Scene 10 翌朝
翌朝。
黒薔薇館の前には、数人の住民が集まっていた。
どうやら昨夜の騒ぎを聞きつけて、様子を見に来たらしい。
「昨日、また魔獣の声が聞こえたぞ」
「レティシア様、大丈夫なのか?」
「使用人たちも心配してたらしい」
口々に話しながら、屋敷の様子を窺っている。
すると。
庭の奥から、何かがゆっくりと歩いてきた。
「…………」
黒い毛。
大きな身体。
鋭い爪。
そして、あまりにも目立つ巨大な魔獣。
「……魔獣がいるぞ!」
「危険じゃないのか!?」
住民たちが一斉に身構える。
その声を聞いて、屋敷からレティシアが出てきた。
「朝から騒がしいわね」
「レティシア様!」
「その魔獣は大丈夫なんですか!?」
レティシアは不思議そうに魔獣を見る。
そして、何でもないことのように言った。
「私のペットよ」
「「「…………」」」
庭に沈黙が落ちた。
住民たちは魔獣を見る。
もう一度、レティシアを見る。
そして、また魔獣を見る。
「……ペット?」
「ええ」
「この魔獣が?」
「そうよ」
ニーナが後ろから出てきた。
「昨日までは屋敷から追い出す予定だったんですけどね」
「お嬢様?」
「事情が変わったのよ」
レティシアは当然のように答える。
魔獣がその横まで歩いてくる。
そして。
どすん。
レティシアの隣に座った。
「…………」
「…………」
「…………」
住民たちは、再び固まった。
魔獣は大人しく座っている。
レティシアはその頭を軽く撫でた。
「ほら。大人しいでしょう?」
「いや……」
住民の一人が困ったように答える。
「大人しいかどうか以前に……」
「何?」
「……魔獣をペットにする令嬢なんて、聞いたことがない」
「そう?」
レティシアは首を傾げた。
「私は初めて聞いたわね」
「お嬢様、それはそうでしょう」
ニーナがため息をつく。
住民たちは顔を見合わせた。
昨夜まで。
黒薔薇館には恐ろしい魔獣が住み着いていると思っていた。
だから、新しく来た令嬢が無事なのか心配していた。
それが今では――。
「……本当にペットなんですか?」
「ええ」
「噛みません?」
「たぶん」
「たぶん!?」
レティシアは魔獣を見る。
魔獣もレティシアを見る。
「ね?」
「クゥ」
「ほら」
「今のは何の返事なんですか……」
ニーナの呆れた声が、朝の黒薔薇館に響いた。
住民たちは、まだ状況を理解できていなかった。
ただ一つ分かったことがある。
黒薔薇館の新しい住人は――。
どうやら、魔獣と友達になるつもりらしい。




