Scene 5 王都で嫌われた理由
ハロルドは、しばらくレティシアを見ていた。
やがて、ゆっくりと口を開く。
「……何を言った?」
「何を?」
「王都で、お前が何を言ったのかだ」
レティシアは少し考えた。
そして、淡々と答える。
「間違っていることを、間違っていると言ったわ」
「ほう」
ハロルドの眉がわずかに動く。
「仕事を押し付けるな、とも言った」
「なるほど」
「責任者は責任を取れ、とも」
「……」
今度はハロルドが黙った。
レティシアは構わず続ける。
「約束を守れ、とも言ったわ」
ハロルドの口元が、ほんの少しだけ動いた。
笑ったのか。
それとも、何かを考えたのか。
レティシアには分からない。
「他には?」
「他?」
「まだあるのだろう?」
レティシアは少しだけ首を傾げた。
「……無理なものは無理、と言ったわ」
「ほう」
「それから――」
一瞬だけ間を置く。
「嫌なものは嫌だ、とも」
「…………」
今度こそ、ハロルドは完全に黙った。
レティシアも黙る。
ニーナは何も言わない。
三人の間に、静かな時間が流れた。
やがてレティシアが、小さく呟いた。
「……それが悪かったのかしら?」
ハロルドはすぐには答えなかった。
しばらくしてから、低い声で言う。
「王都ではな」
「……でしょうね」
レティシアは微笑もうとした。
けれど、うまく笑えなかった。
視線が少しだけ落ちる。
王都では。
それを言えば、嫌われた。
それを言えば、怖い女だと言われた。
自分の考えを口にすれば、わがままだと言われた。
誰かに無理をさせられれば、それは仕方のないことだと言われた。
だから。
自分の中にあるものを、一つずつ押し込めていった。
怒らないように。
反論しないように。
嫌われないように。
――それでも、追放された。
「……変な話ね」
レティシアは小さく笑った。
「自分を守ろうとしていただけなのに」
その声には、ほんの少しだけ寂しさが混じっていた。
ハロルドは何も言わない。
ただ、先ほどまでとは少し違う目で、レティシアを見ていた。




