Scene 2 辺境伯の屋敷
辺境伯邸に到着したレティシアは、玄関をくぐったところで足を止めた。
「…………」
王都の貴族邸とは、明らかに違う。
豪華な絨毯や高価な調度品が並んでいるわけではない。
廊下の壁には、剣や槍といった武具が飾られている。
その隣には、このグランフェル一帯を描いた大きな地図。
さらにその先には、領地の収穫量や鉱山の産出量らしき数字が書かれた資料が積まれていた。
「……随分と実用的なのね」
レティシアが呟く。
「王都とは違いますね」
後ろを歩くニーナも、周囲を見回している。
そのとき、一人の使用人が二人の横を急ぎ足で通り過ぎた。
「失礼します!」
「南側の村から報告書が届きました!」
「こちらへ!」
さらに別の使用人が書類を抱えて駆けていく。
誰もが忙しそうだった。
けれど、慌ただしいというより――。
必要な仕事を、必要な人間が黙々とこなしている。
レティシアは壁の地図を見上げた。
そこには村の位置だけでなく、川や山道、鉱山、魔獣の出没地域まで細かく記されている。
(……ここでは、見栄より仕事なのね)
王都では、屋敷そのものが家の格を示すものだった。
どれだけ美しいか。
どれだけ高価なものを置いているか。
誰が訪れても恥ずかしくない場所か。
けれど、この屋敷は違う。
ここにあるものは、すべて何かの役に立つために存在しているように見えた。
「お嬢様」
ニーナが声をかける。
「何?」
「応接室はこちらです」
「……ええ」
レティシアは小さく頷いた。
そして、廊下の先へ進む。
この屋敷の主。
グランフェル辺境伯、ハロルド。
一体、どんな人物なのか。
その答えを知るのは――もうすぐだった。




