Scene 11 辺境の人々の反応
### Scene 11 辺境の人々の反応
庭に座る魔獣を前に、住民たちはしばらく顔を見合わせていた。
レティシアは、てっきり大騒ぎになると思っていた。
「……魔獣がいるんですよ?」
「そうだな」
「しかも、かなり大きいですよ?」
「そうだな」
「私のペットです」
「それも聞いた」
「…………」
どうやら、反応が薄い。
レティシアは少し困惑した。
すると、一人の住民が魔獣を眺めながら言った。
「まあ……人を襲ってないならいいんじゃないか?」
「え?」
「黒薔薇館に魔獣がいるって分かれば、夜に近づかなくて済むしな」
「なるほど」
別の住民も頷く。
「むしろ幽霊より分かりやすい」
「幽霊より?」
「幽霊はいるかどうか分からんだろ」
「魔獣はいると分かってるからな」
「確かに」
「確かに、じゃないでしょう!」
レティシアが思わず声を上げる。
住民たちは不思議そうな顔をした。
「何をそんなに驚いてるんだ?」
「……誰も驚かないの?」
「辺境だぞ?」
「魔獣くらい珍しくない」
「危険なら対策すればいい」
あまりにもあっさりした答えだった。
レティシアは魔獣を見る。
魔獣は何事もなかったかのように座っている。
「……王都なら、絶対に違うわ」
「そうなんですか?」
ニーナが尋ねる。
「ええ」
レティシアは頷いた。
「王都で魔獣を飼っているなんて言ったら、それだけで非常識だと言われるでしょうね」
危険。
不吉。
品位がない。
貴族令嬢がすることではない。
きっと、そんな言葉が次々と飛んでくる。
けれど。
ここでは違った。
「危険じゃないならいい」
「危険なら対策する」
「役に立つなら使えばいい」
住民たちの考え方は、とても単純だった。
けれど、その単純さが妙に合理的でもあった。
レティシアは少し考える。
王都では、まず「どう見えるか」を考える。
けれど辺境では――。
「……何ができるか、なのね」
「そういうことだな」
住民が笑う。
「魔獣だからって、何でもかんでも怖がる必要はないだろ」
「まあ、襲ってきたら話は別だが」
「そのときは対策すればいい」
レティシアは黙って頷いた。
自分が王都で「悪い部分」と呼ばれていたもの。
怒ること。
言いたいことを言うこと。
おかしいと思ったら、おかしいと言うこと。
誰かに合わせるだけではなく、自分で判断すること。
ここでは、それを悪いとは言われなかった。
むしろ。
「レティシア様なら、こいつの面倒も見られそうだな」
「……私?」
「水路も直したんだろ?」
「まあ……そうだけど」
「なら大丈夫だ」
あっさりと信頼される。
レティシアは少しだけ目を丸くした。
そして、隣に座る魔獣を見る。
「……あなたも、随分と得をしたわね」
「クゥ」
「私が飼い主で」
「…………」
「……今のは同意よね?」
ニーナが横から口を挟む。
「たぶん違います」
「あなたは本当に夢がないわね」
「現実を見ているだけです」
住民たちから笑い声が上がった。
レティシアも、つられるように笑った。
王都とは違う。
ここでは、少し変わっていてもいい。
自分のやり方で動いてもいい。
そんなことを――。
レティシアは、ほんの少しずつ理解し始めていた。




