Scene 12 黒薔薇館の住人
住民たちが帰ったあと。
黒薔薇館の庭には、レティシアとニーナ、そして魔獣だけが残っていた。
魔獣はいつものように、レティシアの横に座っている。
「…………」
レティシアは魔獣を見下ろした。
「そういえば」
「はい?」
「あなた、名前がないわね」
「そうですね」
魔獣が首を傾げる。
レティシアは腕を組んだ。
「ペットなのだから、名前くらい必要でしょう」
「確かに」
「……何かいい名前はないかしら」
レティシアは魔獣の黒い毛並みを見る。
黒い毛。
黒い瞳。
そして、黒薔薇館。
「……ノワール」
「ノワール?」
「ええ」
レティシアは満足そうに頷いた。
「黒薔薇館に住んでいるんだもの。黒にちなんだ名前がいいでしょう?」
魔獣はしばらくレティシアを見つめる。
「…………」
「どう?」
「クゥ」
小さく鳴いた。
レティシアの顔が明るくなる。
「気に入ったようね」
「本当にそうでしょうか?」
「いいのよ。私が気に入ったから」
「…………」
ニーナは何も言わなかった。
魔獣――いや、ノワールは立ち上がると、レティシアの周りを一周する。
そして再び、彼女の隣に座った。
「ふふ」
レティシアはその頭を撫でる。
「今日からあなたはノワールよ」
「クゥ」
「よろしくね、ノワール」
「クゥ」
こうして。
黒薔薇館には、新しい住人が一人――いや、一匹増えた。
追い出されるはずだった魔獣は。
いつの間にか、この屋敷の住人になっていた。




