熱々ドリア編
「いらっしゃい」
昼時を少し過ぎた頃、扉に付いたベルが店内に響き、スーツ姿のサラリーマンが入ってきた。
店内には、古賀、大川、兵藤が同じテーブルを囲み、ランチをしながらくだらない会話に花を咲かせていた。
サラリーマンは席に座り、メニューをしばらく見つめていた。
メニュー表はマスターの手書き文字で作られた、写真もないシンプルなものだ。ページをめくっていると、一枚だけ写真の載った料理があった。サラリーマンはそれを見て、手を上げた。
「これください!」
マスターが確認に向かうと、彼は写真のページを指差し、『冬期限定 アツアツドリア』を注文した。
「かしこまりました。少々お待ちください」
マスターはお冷やとお絞りを置くと、厨房に引っ込んだ。
サラリーマンはお冷を飲みながらスマホをいじり始めた。
このカフェはコーヒーがメインだが、軽食メニューやデザートも用意している。
「少し前から始まったドリア、実は気になってたんですよ!今日食べれてよかったです。美味しい!」
古賀は限定という文字に弱く、ドリアを頼んでいた。熱々なので冷ましながらゆっくりと食べていた。
そんな古賀とは対照的に、大川と兵藤はすでに食べ終わっていた。大川はチキンサンドを食べ、兵藤はハンバーグ定食で、更にハンバーグを追加したものをあっという間に完食していた。
「兵藤さん、よく食べますね」
大川が最後の一口を口に入れる前にはすでに、兵藤は食べ終わっていた。
「仕事柄、体力使って腹が減るからな」
食後のコーヒーを啜り、まだ食べている古賀に顔を向けた。
「それ、冷ましてやろうか?」
「ドリアはアツアツがいいんですよ!」
「そりゃそうだ」
兵藤は笑いながらコーヒーを飲んだ。
数分後、サラリーマンのもとに、熱々のドリアが運ばれてきた。
「お待たせしました。熱いのでお気をつけください」
狐色に焦げたチーズが香ばしい匂いを放ち、濃厚なホワイトソースからは湯気が立ち上っていた。古賀たちの座るテーブルにも食欲をそそるいい香りが漂ってきた。
「おぉ、美味そう!いただきます!」
スプーンを入れようとすると、スマホが鳴った。サラリーマンは手を止め、スマホを耳に当てた。
「……はい。………え!?今からですか!?すぐに!?」
サラリーマンの声が小さな店内に響いた。通話を切り、がっくりと肩を落とした。
「ゆっくり食べたかったのに……」
スプーンを口に運んだ。
「あっつ!」
熱々のドリアはそう簡単に冷めるものではない。
その様子を見ていた兵藤は立ち上がり、カウンターに立つマスターに耳打ちした。それを聞いたマスターはサラリーマンのテーブルに向かった。
「お客様、少し冷ましましょうか?」
マスターはドリアを指差した。
「ホントですか?是非、お願いします!」
マスターはドリアのお皿を受け取り、厨房に戻った。兵藤はすでに厨房に入っているようだ。
待つこと数分、マスターがドリアを手に、戻ってきた。
「お待たせしました」
「ありがとうございます!」
サラリーマンは早速、ドリアを口に運んだ。ほんのりと温かさを感じる程度の温度になっており、あっという間に完食した。
「冷ましてもらってありがとうございました!急用ができて、ゆっくり食べる時間がなかったんです。助かりました!」
サラリーマンは急いで会計を済ませ、店を出ていった。
「…行ったか?」
兵藤が厨房から顔を出した。
「兵藤さんが冷ましたんですか?」
「おう」
テーブルに戻ってきた兵藤は、右手に保冷剤を握っていた。
「それ、どうしたんですか?」
大川がそれに気づき、尋ねた。
「いやぁ、ドリアって熱いんだな」
「さっきのお客さんのドリア、兵藤さんの異能で?」
「そうだぜ。俺の異能は容器に触れれば、中身の温度も変えられる。少しの間触ってないといけないけどな」
「……ドリアのお皿を触ってたんですか?」
古賀が少し呆れたように言った。
「……お人好しですね。手、大丈夫ですか?」
大川も保冷剤に目をやった。
「俺はお前たちより熱さに耐性があるから大丈夫だぜ。あのサラリーマンが喜んでくれたしな」
兵藤は気にすることなくテーブルについた。
しばらくすると、マスターが厨房から出てきて、兵藤たちのテーブルにやって来た。その手には、香ばしい匂いが鼻腔をくすぐる料理があった。
「兵藤さん、ありがとうございました。こちらをどうぞ、試作品です」
「気にしなくていいのに。ありがとな、マスター」
熱々ドリアのカレー味がテーブルに置かれた。
「これは、冷まさないでくださいよ」
大川が言った。
「そんなことしねぇよ」
「ふふ、私もご一緒してもよろしいか?」
マスターも席に着き、男四人で一つのドリアを分け合った。
古賀は商品化したらまた食べに来ようと思った。




