18.何事もコツコツと
足首を痛めて早一週間。思ったよりも痛みの引きが遅くてリハビリ開始が遅れてしまった。
椅子からうっかり立ち上がって悲鳴をあげたり、ベッドから降りるときに何も考えずに床に足を置いて悲鳴も何度か。
筋肉整体医の指導の下、まずは足湯から始まった。それからゆっくりと足首を伸ばす動きで筋肉の損傷具合を診てもらい、完治までどれくらいかかるかと聞いたらだいたい一ヶ月と言われてガックリする。
「真面目に治療に取り組めば帰省までには治ると思うよ」
私のリハビリを担当してくれる筋肉整体医さんはシード先輩と仲がいい初老の男性で、私が無理して動かないようしっかり釘を刺してくれと頼まれたと笑いながら教えてくれた。
「あれはもはや過保護な父親か兄貴だね」
「はい。ペニンダさんからもらった勤務表にもしっかり『リハビリ』とありました。時間も今日と同じです」
「ははは! 夫婦揃って過保護だな!」
シード先輩からは釘刺し伝言。その妻であるペニンダさんからはリハビリが組み込まれている勤務表。過保護というより、こういうことへの私の信用がない事実でもある。そう思うと反省しかない。
初診の際の女性の筋肉整体医さんも近くにいて、「アナタは忙しすぎよ。少し休んでいいと思うわ」の言葉に自分を振り返る。
チビとの式典デビューに街デビュー、緑連豆の料理アレンジで地域貢献、チビのサプライズコンサート、チビの歌の発売……からの妖獣預かりフィーバーてんてこ舞い。その間には公になっていない伯父の事件もあった。
医務室には定期的にお世話になっているけれど、筋肉整体医さんたちのいるところには来たことがなくほぼ初めて会う人たちばかり。そんな方々に忙しすぎると見える私はやはり忙しいんだろう。
でも、私が忙しいということは妖獣世話班全員が忙しく、他の管理所職員も忙しいはず。苦笑いを返すに留めた。
「たかだか捻挫と考えて痛みを我慢して動かすと筋肉が変な風になるし、捻挫癖というか、繰り返し痛みが残ってしまうこともある。もう数日間は動かさないように気をつけて、その後にリハビリだね」
「はい」
松葉杖の調整もしてもらった。
脇の下に当たるところと手で握る部分にクッション性のあるものを巻いて厚さを調整。一番外側はガーゼ生地の布カバーで、これは洗える。
「リハビリ通院中はこっちで替えるけど、一応予備を一つ渡しておくね」
「ありがとうございます。明日もよろしくお願いします」
「ああ。気をつけて帰ってね」
リハビリを終えて松葉杖でひょこひょこと待ち合わせ場所である駐車場に移動する。来るときは松葉杖の当たる脇の下がけっこう痛くて、手で握るところもしっくりこなかったけれど、ほんの少しの調整でぜんぜん違う。
まだ自力で浮遊バイクに乗れないので、管理所まで連れてきてくれたのはサリー先輩。
先日、ダイランくんの様子をこっそり教えたらそれが嬉しかったらしく、山小屋から管理所のリハビリ室への運搬役を買って出てくれた。
車の中で話してきたが、母親のサリー先輩にも声をかける回数がちょこっとだけ増えた気がしないでもないという。まだ目を合わせてくれず、無表情でボソボソとした感じらしいけれど、私のところに配達に来るダイランくんはいい笑顔で接してくれる。
ダイランくん自身が何かの拍子に母親に対して作ってしまった壁。今は自分で作ってしまった壁の存在は認識していて、それを壊そうと決意したけれど、完全破壊はアルバイト代が入ったときになる。今はご馳走を食べに連れて行くサプライズを隠しているから母親に素っ気ない態度なんだと私はわかるけれど、これはサリー先輩に言えない。サリー先輩には「少しずつですよ」と返すに留めた。
昨日の夕方配達に来てくれたダイランくんが、母をどこに連れていこうか迷っていると相談してくれた。私も下の街のお店のことは多く知らなくて、こういう相談は出不精のリーダーも不向き。
けれど、ここで私はチビ大好き商会長さんというツテがあることを思い出した。思い切って商会長さんに連絡したら、そういうことならと五つ候補を教えてくれた。ご自身が経営する店以外も挙げてくれる平等さがあの商会長さんだと思う。
進級単位をクリアして学校に行く日が少ないので、ほぼ毎日草探しと草植えの手伝いもしている。草探しの手当が普段の手当よりも高いのでいい具合に貯まっているので、ちょっと背伸びをしたお店に行けそうだ。
ダイランくんと秘密にしていることを思い出すと自然と笑みが出てしまうけれど、サリー先輩の前でニヤけられない。我慢、我慢。
リハビリ室からひょこひょこと移動してやっと着いた駐車場ではニット先輩が待っていてくれた。
リハビリから山小屋への帰りはニット先輩が名乗り出てくれた。
ニット先輩は『G−I』草プロジェクトの実質的リーダーとして、草探し隊と草植え隊のいる場所に顔出ししていて、山小屋の裏手への行き来も増えた。
ニット先輩の背にエバンスくんがいるのも当たり前の光景となり、エバンスくんは泣きじゃくりを卒業し、今日もふんふんと両足をバタつかせてニット先輩の横腹を蹴っている。
「エバンスくん、こんにちは」
「ボボッボー! フンッフンッ」
謎の返事とともに激しい鼻息で見つめられた。
「ごめんよ。鼻水飛び出てない?」
「出てないです。すごく凝視されました」
「瞬きしないで凝視でしょ? 僕やカーラにもするけど、まだよくわからなくて」
何かの真似っぽいけれど私にもわからない。チラッと重機の操縦じゃないかと思うがどうだろう?
「そう言えばカーラがさ、幼年部二つのクラスで一気に特別授業実施するって。思い切ったこと決めたよね」
「参加できた子が学校で面白かったと自慢して、参加したいのにできなかった子と揉めたって聞きました。一つ上のクラスの子たちからも不満が出たんですよね?」
「うん。カーラも大変そうだけど、補佐してくれる人もいるし、何より楽しそうだからいいんだけど。職員住宅ができるあの辺りは機密もないし、所長もこのプロジェクトは推してくれてるから僕としてはありがた……っ! 痛っ! エバンス!」
「ブー! ボー! オー! ゴー!」
「機嫌がいいのはいいんだけど、腹を蹴っ飛ばすのを止めると泣きそうになるから困るよ」
「痛そうです」
「結構痛い」
エバンスくんがニット先輩の横っ腹を蹴っ飛ばす力も増している気がする。ドカドカ蹴っ飛ばされて痛そうだけれど微笑ましくもある。
駐車場で車にエバンスくんを先に乗せていたら、重音が近づいてきたので自然と視線が動いた。
「お! 来た!」
運ばれてきたのは昨年夏にリーダーが別荘と言っていたコンテナ型住居の類似のもの。あれより大きそうなものがどんどんと運ばれていく。
「部長がさ! 手配してくれたんだ!」
どうやら今年は山小屋の近くにニット先輩の別荘が建つらしい。え、何個来るの? 組み立てたら八世帯か十世帯が住めそうな賃貸住宅になりそう。
エバンスくんもせっかく幼児用補助席に座らせたのに、ジタバタと暴れたのでニット先輩が抱えて見せた。顔を紅潮させて「ふわぁ~、ほわぁ~」と目をキラキラさせているから、さっきの謎の言葉も重機の音かな。
部長さんに簡易分析部屋が欲しくて、部屋数のある大きいものを希望したらこれが手配されてきたという。
「あれとあれも連結したら本当に大きいですよね。あー、リーダーが住み着きそう」
「ははっ! それはもう織り込み済み。森林保全研究チーム用で買ってもらえたからね」
『G−I』詳細調査プロジェクトは重要案件で、こんなに大きなコンテナ型住居を手配して取り組めるほどの力の入れよう。熱弁した私も嬉しく、少しむず痒い。
山小屋の裏手の、私が足首を痛めた山道の上の拓けたところが『G−I』詳細調査の拠点になる。あの場所にも以前は建物があって、生活排水設備が生きている。それにけっこう広いから草畑も整備しやすい。分析用に草を植えて増やさないとならないし、森林保全研究チームとして山の中にあるほうが都合のいいことも多いと説明された。
臨時なら山小屋の空き部屋を使うのもありだけど、長い目で見ると職員寮から整備中の仮称職員村への引っ越しもあるし、これを機に森林保全研究チームは研究拠点を山小屋の裏手に移すとも教えてもらった。
「山小屋はリリカの住まいだからね。不特定多数の、とくに男どもが勝手に出入りするのはいかんと、部長が」
部長さんは私が山の中に一人住んでいることを気にかけてくれている。
以前に山小屋の移転の話があったのは断った。部長さんには誰かが近くに住んでいることに怯える感覚が生じたことも話し、私のトラウマをなんとなく理解してくれたけれど、だからと言って山の中に一人住まわせているのも心配だと言ってくれた。他にトウマとの関係が進んだときにどうするのかもあるので、近々での山小屋移動は保留としてもらった。
「リーダーはあれが設置されたら絶対住むと思うんだよね」
「ふふっ、そうですね」
「僕はエバンスがもう少し大きくなるまでは職員寮を使わせてもらうけど、たまに寝泊まりするようになると思うよ」
山小屋の裏手に人が出入りすることになるけれど、リーダーとニット先輩が所属する森林保全研究チームで、真っ先にリーダーが住み着くよと教えてくれた。想像できるので笑いが出る。
管理所の職員間では山小屋の裏手と言っているけれど、木々が生い茂り、お互いの建物から視認することはできないくらい離れている。
裏手に続く道の拡張工事は聞いていたけれど、コンテナ住居のことは聞いていなかったので、分析室もできたり、お願いしていた以上の広さのものを購入してもらえたとニット先輩も嬉しそう。
山小屋に至る道の拡張工事が済んだら、もう一つ道を作る計画もあるという。
山小屋の裏手に設置される森林保全研究チーム用のコンテナ住居の拠点から山小屋への分岐まで降りない仮称職員村に向かう直通ルートで、仮称職員村が正式に稼働し始める前に道と橋を作る計画も立ったと教えてもらった。
そんなこんなとニット先輩からの話を聞きながら、いつまでもコンテナを見ているわけにはいかなかったけれど、エバンスくんが釘付けで移動しようとすると大泣きになりかけ、結局重機がいなくなるまで見ることになった。
エバンスくんのさっきの様子で、謎の動きは重機じゃないかと言ってみたら、ニット先輩もなんとなくの納得の様子だった。
外の様子を見たがるようになったエバンスくんはニット先輩の背にいることも結構多い。仮設妖獣仮眠所にエバンスくんを背負っていくことも多くある。そうするともれなく仮称職員村の開拓を見ていたはずで、車に乗せたら「ゴウゴウ」と機嫌のいいエバンスくんの声は重機の音の真似にしか聞こえなくなってしまった。
山小屋に向かう道と裏まで登る分かれ道に近づいたら、重機の音がしてエバンスくんが大騒ぎ。
「アーーーーッ!」
「待てー、エバンスもう少しだから」
「アアアアーッ!」
「ニット先輩、あの分かれ道のところで」
「ウーーーッ! アーーーッ!」
「ごめんよ」
「いえ」
このまま山小屋に向かったらエバンスくんに恨まれそうな気配を感じて、車を岐路で止めてもらった。対向車もないし、なんなら片方の道は工事中。山小屋もすぐそこに見える距離で雨も降ってないから松葉杖で大丈夫。
ニット先輩の車が停車したら、何かの作業を手伝っていたチビが来た。
「おっかえり〜」
「ただい……」
チビの顔の下半分が泥だらけ。鼻の中まで土が入り込んでて、どうやって息をしているのか謎だが、嫌な予感がしてチビに近づかない。
「フンッ」
「うわあっ! チビー! 後ろからは反則だろー!」
「イェーイ!」
「いぇーいじゃねぇッ!」
チビは道の両脇に生えている低木の伐採手伝いをしていた。低木を根からごそっと抜くのに顔を地面に突っ込んで、根に噛みついてオリャーッと引き抜き、鼻に入り込んだ土などをフンッと出すときに工事職員さんたちに向かって飛ばしたので慌てて制止した。
「石が紛れ込んでて当たったら怪我するでしょ!」と怒っても、「ヘルメットに当たったらオレっちの勝ち」とよくわからないゲームの説明を言って反省の色がない。
そうかそうかとチビに顔を下げるよう言えば、ニコニコと寄ってきたので、足に踏ん張りが効かない私の代わりにニット先輩がチビの眉間を力いっぱいグリグリ攻撃。
「イーーーッ! ターーーッ!」
「チビッ、反省!」
「ニットもひどーーーいっ!」
「妖獣世話班は全員、妖獣を叱るのを躊躇わないし容赦ないのは知ってるでしょ! 手加減もしないよ!」
ニット先輩と二人でチビを説教し始めたら、チビのせいで土汚れだらけになっている工事職員さんたちがチビを庇う始末。仮称職員村の整備でもたまに遊び出すから多少のチビの奇行は許容範囲だと言ってくれる懐の深さ。
普段も何をしているのか。私とニット先輩が揃ってこめかみを揉みほぐしたのは仕方ないことだと思う。
土を飛ばすのもどうかと思うし、小石もフンフンと飛ばしていたのは絶対に危ない。
チビもしょんぼりと謝ったので、私とニット先輩もお手打ちとした。
「ニットの声が聞こえたがー? おーい! いるならこっちに来てくれー」
「ニット先輩呼ばれてます」
「草植え隊の取りまとめをお願いしてるユタ爺さんだと思う。じゃ行くね。リリカは無理しちゃだめだからな」
「はい。ありがとうございました。あ、エバンスくん預かりま……」
「ゴゴゴッ! ボンボン! ドー!」
エバンスくんは重機を見て目がきらっきら。エバンスくんを背負ったニット先輩だが、横腹は痣だらけじゃなかろうかと思う両足のフンフンバタつきに途中で言葉を飲み込んだ。
「……このまま背負ってくよ」
「……そのほうがよさそうですね」
「寝そうになったら預けに行くからよろしく」
「はい、いつでも」
ニット先輩は道の拡張工事の隙間を縫うように裏に登って行った。
少し工事の様子を見ていたら、道の拡張はかなりの急ピッチに進行しているのがわかる。
ふと見た空は灰色の雲が覆い尽くしていて、雨でぬかるんだりすると工事がしにくい。日中に雨は降らない予報だからできるところまで一気に進めたいんだろう。チビが地面に顔を突っ込んで低木を力任せに抜いているのはなかなか雑だが、無駄に大穴を開けるよりはマシなのかもしれない。
山小屋の玄関前の広場は工事職員さんたちが乗ってきた車でほぼいっぱい。山小屋より上の裏には車が入っていける道幅がなかったけれど、あの拡張工事の様子で小型車両がすれ違えるくらいの幅になりそうだ。
山小屋に入ろうとしたら、私は玄関扉の取っ手を握ってもいないのに勝手に開いた。
誰かトイレ休憩で使って出てくるのかな? と、少し下がって待ったけれど中途半端に開いたまま止まった。
「?」
……ゴトッ。
足もとから音がして視線を下げたら逆さになったボウルが歩いていた。
訂正。ボウルが這っていた。
「……スライム、ボウルを被ってどこ行くの?」
ゴト、ゴト、ゴト、ゴト。
私の声は聞こえているだろうに、無視してボウルを被って山小屋の玄関前の階段を這い下りるスライム。
私がフクロウ二号の異能に倒れてしまって入院していたときにニット先輩が見つけて連れてきてくれたときがこの姿だったんだろう。実際を見るのはこれが初めてで、逆さになったボウルが動いているのは物凄く奇妙な光景だった。
「おう? スライムまた通るのか? チビー、どうにかしてくれー」
道の分かれ道まで這っていくボウルを見送っていたら、そこにいた工事職員さんの一人がボウルを見つけてチビを呼んだ。
「今さっき戻ったばっかじゃん。また行くの? あっ! さっき上にニットが行ったよね! ニットに押し付けよ!」
チビが前脚でガシッとボウルを掴んで、バビュンと消えた。私が不在の間もスライムはボウルを被って何度も行き来していたらしい。
何をしているのか想像はつく。その想像が外れていればいいなと思いながら山小屋に入ったけれど、想像は現実だった。
リビングが草だらけ。
「な……」
草の小山が三つ。捨てたら怒るだろうし、足は動かしたくないし、もー!
「あー、リリカおかえり。トイレ借りたよー」
「はい、ぜんぜん大丈夫です」
玄関に入ってすぐに見えた草の小山に愕然としたら、奥のトイレからモラさんが来た。
工事職員さんたち用の簡易トイレを設置しきれず、部長などの許可をもらってリーダーに預けていた山小屋の鍵を借り受けて山小屋のトイレと台所を使っていると説明された。
問題ない。ここのところは寝るときしか鍵は閉めず、日中は開けっ放しにしている。
「閉めよう? 鍵で開けようとしたら閉まってなくて驚いたんだからね?」
「先輩たちが妖獣に振り回されて休憩時間が見通せないことが続いているので、鍵のスペアがなくてもいいように開けておくようになっちゃって」
「だめだって! 閉めようね! そういうときは鍵のスペアを人数分作ろう!」
貴重品は苔しかないし、大半の人は苔に興味はないし、大丈夫だと思うんだけど。
「あのね、耳に痛いこと言うけど、シャナイみたいな人がいないとも限らないって考えて? リリカに嫌がらせしようと考えて苔部屋に無理やり侵入されて全滅なんて嫌でしょ」
「今すぐスペアを作ります」
モラさんは貴重品が盗まれる可能性云々ではなく、嫉妬などの余波を真剣に心配してくれての進言だった。
シャナイが私の浮遊バイクにペンキをぶち撒けて解雇され、器物破損罪で更生施設に入っているのは管理所職員全員が知っている。あの事件以降、私に嫌がらせをしようとする人はいないと思いたいが、色恋沙汰以外にも妖獣の相棒というだけでも嫉妬されることはある。モラさんは緑連豆の貢献でも私の名前が上がるから、それらの何かからねじ曲がった悪意が生まれることを本気で心配してくれた。
私の感覚が甘かったと痛感し、業務中だけどこういうのは早いほうがいい。鍵のスペアを増やす手続きをした。
「ずっと言おうと思っていたんだよ。でもリリカんとこ使うのおたくの班だし、事情もわかっていたし。でもさ、裏っつーか上に出入りする人が増えるとまた違うじゃん」
「私が甘かったです。モラさん、ありがとうございます」
モラさん情報によれば、管理所職員でトウマに好意を寄せている人はゼロではないそうだ。だけど私とトウマの仲が完全に公で、傍から見ても本家のヴィスファスト家の方々が私を受け入れている。勝ち目のない戦はしないという感じで表面上はいないように見えて、トウマに想いを寄せている人はいるんだと教えてくれた。
「アタシもうっかり知っただけなんだけどサ。そんなことも聞いちゃったから、戸締まり! って思ったのよ」
「本当にありがとうございます。なんというか、山小屋に籠もってると聞こえてこないから考えてませんでした」
「近いから聞こえてきちまったけど、こればっかりは聞こえてきてよかったかもな。あ、そうだ、スライム」
「スライムならさっき出て行きましたけど」
「あー、そう。また出てったの? いや、アイツが出入りするたびに草がね。そんでなんでボウルかぶってんだか?」
モラさんもボウルを被って這うスライムに疑問符だが、私もさっき初めて見たのでわからない。
「山小屋に入ったら逆さまになったボウルが壁を動いててサ。驚いたよ。すぐにスライムだってわかったけどね」
「たまにボウルを被って動くんです」
「あのスライムもいろいろ変ね」
「そうですね」
考えてもしょうがない。被害はないので放置しようとなった。
「リリカが帰ってきたならアタシも草の手伝いに行くわ」
「言い出しっぺなのに手伝えないのが申し訳ないというか悔しいと言うか」
「なーにいってんの! あの精密分析のために分析室も最新の分析機器を入れてもらえることになってサ! もうリリカには感謝してんのよ!」
それは知らなかった。本当に大きなプロジェクトになってしまった。
未知を解き明かすのは、ある種ロマンがある。その先に発光苔の成長に繋がるなにかがあることを願おう。
評価や感想などを頂戴できましたら、執筆の励みになります。
引き続き、どうぞよろしくお願い申し上げます。
たまに活動報告も記しております。お時間があればご確認をお願い申し上げます。




