不思議な二人組編
「寒い〜」
少女は手袋をはめた手をこすり合わせ、マフラーを鼻まで上げた。雪が降りそうな重い雲が空を覆っていた。
「あ、あそこで休憩にしようよ!」
少女はあるカフェを指さし、後ろを歩いている男の方を向いた。その人物はめんどくさそうな顔をした。
「…おじさん、コーヒー好きでしょ?」
店先からかすかにコーヒーの香りが漂ってきた。
「…仕方ねぇな」
店内にベルの音が響いた。暖かい空気が二人を包み込んだ。
「いらっしゃい」
「いらっしゃいませ~」
マスターとバイトの少年がお客を迎えた。
店内で大川、兵藤と雑談をしていた古賀は、何気なくドアの方に顔を向けた。
ドアを開けたのは中学生くらいの女の子だった。少女の後ろから黒ずくめの中年男が入ってきた。
「あ!」
古賀は思わず声を上げた。
「あ?」
男もその声につられ、顔を上げた。二人の視線が重なった。
「便利屋さんじゃないですか!」
古賀は男を指さした。
「便利屋ってあの、手紙の?」
「そうです、そうです」
隣にいた大川に古賀は頷いた。
「おじさんの知り合い?」
「仕事の客だ」
少女が尋ねると、便利屋はめんどくさそうに答えた。
「こちらのお席にどうぞ〜」
バイトは二人を、古賀たちのテーブルの隣に案内した。
古賀は関係性がよくわからない二人から目を離すことができなかった。
「こっちをじろじろ見るな」
「すみません!」
二人はマフラーや手袋を外し、メニュー表に向き合っていた。
「どれも美味しそう。…どろ、おじさん!これ食べたい!」
(どろ?どろってなんだ。泥?)
「さっき、飯食っただろ」
「甘いものは別腹なの!」
「…好きにしろ」
(このおっさん、顔怖いのに意外と優しいのか?)
古賀と兵藤は二人のやり取りに耳を傾けていた。
「よし、決めた!すみません!」
少女が手を上げた。
「これとブレンドコーヒーブラックでください!以上で!」
「はい。少々お待ちくださいね」
注文を聞いたバイトの少年は厨房に戻った。
「おじさんの注文はあれでよかったよね」
「あぁ」
(この二人、仲良しじゃん)
「お待たせしました~」
しばらくすると、少女の前に特製プリンが置かれた。プリンの周りには生クリームとフルーツが盛り付けられている。
「わぁ、おいしそう!…おじさん、一口いる?」
「一人で食え」
便利屋はプリンと一緒に届いたコーヒーを啜った。苦味と香ばしさが口に広がり、満足気に小さく頷いた。
「美味しい!」
少女はニコニコとプリンを頬張った。便利屋は嬉しそうにプリンを頬張る少女を一瞥し、再びコーヒーに口をつけた。
隣のテーブルに座っている古賀と兵藤は便利屋と少女の方をチラチラと見ていた。
「…おい、じろじろ見るなと言ったよな」
便利屋はコーヒーを置き、睨みつけた。古賀は便利屋の眼光にビビりながらも尋ねた。
「す、すみません。でも、お二人はどんな関係なのかなぁ、と」
「どんな関係に見える?」
少女が笑って尋ねた。
「えっと、親戚?」
「違うよ」
「親子でもないですよね」
「うん」
「じゃあ、おっさん誘拐犯か!?」
「んなわけあるか、居候だ」
「初対面の人に誘拐犯って、失礼ですよ!」
大川が兵藤の頭をはたいた。
「居候!?二人で住んでいるんですか!?」
古賀の声は店内に響いた。
「でかい声出すな。こいつが俺ん家に居候してるだけだ」
「いろいろあったからね〜」
少女はニコニコ笑っていた。
「美味しかった!また来るね!」
少女は古賀たちに手を振って、二人は帰って行った。
「居候って、どんな関係なんですかね、あの二人」
「謎だ…」
三人は頭を悩ませた。
「でも、あの女の子も笑ってたし、便利屋さんがあの子を見る時の目、優しそうでしたね」
古賀は呟いた。
「そうか?」
「兵藤さんは鈍いから…」
「おいしかったね!」
「…悪くなかったな」
「また来てもいい?」
「好きにしろ」
寒空の下を二人は並んで歩いた。




