャーヤランでいい効果となったから水面下で準備は進んでいてその発動も今日だとさ。それでセロゼダとシシダへ視察旅行の日程を今日の昼には伝えると。渡航制限なく雪が多いセロゼダとシシダに王族会いたさだけで押しかけられたら凍死が出ちまう」
数日間滞在なのに宿をとらずにやってくる観光客押しかけ問題は、チビのコンサート開催の話し合いでも議題になった。
冬と言いながら常春な気温シャーヤランは路上で寝ても死にはしないが、この時期のセロゼダやシシダは積雪が身長を超える。そんなところで宿なしなんて無理だ。
今時点でセロゼダとシシダに観光などで行く人たちは確実に宿があって船の手配をしているので問題がない。王子殿下の視察旅行を発表する前に、宿泊先が不明だと船の手配ができない措置を発動すれば無茶な渡航は防げるだろう。
「シャーヤランで特別発動したのが功を奏したっつーか。なかなか効果覿面で街からの評価がすげえいいだろ?」
「警備隊員がちゃんと休めるようになって私もほっとしたところよ」
ペニンダさんは人事調整の責任者として、随分苦労していたことは想像できる。
チビとオニキスにお願いして森の巡回ルートを増やし、討伐隊職員を臨時警備隊員として助っ人に投入。他にも体格のいい男性に警備補助員としてでてもらったことなども吐露された。商店街の方々も路上に屯する宿なし迷惑観光客の見回り協力してくれて、一番酷かった局面は乗り切ったという。
領地を跨ぐ渡航制限の発動もあって、やっと宿泊部屋数以上の観光客に苦しまない状態に落ち着いたと聞き、街の混乱は相当だったんだなとつくづく思った。
「ごめんなさい、愚痴っちゃったわね。チビの歌発売対策はしていたけれど、王子妃殿下の見舞いと称してあんなに酷いことが起きるとは思わなかったわ」
「あれは考えきれないと思います」
「そうね。領主会合で陛下がいらっしゃったときは普通……、普通と言っても停泊している船内や大型車両を臨時宿泊場所として許可したくらいの大混雑は起きたけど。また話をずらしちゃったわね。今はリリカのシシダ行きのことね」
トウマが同席していた陛下と王子殿下の話し合いには重鎮も複数いて、極論ではあるが、シシダで私を逆恨みしてぶつぶつ文句を言っている者を脅迫罪で捕まえてしまっていいのではないかという発言も出たという。それは流石に極論すぎやしないかと思ったが、ある重鎮が「あまりに目に余るならコストゥ嬢を目の敵にしている者を殿下が黙らせるのもありでは」とも零し、その場にいたほぼ全員一致だったそうだ。
「そこまでしてもらわなくても」
「お偉いさんたちも感情的に発言したり同意しただけでもねぇから。打算がある。所長が言ってただろう? 管理所は国軍所属だと」
陛下は昨夜のうちに所長とも話をして、シャーヤラン管理所職員は国軍所属の流れの提案に同意したという。
シャーヤラン管理所は特殊な位置づけで、国軍所属なのは討伐隊員の多さゆえだ。シャーヤランの森の奥には魔獣が多く生息する。無駄に命は刈り取らないが常時監視は必要でどうしたって武器を使う。武器や小型戦艦を有する組織だったから、モウリディア王国成立時に軍管轄となった。
一般的にも王国誕生以前からシャーヤランの森を守っている組織という認識が強い。
捻くれた人だったら「こういうときだけ軍所属を出してくるのか」と言ってきそうだけど、国の位置づけとしては国軍所属の機関なのは間違っていない。
お偉いさんも王子殿下の言葉で抑え込むのは最終手段だがと言いつつ、チビのコンサート開催は現実的に難しいことを理解しない者に呆れていたという。
もう一つ、間接的ではあるものの、王子殿下の視察旅行に私が同行するだけでも危害を回避する策になるのではないかとなった。
「少々下衆な言い方になるが、王族との交流密度をちらつかせることは周囲への牽制になる。こう言ってはいけないのだろうが、国としてもチビは囲っておきたい存在で、チビを囲うならその相棒の者を囲うのが一番だ。都合がいいことにトウマと王子殿下の仲は一般的に見れば親友で、その親友の婚約者も王子殿下と近しい仲になれば世間の目は確実に変わる。シシダでコストゥ嬢に対する脅迫じみたことを考えている者がそこまでバカではないなら引き下がる可能性もあるだろう。完全鎮火はできず燻ぶりそうではあるが、王族に近しい者を害する者は相当だ」
お偉いさんは言いにくい部分もあえて口にしたらしい。同席していたトウマも負の感情は覚えず納得したという。
私もぼやかされずに言ってもらえるほうがわかりやすい。トウマから聞く提案も表面上なら理解できるし、納得もできた。
「まだトウマの婚約者じゃないけど」
「ひっかかるのはそこかよ」
私の立場がそうなって話されていたことが恥ずかしい。
「リリカも納得してくれるなら一緒に行くのはちょうどいいだろう。それにな、妃殿下がお付きの人以外との会話に飢えているから、チビの話でも苔の話でもしてやってくれたらありがてぇんだ」
「私で話し相手になるかな?」
「なるなる。かなり他人との会話に飢えてんだ。ウチの使用人ともよく話してる。コロンボンも屋敷に報告に来るたびちょくちょく捕まって、チビのサプライズコンサートのことをもう何回話しているかわかんねぇな」
少し体調が回復してきて起きている時間が増えたのはとても喜ばしい。しかし療養中で会える相手が限られ、お付きの方々との会話以外を渇望している様子だという。
私は長期入院の経験はないけれど、ちょこちょこ入院しているのでなんとなくわかる気がした。普通の自分の生活から隔離され、人と会うのも限られる。動ける範囲も限られ、やれることも極端に少なくなり、時間が恨めしいほど長く感じるのだ。
私のシシダ帰省は王子妃殿下の雑談係という役目も担うことになった。
どうにもならない状況に陥るようなら、シャーヤラン管理所職員の私とチビは国軍所属であり、国として今冬にシシダでコンサートはしないと決定したことに否というなら国に言えと伝える。これは最終手段で王子殿下の采配に任せられたそうだ。
「アイツもシシダでチビのコンサートを開催しないとなった理由なども知っていて、できないことの不満が燻っているのも知ってる。シシダの妖獣が言うほどの危険が見えねぇが、リリカに関しては安全だろうとさ」
ほぼチビとともに行動する私を拉致ることは事実上無理だろうと想像しているそうだ。
確かに……。
加えて今回トウマもシシダに行くとなればオニキスも一緒で、トウマの番候補である私に早々と過保護を発動している。妖獣としても巨体な二匹の庇護がある私にどういう風に危害を及ぼすのか想像してみてもまったく持って安全で、どちらかというと私が二匹の過保護さに腹を立てる様子しか思い浮かばないと陛下が大笑いしていたという。
そこは笑わないでほしい。今この場にいるみんなも笑わないでほしい。
「アイツがリリカのご両親と兄君たちにつけている警備を気にかけていたが、シシダに着任した警備隊長さんは切れ者で、すでに対応していた。完全に楽観的になれねぇけど大丈夫という判断だ」
私がシシダに帰ることに関していえば、思い詰めるほどではないとトウマは言う。
ここまでお膳立てしてもらってクヨクヨし続けるのもおかしい。ニット先輩から諭されたように、恐縮さは押し込めて甘えよう。
そうなると問題はチビとイチゴちゃんの険悪らしい関係だが、キィちゃんが「大丈夫よっ! 行くまでにはチビを落ち着かせとくわ!」と明るく言う。昨日も「任せて!」と言ってくれたけれど、完全に一方的な脅しで、その言葉にまったく根拠がないと知ってしまった私はキィちゃんの言葉に微妙な顔になる。他三人はキィちゃんがそう言うなら大丈夫だろうと安堵した顔になっているけど安心できない。フェフェが小さく首を振って黙っとけと訴えてきたので真実は言わないことにした。
残るはあの謎の文字だが、所長がいないと話が進まない。
ひとまずここまででお開きとなった。
夜に集まる場所は山小屋なので、リビングがさらに枝が組まれてすごいことになっているので、ぜひ見てほしい。ただしスライムのことは褒めないでほしい。
トウマは屋敷に戻って王子殿下に私とフェフェが思い出したことを伝えてみると慌ただしく出ていき、ラワンさんとフェフェ、キィちゃんも退室。私とペニンダさんは残って今後の勤務の話になった。
「昨日所長も言っていたけど、帰省日数は気にしなくて大丈夫よ。特別休暇扱いになるわ」
チビ関連は実際はチビのおかげなので私ではないが、管理所としての評価は私にもつく。
それを抜きにしても緑連豆レシピ提供の貢献が大きいという。フィーバーした後だけど私が思いつくくらいだから昔にもあったと思ったらやっぱりあったのだ。だからここまで評価されてもと戸惑ってしまうが、それはそれ、これはこれだと言われた。
「リリカは毎日ひたむきで、休むことを知らない気がして心配になるわ。もう少し手を抜くってことを覚えていいと思うのよ」
「ペニンダさんがそう言っていいんですか」
「立場としてはよくないけれど、リリカのおばさん役としては言いたいわ。私の旦那も『いつ休んでるんだー』って心配してんのよ? まあ、妖獣世話班はそれぞれ研究も持ってるからリリカだけじゃないんだけどね」
妖獣世話班所属となる職員は長年研究職との兼務が続いている。専任で探そうとしてもなかなか見つからないと聞いた。
泥まみれになることを気にせず、血臭溢れる餌やり業務に就ける者となると急に採用のハードルが高くなる。せめて自ら小動物の解体ができる人じゃないとならず、そういう人材は討伐隊や牧場でもほしい。管理所の業務割合としても討伐隊が優先され、別途のことで討伐隊としては不向きとなって、ようやく牧場か妖獣世話班への配属の検討となる。
妖獣世話班とするか、牧場への人材斡旋は対象人物の人柄などになるが、一応非公式の地域妖獣キィちゃんという存在は大きく、妖獣世話班に就く人はキィちゃんによる判定もあるのだという。
「サリーとニットはキィが『妖獣世話班の任務やらない?』って兼務スカウトしたのよ」
どういうわけか研究職員が続いているが、たまたまが続いているだけらしい。
研究職員の中でも見事に森林奥深くへのフィールドワークを厭わない研究分野の者で、そう聞くと今の妖獣世話班で異例なのはシード先輩だろう。
「リリカのときは巨大竜を確保したいって思惑が大きかったから採用のふるいはまったく機能しなかったのだけど、キィは痩せ細っていたリリカのことを随分心配していたわね」
「キィちゃんは最初から優しかったです。今はアクセサリー作りに振り回されてますけど」
「ふふふ、そうね。そうだわ、財務の資料の点検だけどこんなに早く終わるとは思わなかったのよ。正直会計士の資格はあってもぜんぜんできない人もいるから、リリカがどこまでわかるのか試した資料だったの」
「そうだったんですか? 私は資格を取ったばかりだから覚えていたからだと思います」
「資格を取ったのも五年は前になるでしょ? 五年やってなかったら忘れる人もいるわよ」
ペニンダさんの言葉に実感があって、採用時の見極めでの失敗談だろうなと感じた。
会計士の資格は学院の教授の下で苔の研究をすると決める前後に、先輩から進められて取った。会計士の資格を取ったらアルバイト先も紹介してもらえて、さらに教授の研究室で機器類購入時の研究チームごと配賦、備品や機材資産の管理補助もさせてもらえるようになったので、触り程度でもやっていたから会計のことを忘れなかったのだろう。
「だから配賦がわかったのね。あの確認、苦手な人もいるから任せる人を選ぶのよ」
「教授の研究経費がけっこうシビアで、どの研究にいくら経費を使っているのかを出さないとならないことがあって、それで教授や先輩が苦労していて、それを手助けしていたので覚えてました」
「その経験が活きたわね。ヒョイヒョイとお願いできないけれど、何かのときに財務処理を助けてもらえる人材だってことは評価記録に残すわ」
人事評価に会計業務のことを加点してくれると聞いて嬉しくなった。先輩だけでなく教授も強く勧めてきて、先輩は会計士試験対策教材までくれた。一時期研究室で会計士試験の勉強三昧だったのを思い出す。せっかく取った資格だ。忘れたくない。
「私も会計のことを忘れたくないので無理のない範囲でできることはやります」
「そうね。妖獣世話班の数字関係はほぼサリー任せだから、少しずつ内勤的な業務をリリカに割り振るように私からも言っておくわ」
「その件ですが、実は少しずつ教えてもらう予定だったのが、私がチビの歌のこともあって振り回されているからとサリー先輩に保留されてしまって、落ち着いてきたので私からも言います」
「でも、それを言うのはシシダ休暇から帰ってきてからよ。それまでは私のところ預かりだから」
「わかりました」
ペニンダさんと私も小会議室を出たら、廊下に面した窓の向こうにチビが浮いていた。
「あ、出てきた。話終わった?」
「また夜に続きがあるけどね。チビは餌ちゃんと食べた?」
「もう食べたよ。今日は浮かれ食いが出なくてとっても平和だった!」
「そっか、よかった」
窓を開けてチビの鼻先を撫でたら前脚で抱えるポーズをされた。ここ三階だから乗り出したくないよ。
「バイクないでしょ? 運ぶよ?」
「あ」
朝に連絡したらペニンダさんが山小屋に車で迎えに来てくれたから移動手段が自分の足しかない。帰りも送ってもらうつもりだったけれど、チビ運搬の提案を聞いて足首を回してみた。痛みはない。少し前に体重をかけたら違和感があってビクビクしたけどそれもない。
リハビリではほぼ完治していると言われた。
まだ急に走ったり重たいものを持つのはだめだけど、動かしてこれまでの感覚を取り戻したい。
よし、歩こう!
「リハビリもしないとだから歩こうかな。途中で無理そうになったら助けてもらうでもいい?」
「そだねー。じゃ休憩所あたりで待ってる!」
スーッと滑空して離れていくチビの背を見送って窓を閉めたら、ペニンダさんが「だいぶ落ち着いたのね」と安堵していた。
「リリカのバイクにペンキをかけられたときは山崩れを起こしそうなくらいだったでしょ。昨日もチビはかなり怒っていたから、今日も機嫌が悪いかと思っていたわ」
「あは、ははは……」
イチゴちゃんに対する機嫌が直ったとは言い難いけれど、私の浮遊バイクにペンキをぶち撒けられたときほどではない。あのときはチビの怒りは凄くて、オニキス、フェフェ、キィちゃんが必死に収めてくれた。
ペニンダさんはキィちゃんの言葉を信じているので、チビとイチゴちゃんの啀み合う真実を言えないのがつらい。知ったら私同様に脱力すると思う。むしろ真実を言っておいたほうがいいのではないかと思うが、フェフェが首を横に振っていたのを思い出して止めた。
評価や感想などを頂戴できましたら、執筆の励みになります。
引き続き、どうぞよろしくお願い申し上げます。
たまに活動報告も記しております。お時間があればご確認をお願い申し上げます。




